2023年3月24日、ケースディスカッション形式でB2B分野のコミュニティ施策について学ぶ「CMCアカデミー」が初開催された。エンタープライズ企業が参加したE-JAWSの事例を元に、意思決定の追体験をするというイベントの趣旨にあわせて、参加者たちは積極的に意見を交わした。
あのときを追体験し、意思決定に役立てる ケースはE-JAWS
CMC_MeetupはB2B分野で一般的な手法になってきたコミュニティマーケティングの可能性について情報の発信や共有を行なうコミュニティ。都内のみならず、大阪や福岡などでも活動を行なっており、ランチイベントや屋形船の貸し切りなどユニークなイベント形態も展開している。そんなCMC_Meetupがチャレンジする新形態のイベントが、今回のCMCアカデミーになる。
イベントは目黒のprimeNumberのイベントスペースで実施。おおよそ50名近くが集まり、3~4人のテーブルを囲んで着座。CMC_Meetupの主宰である小島英揮氏の挨拶に続いては、イベントのコアとも言えるディスカッションをファシリテートするAsana Japanの長橋明子氏が登壇した。
CMCアカデミーはビジネススクールで採用されている「ケースディスカッション」という形式を採用する。実際のビジネスで主人公が直面する意思決定を、参加者自らの視点で追体験することで、自分ならこう行動する」という姿勢を身につけるものだという。今回のケースは戦略とコミュニティが結びついた事例として、小島氏が仕掛けたAWSのエンタープライズ向けユーザーコミュニティE-JAWSを取り上げる。
参加者はあらかじめケースと課題を読了し、当日に自身の考えを述べるという形で能動的に参加することが求められる。単に登壇者の発表を聴講するのみではなく、参加中のグループ内でアウトプットしなければならないため、ハードルは高い。今回のイベントもB2B分野でのコミュニティ構築や運営に本気に取り組んでいる人が対象となり、IT系を中心とした多くのマーケティング・営業関係者が集まった。
コミュニティの担当者は概して「たまたまやったらうまくいった」「上司や社内の理解を得られない」「コミュニティの成果を説明できない」などの経験を持っているが、本来は合理的な経営判断でコミュニティ施策を実施し、それがビジネスの成果に結びつくのが望ましい。過去にITベンダーの立場でコミュニティを立ち上げてきた経験を持つ長橋氏は、「事業戦略におけるベンダーコミュニティの価値を明らかにしたい」と考えた結果、WBS(早稲田ビジネススクール)でMBAを取得することにしたという。
普及期におけるエンプラ向けコミュニティの役割
2013年に発足したE-JAWS(Enterprise-Japan AWS user group)はAWSのユーザーコミュニティであるJAWS-UGのエンタープライズ版とも呼べるコミュニティで、国内の大企業でのAWS採用に大きな役割を果たしている。個人で参加するJAWS-UGと異なり、法人(企業)として参加するコミュニティで、イベント内容が非公開という特徴を持つ(関連記事:なぞだらけのE-JAWS、非公開だからこその深い議論が魅力)。
長橋氏は、自己紹介とケースを読んでの感想を共有してもらった後、「AWSが日本市場に参入した初期のマーケティング戦略において、コミュニティはどのような役割を果たしたでしょうか?」というテーマで、グループ内でディスカッションをスタートさせた。続いて、市場創造におけるコミュニティを理解すべく、以下のテーマについて参加者と登壇した。
・AWSの日本参入時のクラウド市場は?
・コミュニティが果たした役割は?
・初期のコミュニティリーダーはどんな人?
・コミュニティ自走のポイントは?
・E-JAWSは必要だったか?
ポイントは、あくまで「意思決定の追体験」であること。つまり、当時の動向を知っていることに意味はなく、参加者が小島氏と同じ立場だったら、どのような意思決定をするのかが重要だということ。そしてディスカッションに必要なのも、意思決定に必要な動向を掘り下げる能力だ。
これを掘り起こすために、長橋氏は「市場の競合はどうだったのか?」「当時のユーザーの疑問はどうだったのか?」「コミュニティとマーケティング施策とどのように連携したのか?」などを参加者にガンガン問いかける。すでに小島氏の本やブログ、そして今回のケースを読んでいる参加者の多くは、自らの仮説を次々と披露することで、なぜE-JAWSというコミュニティに行き着き、どのように経営者に説明し、どのように運営していったを自分事として考えることができたようだった。
長橋氏は、「E-JAWSという形がよいとオススメするわけではないが、JAWS-UGとE-JAWSは真反対のように見えて、アウトプットファーストは共通している。JAWS-UGは外へ、E-JAWSは中へとアウトプットしている。対象が違うので、やり方が違う。1つのプロダクトのコミュニティとして、目的は同じだけど、Howが違うというのはとても参考になると思う」とまとめた。個人的には、当時の自分が持っている市場やユーザー動向と、参加者の認識がずいぶん異なっているのに驚いた。
最後の小島氏の講評では、「コミュニティマーケティングを安価なマーケティング手段だと誤解している人もいる」「ゴールを意識してコミュニティを設計しないと、形をトレースするだけでは上手くいかない」「2013年にE-JAWSができたのはゲームのやり方が変わったから」などと指摘。Objective(勝利条件)への近道は、Who(誰に)×What(何を)×How(どうやって)をきちんと因数分解するマーケティング思考だと説明した。