ITという選択肢を検討しない、システムがつながらない日本の大問題
大谷:田中さんの基調講演を聴講していたのですが、日本のIT後進国ぶり、企業のレガシーさが課題として上がっていました。口調は柔らかいけど、「正直DX以前の話である」と指摘されていましたね。しかも、ウイングアーク1stらしくデータに基づいていたので、ある意味説得力がありました(関連記事:LINE AI、ヤンマー、東芝が考えるDXの形 updataDX22の基調講演レポート)。
田中:コロナ禍のときは、日本はIT敗戦国ぶりを世界に発信していました。最初は私も控えめに「IT後進国」と言っていたのですが、やはり「敗戦国」にしか見えませんよね。
給付金10万円をみんなに配るまでは政策なのでまだいいです。でも、各自治体は自分の名前や住所を住民に入力してもらったのに、それを印刷して、自治体の人たちがシステムに入力し直していたんです。100万都市の場合は、100万人分のデータを入力する必要があります。住民のみなさんの力でデータ化してもらったものを、再度少ない人数で入力し直すんです。
データの再入力だから間違いも多くて劣化コピーにしかならない。なんのためにやっているの?というわけです。コロナ禍で役所の人たちは夜までなにをやっているかというとデータの入力作業。生産性ってなんですか?という話です。こんな敗戦国の様子が世界中に報道されているわけです。
大谷:結局、コロナ禍も人手で乗り切ったみたいなところありますよね。
田中:今はシステムの間を人間がつないでいるんです。メールに添付されたファイルを開けて、ワークフローに登録して、承認されたら再度ダウンロードして会計システムに登録してます。システムとしてはメール、ワークフロー、会計システムの3つを使っていますけど、なぜか人間がシステムをつないでいるんです。
われわれに言ってくれれば、データをコピーする仕組みを二日で提供します。でも、この緊急事態なのに入札です。目の前のやり方だけで物事を解決しなければならず、他の解決策をはなから検討もしない。これが日本の大問題だと思っています。
久我:単一システムで全部つながっている会社なんてそんなに多くない。アナログでつないでますよね。
田中:高度成長期、日本は製造業を中心に世界が見本にするような国だったんです。だから、日本人ができないはずはない。単にやらなくなっただけだと思っています。労働人口は減り、生産性は世界からどんどん引き離され、すべてが遅れている。今頃になっていろいろ動き出している感じ。しかも、コロナ禍がなかったら、動いてなかったと思います。
でも、こんなのおかしいと思う人って、世の中けっこういるはず。意思をもった人たちにもっと立ち上がってもらう機会を作りたい。意思を持った人を集め、持ってない人に気づきを与えるようなイベントにしたかったんです。
先ほどから日本はIT敗戦国という話をしていますが、高齢化社会、人口減少、市場のシュリンク、人手不足など、課題先進国でもあります。この国で課題を解決できるソリューションを作り出すことができたら、これは海外に輸出できると思っています。もはやポテンシャルしかない。「あんなにいろんな課題があるのに、日本はなんであんなに成長できるんだ!」と思わせたいですね。
DX以前の問題として、従業員が経営者についてくるのか?
大谷:今年、updataDXの田中さんの基調講演で面白かったのは、「DX、DXって言ってるけど、そもそも経営者の言うことに会社のみんなが従ってくれると思う?」というデータですね。
田中:エンゲージメントが高い企業は日本企業の5%しかいないという調査報告の話ですね。楽しく働こうという意識がそもそもないわけです。給与が上がるわけでもなく、すごいプロジェクトに関われるわけでもない。あまり変わらないから、仕方なく仕事しているだけ。いろいろなものが固定化されると、人ってチャレンジする気も起こらない。
この傾向は日本では顕著に出ているのですが、うちの会社は大丈夫と思っている経営者はけっこういるはずです。ITでなにかしなければという課題とは次元が違う。この課題に経営者が向き合わないで、誰が解決するんですか?という話です。テレワークについても、仕事しているのが見えないから会社に来いとか、監視しなきゃとか、その時点で従業員は会社から信用されていないと感じますよね。そういう意識改革って、実は経営者自身ができてないんです。
大谷:そういう意味では、今年のupdataDXって、「DXに役立つトピックを提供するから、ビジネスパーソンは集まってね」みたいなおとなしい内容ではなく、もっと人たちを奮い立たせるようなアジテートな内容だったのかもしれませんね。
田中:少なくとも私の基調講演に出てくれたLINEさんやヤンマーさん、東芝さんなどは、トップとして改革をリードしてきた方々。聞いていただければわかると思いますが、経営者と従業員の意識改革に向き合った会社は、結果が出てくるんです。号令をかけるだけ、現場がちょっと動くだけでは、部分最適が起こっただけで、会社としてなにかが起こったわけではない。
誰かに命令されて仕事している人が「こいつはすごくできる」と評価されても、実際は「期待される最大値」を出しているだけ。でも、裁量を持たせて、結果だけもってこい、と言われたら、その人は倍の成果を出してくるかもしれません。期待通りに動くのが素晴らしいのではなく、期待値を飛び越えてくる方が素晴らしい。でも、そういう場が提供されないので、生産性自体がキャップされている。
たとえば工場はライン自体が増えて生産性が上がっても、ライン自体がパフォーマンスが100倍になるという概念はみんな持たない。でも、人間は違う。気持ちがある人だったら、期待値をはるかに超えてくる可能性があります。
大谷:基調講演でDXの本質はツールではなく、人材と組織という話になったのはそういうことですよね。
田中:DXで大事なのはプログラミングではない。どういうチャレンジをするか、どういう結果を生むか、そのためにツールやテクノロジーをどう使うか。これらを考える方が大事だし、これなら開発経験のない人だってなれます。特殊な能力より、それをやろうとする気持ちの方がはるかに大事です。
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(提供:ウイングアーク1st)