このページの本文へ

佐々木喜洋のポータブルオーディオトレンド 第164回

本日発売のfinal「ZE8000」を聴く、新しい音の世界に踏み出した完全ワイヤレスイヤホン

2022年12月16日 13時00分更新

文● 佐々木喜洋 編集●ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

finalのZE8000(ホワイト)

 finalの完全ワイヤレスイヤホン「ZE8000」は、「ZE3000」「ZE2000」に続いて同社が発表した製品だ。ノイズキャンセリング機能などを搭載したフラッグシップ機になっており、直販価格は3万6800円。12月16日の発売を予定している。

finalの革新性を示す8000番台

 finalは、8000番の型番に“革新的な意味”を込めている。

 過去の「A8000」であれば、振動板にトゥルーベリリウム素材を採用したことに加え、音の良さを評価する基準において「トランスペアレントな音」という考え方を持ち込んだ点が革新的であったとする。

 ZE8000についてのそれは“新しい物理特性の発見”とそれを応用した“8K SOUNDの考え方”になるだろう。これは聴感的な評価に頼るものではなく、定量的に測定できる何かのようだ。従来のイヤホンは、ピークやディップといった周波数特性を「チューニング」しながら聴感上いい音を追究したきたが、ZE8000では周波数-音圧特性の教科書を裏切るような“根本的な何か”を変えたという。少し漠然とした表現ではあるが、特許の関係もありあまり詳しい内容については明らかにされていない。

 finalは8K SOUNDを「圧倒的な情報量で一見どこにフォーカスすれば良いのかわからないが、逆にどこにフォーカスしてもハイクオリティな音」と定義している。また、「新しい感覚なので聴き始めて数分は困惑の時間があるかもしれない」ともしており、「試聴時にはしばらく聴き続けてから判断してほしい」ということだ。

音質、装着、音量の3点に重点を置いた設計

 finalはZE8000の開発にあたり、「音質」「装着」「音量」の3点に重点を置いたという。以上を踏まえ、ZE8000の特徴を見ていくことにしよう。

 まずは音質について。ZE8000では、ZE3000の振動板を改良している。

 新設計の「f-CORE for 8K SOUND」は振動板の直径を6mmから10mmに大型化したもので、イヤホンとしては大口径のものに変わっている。このドライバーは、エッジと振動板を接着剤ではなく、挟み込んで圧着するという手法で接合し、軽量化と高精度化している。また、内蔵アンプは通常ならD級アンプを使用するところを、音質向上を目的にAB級アンプにしている。また、パーツとしては大型になるが、薄膜高分子積層コンデンサ(PMLキャップ)も音の良さから採用している。

 こうした改良のほかに信号処理も強化されている。音響の世界で信号処理に長けたシーイヤーと協業している。つまり、8K SOUNDはデジタル処理の回路を内蔵するワイヤレスイヤホンならではの構成を活かしたものであり、有線では実現が難しいものと言えるだろう。なお、ZE8000はクアルコムの“Snapdragon Sound”対応機種になっており、対応するスマホとの間では、aptX Adaptiveを用いた96kHz/24bitの伝送といった恩恵を得ることもできる。

COTSUBUより小さな挿入部

 次に装着について。どのような装着方法が一番いいのかを検討した結果、様々な耳の形に対応するためには、耳に挿入する部分は小さい方が良いと結論づけたという。それにはドライバーだけを分離する形状が最適と考え、ZE8000の個性的な形が生まれていったそうだ。耳穴に挿入する部分は、小型の完全ワイヤレス「ag COTSUBU」よりも小さいという。 また、外側の部分をスティック状にしたのは、ノイズを出す電子回路を分離するために有利だからというが、長さがあることで、ビームフォーミングマイクの効果を高められるというメリットもある。かなり個性的に見えるZE8000の本体は、こうした合理的な考え方に基づいてデザインされていることがわかる。

 finalは来年の春までにZE8000用のカスタムイヤーピースを出す予定だ。そのため、イヤーピースはカスタム化を踏まえた新形状である。ケースが少し大柄なのは、このカスタムイヤーピースを入れたまま格納できるようにするためだ。

