グーグルは追いつめられている
さて、記事の初めに提示した疑問、どうしてBardの発表後にグーグルの株価が下落したのか。これについては、発表のデモでBardが誤った回答をしてしまったからだと報じられています。
https://gigazine.net/news/20230209-google-bard-ai-chatbot-wrong-answer/
デモではBardに「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の新発見について、9歳の子供に教えてあげられることは?」と質問して、Bardは「太陽系外の惑星を初めて撮影しました」と回答しましたが、これは正しくありませんでした。
しかし、AIが誤った回答をしてしまうことがある問題は、ChatGPTにおいても知られていました。筆者はグーグル株の下落を引き起こした原因はこれだけではないと考えます。
マイクロソフトが新しいAI機能を発表したことで、実はグーグルは追いつめられた状態にありました。
ChatGPTがリリースされてから言われていたことですが、チャットAIは検索エンジンを置き換えてしまう可能性を持っています。調べものがある時にチャットAIに直接質問して答えてもらえるなら、わざわざ検索エンジンで情報を調べる必要がなくなるからです。検索エンジンが使われなくなれば、広告が見られなくなり、収益が減少してしまいます。
チャットAIが検索エンジンを脅かすという理屈は、もちろんマイクロソフトのBing自身にも同様に当てはまります。それにもかかわらず、マイクロソフトは攻めに攻めたAI機能を追加しました。
これについて、発表では「マイクロソフトはグーグルのように、既存のウェブ検索事業の利益を守る必要はありません。マイクロソフトとBingのようなことができる会社は他にありません」と語られていました。
つまり、グーグルは検索エンジンの広告収入を収益の柱にしていますが、マイクロソフトはそうではありません。だから広告ビジネスを覆すようなAIの搭載にも躊躇がないというわけです。
マイクロソフトのサティア・ナデラCEOはメディアの取材に答えて、「グーグルは検索における800ポンドのゴリラだ。そして私たちが彼らを踊らせたということをみんなに知ってもらいたい」と語りました。
https://www.theverge.com/23589994/microsoft-ceo-satya-nadella-bing-chatgpt-google-search-ai
つまり、マイクロソフトによってグーグルは対応策を講じざるを得ない状況に追いつめられたということです。
もしグーグルが自社のビジネスを脅かさない範囲で無難な対応をすれば、マイクロソフトの攻めたAIが積まれたBingやEdgeにシェアを奪われてしまい、収益を減らしてしまいます。
かと言って、マイクロソフトと同等の優れたチャットAIを作ってしまえば、やはり検索エンジンの利用者を減らしてしまい、収益も減らしてしまうでしょう。
いずれにせよこのままでは減収は避けられないように見えます。
ところで、今グーグルを追いつめているマイクロソフトのAIモデルを作ったのはOpenAIです。
そのOpenAIのGPT-3やChatGPTといったAIは、Transformerというアーキテクチャから生まれました。
そのTransformerを発明したのはグーグルなのですから、みずからの発明によって強力なライバルを育ててしまったことになり、考えてみれば皮肉なことです。