産業技術総合研究所(産総研)と量子科学技術研究開発機構の共同研究チームは、可視光の99.98%以上を吸収する「至高の暗黒シート」を開発した。従来の暗黒シートと比較して可視光の半球反射率が1桁以上低い0.02%以下となり、さわれる耐久性を有する素材としては世界一の黒さを達成。明るい場所でも沈む圧倒的な黒さにより、視覚表現にこれまでになく高いコントラストを提供できるという。
産業技術総合研究所(産総研)と量子科学技術研究開発機構の共同研究チームは、可視光の99.98%以上を吸収する「至高の暗黒シート」を開発した。従来の暗黒シートと比較して可視光の半球反射率が1桁以上低い0.02%以下となり、さわれる耐久性を有する素材としては世界一の黒さを達成。明るい場所でも沈む圧倒的な黒さにより、視覚表現にこれまでになく高いコントラストを提供できるという。 研究チームは今回、従来の暗黒シートに使われてきたカーボンブラック(炭素の微粒子)顔料以外の低散乱な黒色基材を探索し、漆塗りの代わりにも用いられるカシューオイル樹脂に着目。同樹脂を構成するポリフェノール類は鉄と錯体を作ることでポリマー自体が顔料を加えなくても黒くなるため、カシューオイル黒色樹脂膜は散乱反射(くすみ)の量が極めて少ないことを見い出した。 さらに、イオンビーム照射と化学エッチングで微細な円錐状の凹凸(光閉じ込め構造)を形成する際に、シリコーン樹脂製の型を介することで光閉じ込め構造の転写対象を拡大する技術を開発。カシューオイル黒色樹脂に適用することで、鏡面反射(ぎらつき)を抑えて、可視光の反射率が従来より1桁以上低い0.02%以下の暗黒シートを実現した。 低反射な黒色材料は、装飾、映像、太陽エネルギー利用、光センサーなど、光の応用分野で幅広く用いられている。反射率が0.1%を大きく下回る黒体材料があれば、光を極力制御したいさまざまな場面で利用価値が高いが、現在までに0.1%を大きく下回る極低反射率を達成したのはもろい素材に限られており、一般環境での利用が難しかった。 今回の研究成果は、サイエンス・アドバンシス(Science Advances)誌に2023年1月13日付けで掲載された。(中條)