驚くことにAntelope Audioからスティック型DACが発表された。製品名は「ZEO」だ。
なぜ驚いたかというと、Antelope Audioはスタジオで使用するようなUSB DACで知られるプロオーディオメーカーであり、スティック型DACというコンシューマーライクなイメージと容易に結びつかなかったからだ。
一見普通の外観だが、高精度クロック技術を搭載
ZEOは片側にUSB Type-C端子、もう一方に3.5mmイヤホン端子を持つシンプルなスティック型DACだ。流行りの4.4mmバランス端子はさすがに採用されていない。筐体はCNC切削のアルミ製で、見た目よりは頑丈そうだ。130dBのダイナミックレンジ、DoPによるDSD128までのネイティブ再生が可能、と性能面では優れている。
また、出力インピーダンスが10Ω以下であり、イヤホンのドライブに優れていることがうかがえる。普通のメーカーであれば大事をとって、もっと大きな値にすることが多い。わりとマニアックな設計をしている点から、ポータブルオーディオの世界にも意外と造詣が深いことが推測できる。
ZEOの特徴は、AFC(Acoustically Focused Clocking)という、Antelope Audio独自のクロック技術を搭載していることだ。Antelope Audioを一躍有名にしたのがクロック技術である。デジタル技術の肝はクロックであり、それを正しく制御することが正確な音の再生にも繋がる。例えば、デジタルオーディオにはクロックのタイミングが揺らぐジッターという問題があり、これを制することで高音質を得ることができる。Antelope Audio社のAFCは64bit技術を用いている。プロ用のマスタリングに使用されるような精度の高いクロック制御の技術である。これが3万円ほどのコンシューマー機に搭載されたことは画期的でもある。
ZEOはAntelope Audioのオンラインストアで291ドル(3万9650円程度)で販売されている。Antelope Audio製ということを考えるとそう高価には思えない価格設定だ。
意外と多い、コンシューマーブランド以外のスティックDAC
Antelope Audioと言えば、約10年前、PCオーディオが華やかりしころ、コンシューマオーディオの世界でUSB DACの「Zodiac」が話題となった時期があった。これも優れたクロック制御技術を特徴とした大変に音のいいUSB DACで、わたしも当時来日したAntelopeのイゴール・レヴィンCEOに雑誌取材でインタビューしたことがある。
その時、当時話題だったDSDのネイティブ再生の採用について尋ねたが、あまり良い返事は得られなかった。しかし、程なくしてAntelope AudioもDSDネイティブ再生に対応した。それを考えると、あまり意地を張らずに時代の流れに敏感なメーカーでもあるのだろう。
意外なメーカーがスティック型DACを開発するという点では、THX社が開発したスティック型DAC「Onyx」がある。これもはじめは「なぜTHXがスティック型DACを」と思い、ピンと来なかったが、次第にコロナ禍とゲーミング市場の隆盛など繋がる事実が明らかになっていった。もしかするとスティック型DACというのは業界再編の一つのカギとなる製品なのかもしれない。
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