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佐々木喜洋のポータブルオーディオトレンド 第191回

KORG Live Extreme技術を活用したバイノーラル録音の配信を体験

2023年05月22日 13時00分更新

文● 佐々木喜洋 編集●ASCII

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ステージの全景

 コルグ(KORG)のLive Extreme技術を用いた世界初のDSD生配信を過去に紹介した。ライブ配信の音質向上という意味で画期的なものだったが、また新たな試みがあった。

 DSD配信とバイノーラル録音を組み合わせた配信だ。

 バイノーラル録音はダミーヘッドマイクを活用し、リアルな音場再現を可能にする技術だ。和歌山県LURU HALLで開催したライブ「岸本亮 1st Album “Solid State Outsider” Release Tour」の配信である。サザン音響製ダミーヘッドマイクを独自にカスタマイズした世界に1体だけのバイノーラルマイクで収録した音を配信したそうだ。

 DSDによるバイノーラル配信は初ということで、より自然に空間の響きや音の広がりが伝わるように、ダミーヘッドマイクで収音した音のみで配信した。マイク位置は、客席の最前列よりも少し前にあり、ピアノの反響板から響く音が綺麗に聞こえるポイントに微調整して収録しているそうだ。

ピアノのメーカー名まで分かるよう

 筆者はAppleのM2搭載「MacBook Air」にスティック型のUSB DACのiFI audio「Go bar」を接続し、Campfire AudioのマルチBA型イヤホン「ARA」を使用してこのライブを聴いた。以前に紹介したDSDライブ配信の記事と同様の環境だ。

 前回のDSDライブ配信では、さまざまな楽器を組み合わせた前衛的な演奏だった。今回の配信はアコースティックピアノのソロであり、DSDネイティブ再生ではピアノの音が驚くほどリアルに感じられた。

 これは聞いているピアノのメーカーがはっきりとわかるレベルで、使用されているスタインウェイの透明で華やかな美しい音色がハッとするほど素晴らしく感じられた。ただ音を聞いているだけで心地よく、素晴らしい音質だ。バイノーラル録音のせいか、観客席にいるよりもステージに近くなったような臨場感も感じた。もちろん音が素晴らしいのは、ステージの音響が優れていることもあるだろう。

 Live Extremeの配信フォーマットをDSDからPCMに変えてみた。この状態でもやはり音の解像度が高いのはわかるが、リアルさや音色の再現性で本物らしさが失われてしまう気もした。ヤマハとスタインウェイの違いを言い当てるのは難しいかもしれない(依然としてベーゼンドルファーとの違いは明確だと思うが)。DSDとPCMの違いは、こうした楽器の音色再現力と言う意味で、アコースティック楽器の方がより明確だと思う。

 岸本亮氏は私も好きなピアノトリオ・バンドFox Capture Planのメンバーであり、Fox Capture Planの代表的な曲である「疾走する閃光」のピアノソロバージョンをこのリアルさで楽しめたのがちょっと感動的だった。

 ちなみに音質確認のテスト用に用意されていた、上高地の自然を動画に収めた音源だと、finalの「E500」とARAではE500のほうが、バイノーラル録音らしく自然でリアルに聞こえる。ただ、ライブのような音楽では高性能なARAのほうが、音色の再現が大きく優れている。なるべくなら、音楽ライブはハイエンド環境で聞いた方がいいと感じた。このあたりの感覚は、興味深いし、まだまだ研究しなければならないと思う。

 Live Extremeの技術はリモート環境でのライブ視聴の画期的なターニングポイントになるだろう。ただし、ユーザー側にとっても単に聞き流すのではなく、オーディオを聞いているのと同じように「自分で再生環境を整える」という意識が必要になると思う。

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