 音量については、自分でよく使う音量の位置はだいたい同じということから、専用アプリ「final CONNECT」を提供してボリュームステップの最適化が可能となっている。これはよく聴くレベルの周囲だけ細かいステップにして微調整がしやすいというものだ。

 専用アプリでは「ZE8000」で新たに導入されたノイズキャンセリング機能の切り替えもできる(本体でも可能)。ノイズキャンセリング機能はキットなどを使用せずに社内開発したということで効きの強さよりも音質を損なわないことに重点を置いているようだ。

ボーカルと楽器音が入り混じりながらも、分離してきこえる不思議さ

 個性的なデザインだが意外と耳に収まりやすく、操作もしやすいと感じる。装着は耳穴に挿入するカナル型ではなく、最近流行りの耳穴付近に置くタイプになっている。カナル型に慣れた身としてはやや心もとないところもあるが、装着感は軽くて長時間使用しても問題ないように思える。

 連続再生時間は試聴機用のファームウエアを使用して実測で約4時間半から5時間前後、フル充電の時間は40分から50分ではないかと思う。ケースは二回充電すると大体最後のLEDが点く(ほぼ空になる)ようだ。

 試聴は「iPhone 12 Pro」で試聴機用のファームウェアを使用して行った。

 発表会で聴いた時はたしかに聴きなれない感覚の音にちっょと戸惑いを覚えるほどであったが、後に試聴機をじっくりと自分の環境で聞いてみると、この不思議な音は音場感、特に定位感や奥行き表現に関するものではないかと感じられるようになった。このことはfinal LABのツィッターアカウントでも、8K SOUNDが音場感に関するものであることを仄めかすようなツイートがあるので、大きくは違っていないように思う。

 例えばジャズボーカル曲。ボーカルの音と伴奏のベースやドラムスなどの楽器の音の関係について、従来の高音質イヤホンの場合には「ボーカルが浮き上がるように」などとよく表現していたが、ZE8000の場合はボーカルと楽器音が入り混じっていて、かつ分離して聴こえるというちょっと不思議な感覚が体験できる。今までの音の定位感が覆るような不思議な感覚だ。8K SOUNDとは、どこを注視して良いかわからない感覚でもあるとリリースにあるが、こうした感覚を差しているのかもしれない。

ZE3000との比較

 音が慣れていき、普通のイヤホンとして評価してみると、全体的には低音基調の柔らかなサウンドとして感じることができる。低域の豊かさが独特の音場感にさらに豊かさを加えている。色々と楽曲を聞いてみると帯域バランスの上での誇張感は少なく、空気がたくさん動いているような低域の豊かさは大口径ドライバーの効果と考えられる。

 また中高域では楽器音はZE3000よりも音色がリアルに聞こえるように感じられる。例えば古楽器の響きはよりリアルに聴こえる。これは細かい音響的な改良の成果だろう。

 ノイズキャンセリングについては実際に電車で使用してみると騒音がマイルドになる感じで、電車内が図書館のように静粛になるわけではない。やはり音質重視の抑えめのノイズキャンセリングということなのだろう。外音取り込みも実際に店のレジで使ってみてイヤフォンを外したり付けたりして確認したが、周囲の音が少し強調したような効果もあり、周りの音はよく聴こえると思う。かなり実用的な外音取り込み機能だと思う。

 ZE8000は、final初の完全ワイヤレスイヤホンで音質優先を掲げたZE3000と比べると、音質の細かな点が改良されている。しかし全体の音の感じはZE3000とはだいぶ異なる。ZE3000の単純な上級機として考えることはできないように思う。

 ZE8000は独自の位置付けであり、新しい音の世界に踏み出した意欲的な完全ワイヤレス製品と言えそうだ。

■関連サイト

カテゴリートップへ

この連載の記事

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン