神戸大学、静岡県立大学、京都府立医科大学の研究グループは、非アルコール性脂肪肝炎が、脂肪組織でインスリンが効かなくなることで発症することを明らかにした。非アルコール性脂肪肝炎は肥満者に多い慢性肝疾患で、肝硬変や肝臓がんに進行することもあるが、原因は十分には解明されていなかった。
神戸大学、静岡県立大学、京都府立医科大学の研究グループは、非アルコール性脂肪肝炎が、脂肪組織でインスリンが効かなくなることで発症することを明らかにした。非アルコール性脂肪肝炎は肥満者に多い慢性肝疾患で、肝硬変や肝臓がんに進行することもあるが、原因は十分には解明されていなかった。 研究グループは、インスリンの代謝作用をもたらす「PDK1」と呼ぶタンパク質が働かないようにしたマウス(脂肪組織インスリン抵抗性マウス)に脂肪・コレステロール・フルクトース(果糖)を過剰に含む飼料(GAN食)を16週間投与し、通常食を与えた普通のマウス、GAN食を与えた普通のマウスと比較した。 普通のマウスをGAN食で飼育すると、通常食で飼育したマウスに比べて肝臓の炎症や線維化に関係する遺伝子の量が増加した。一方、脂肪組織インスリン抵抗性マウスをGAN食で飼育すると、GAN食で飼育した普通のマウスに比べて、肝臓の炎症や線維化に関係する遺伝子の量が増加し、非アルコール性脂肪肝炎が進行した。この結果から、脂肪組織でインスリンが効かなくなることによって、GAN食が誘導する炎症と線維化を悪化させ、肝病変を進展させることが分かった。 本来、インスリンは脂肪組織において余剰な栄養を脂肪として蓄える働きがある。しかし、脂肪組織にインスリン抵抗性があると、脂肪組織に脂肪を蓄えることができず、脂肪組織から肝臓に遊離脂肪酸が流れ込み、肝臓の脂肪沈着や炎症、線維化が進行し、非アルコール性脂肪肝炎が進展する。 脂肪組織のインスリン抵抗性が肝臓の炎症と線維化を悪化させる別の仕組みとして、脂肪組織が分泌し、全身の臓器に作用する「アディポカイン」という因子が挙げられる。今回の研究では、脂肪組織インスリン抵抗性マウスの脂肪組織において、90種類以上のアディポカインの量が変化することも確認された。アディポカインの量の変化が肝臓の炎症や線維化を促進させる可能性が考えられるという。 研究成果は5月23日、ヘパトロジー・コミュニケーションズ(Hepatology Communications)誌にオンライン掲載された。脂肪組織インスリン抵抗性によって量が変化するアディポカインの量や作用を調節できれば、非アルコール性脂肪肝炎の新しい治療法の開発につながる可能性があるとしている。(笹田)