京都大学の研究チームは、ヒトのモデルとしてカニクイザルの胚性幹細胞(ES細胞)から、減数分裂期の卵母細胞(卵子になる前の雌性生殖細胞)を試験管内で誘導することに成功。種々の解析により、当培養方法で得られた卵母細胞が、サル胎児卵巣の卵母細胞と類似していることを示した。
京都大学の研究チームは、ヒトのモデルとしてカニクイザルの胚性幹細胞(ES細胞)から、減数分裂期の卵母細胞(卵子になる前の雌性生殖細胞)を試験管内で誘導することに成功。種々の解析により、当培養方法で得られた卵母細胞が、サル胎児卵巣の卵母細胞と類似していることを示した。 研究チームは、カニクイザルES細胞由来の始原生殖細胞様細胞(生殖細胞の起源にあたる細胞に非常によく似た細胞)をマウス胎児の卵巣体細胞と凝集させたのち「気相液相界面培養」を実施。そこから得られる卵原細胞(胎児期のごく初期に見られる雌性生殖細胞)を新たにマウス胎児の卵巣体細胞と再び凝集させ、気相液相界面培養したところ、約4カ月で減数分裂期の卵母細胞が誘導されることがわかった。 さらに、サル再構成卵巣法より得た卵母細胞の単一細胞遺伝子発現解析を実施し、この細胞がカニクイザル胎児卵巣の減数分裂期卵母細胞と類似していることを確認した。研究グループは以前、試験管内でヒト多能性幹細胞(iPS細胞)から卵原細胞を誘導する培養系を報告したが、効率よく卵母細胞へ分化を進める培養系は確立できていなかった。 今回の研究成果は、霊長類の雌性生殖細胞発生の分子機構の解明や、不妊症などの疾患機序の解明および治療戦略開発への応用が期待できるという。研究論文は、国際学術誌エムボ・ジャーナル(EMBO Journal)オンライン速報版に2023年3月16日付けで掲載された。(中條)