産業技術総合研究所と東京大学、筑波大学、東京理科大学の共同研究チームは、通常は長い時間を要するタンパク質の水和変化が、サブテラヘルツ波(テラは10の12乗=1兆)の照射により、大幅に加速されることを発見した。このことは、タンパク質の構造や機能の発現に不可欠な水和現象をサブテラヘルツ波によって制御できることを示唆しており、酵素反応の活性化や飲食料品の保存や熟成の技術、タンパク質異常疾患の研究などにつながりそうだ。
産業技術総合研究所と東京大学、筑波大学、東京理科大学の共同研究チームは、通常は長い時間を要するタンパク質の水和変化が、サブテラヘルツ波(テラは10の12乗=1兆)の照射により、大幅に加速されることを発見した。このことは、タンパク質の構造や機能の発現に不可欠な水和現象をサブテラヘルツ波によって制御できることを示唆しており、酵素反応の活性化や飲食料品の保存や熟成の技術、タンパク質異常疾患の研究などにつながりそうだ。 水和とは、タンパク質などの溶質分子やイオンとの相互作用により、それらを取り囲む水分子集団の運動や水素結合構造が純水中の状態から変化する現象を指す。抗体などのバイオ医薬や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で話題になったPCRなどの酵素反応をはじめ、タンパク質の機能を積極的に利用するさまざまな場面において、水和の不均一性を理解することが課題となっている。 研究チームは今回、高強度のサブテラヘルツ波(0.1THz)パルスを発生できるクライストロン光源(高周波の出力を大幅に増幅して発振する装置)を用い、シリコーン素材の平皿の底部からサブテラヘルツ波を照射しながら、タンパク質水溶液のマイクロ波帯の誘電率を測定するシステムを開発。卵白リゾチーム(細菌の細胞壁を構成する多糖類を分解する酵素の一種)粉末を用い、水と乾燥リゾチームが出会ってから、安定な水和構造ができるまでの変化を誘電率の変化として詳しく調べた。 その結果、通常は数時間から1日程度の時間が必要になるリゾチーム水和構造の安定化が、サブテラヘルツ波を照射すると数分で終了することを発見した。このようなタンパク質水和がゆっくりと進行する変化や、サブテラヘルツ波照射が与える影響は、これまで詳しく調べられたことがなく、今回の方法を用いることで初めて明らかになったという。研究論文はネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に2023年5月22日付けで掲載された。(中條)