次のIoTの姿が見える!SORACOM Discovery 2022レポート
ニチガス成功の理由は「目的をもってIoTをデプロイしていること」
新オーナーUnaBizが語るSigfoxの未来 ソラコム、ニチガスも高い期待
テクノロジーコンバージェンスと超低価格モジュールが実現する未来
セッションを終えたボン氏に、玉川氏もいくつか質問を投げかける。まず他のLPWAN技術との連携について、「Sigfoxの基地局は他のアンライセンス帯域のワイヤレス接続にも対応できるということでしょうか?」と質問すると、「まだビジョンの段階」と断りつつ、Sigfoxの基地局と互換性を持てるプロトコルについて研究開発チームで調査しているだと説明した。
また、モジュールの低価格について、ボン氏は「機能は多少変わるかも知れません。現在仕様を策定しているところ」と説明する。メッセージの送信・受信のいずれかを絞り、消費電力を抑えることで、コストも1ドル以下に抑えていくという。
超低価格なモジュールにより、新しいユースケースも得られる。たとえば、ドイツの大口顧客である配送会社のDHLとは、トラッキングソリューションの展開を進めている。現在、DHLは配送センター間での台車を追跡するため100万個以上のトラッカーを導入しているが、UnaBizでは次の展開を考えている。「いつか荷物を1つ1つ追跡できるようになるとしたらどうでしょう? 小包や手紙を1つ1つ追跡できるようになるとしたら?」と、ボン氏はSigfoxが描くトラッキングソリューションの未来像について披露する。
ボン氏はメータリング、トラッキング、設備管理という3つのユーザー事例について説明した。日本では、ニチガスのメータリングが著名な事例だが、UnaBizは他国でも同様のソリューションを展開している。たとえばベルギーやフランス、台湾では水道メーター事業、南アフリカではガスメーター事業を展開している。
また、前述したトラッキングも主力ソリューションの1つで、前述したDHLのほか、アルプスアルパインはすでに約260万ユニットを手配しており、パートナーと協力してヨーロッパ全域でトラッキングを実現しているという。また、オーストラリアでは数十万本のビール樽を追跡するというユニークな事例があり、世界各地の醸造所や樽の所有者から問い合わせも相次いでいる。樽をトラッキングすることで、紛失やレストランへの放置を防ぎ、樽を買い足すコストを抑えることができるという。
3つ目の設備管理は、おもに新型コロナの流行以来、オフィスや自宅などを効率的に監視したいというパートナーの要望から増えているニーズだ。そのため温度やCO2排出のセンサー、あるいはトイレの汚れを知るためのアンモニア検知器などさまざまなセンサーが必要とされているという。石鹸がなくなったことを知らせてくれるソープディスペンサーなどについても問い合わせがあるという。
設備管理はエネルギー消費の効率化という観点からも重要だ。ビルの管理者やオーバーは建物を清潔に、安全に保つだけではなく、エアコンやヒーターなどの無駄なエネルギー消費を抑えることからもこうしたIoTにチャレンジする必要があるという。
テクノロジーコンバージェンスと超低価格モジュールによって実現されるこれらのUnaBizのビジョンやエコシステムについては、多くの好意的なリアクションが得られたという。ボン氏は、エコシステムを拡大するため、多くのパートナーの参加を呼びかける。「人々がテクノロジーを選択し、さまざまな使い方ができるようにしたいですね」とボン氏は抱負を語る。
Sigfoxのオーナーとなった立場からソラコムに期待することを聞かれたボン氏は、私たちはすでによくパートナーだと思いますが、パートナー関係はさらに強まっていると思います」とコメント。また、「IoTの民主化という同じ目標を持っている」とソラコムに強い共感を示した。
新生Sigfoxの応用例は無限に拡がっている
後半には日本瓦斯 代表取締役社長 執行役員の柏谷邦彦氏が登壇し、ガスの充填を最適化する「ニチガスツイン on DL」について解説。Sigfoxを搭載したNCUスペース蛍を2023年3月までに150万件のユーザー宅に設置するとアピールした。また、ガスのみならず、電力の分野でチャレンジを続ける。バッテリの管理システムを手がけるパワーエックス社との資本提携により、家庭用蓄電池と電気のセット販売、ニチガス拠点でのEV急速充電器の設置などを進め、将来的には配電ライセンスを取得して地域社会に貢献していくという。
柏谷氏は、「新生Sigfoxは、私たちにとって大きなニュースです。ニチガスのビジネスモデルがデジタルIoTに進化できたのは、スペース蛍とUnaBiz、そしてソラコムの貢献があったからです。SigfoxがUnaBizに統合され、LPWAなどすべてが揃ったオープンプラットフォームになったことで、新生Sigfoxの応用例は無限に拡がっていると思います」と期待を示した。
再び登壇したUnabizのボン氏はニチガスのプロジェクトは100万台という規模とスピードという2つの記録を塗り替えたと指摘する。スペース蛍は6秒に1台のペースで製造され、毎週2万5000台を搭載したコンテナで運ばれていたが、ニチガスは製造を上回るスピードでユニットを設置していたという。「これは本当にすごいことです。製造はラインの調整やスタッフの増員で管理できますが、デプロイはそれ以外にもさまざまな要因でカバーされるからです」とボン氏は舌を巻く。
また、経営陣のサポートが強力だったのもニチガスのプロジェクトの特筆すべき点だった。ボン氏は、「プロジェクトに関心を示し、会議のたびに実際に参加して、目を輝かせているCEOや社長を見かけることはまずありません」とコメントし、経営陣のコミットの重要性を指摘する。その上で「ニチガスが大きな成功を収めた一番の理由は、目的をもってIoTをデプロイしていること」と説明し、単なるスマート化やコスト削減ではなく、脱炭素化という目的に向かっている点に注目した。
これに応じた柏谷氏は、脱炭素化のみならず、規制緩和、分散化の3つを改めて目標に掲げていると説明した。その上で今まで「政府の規制と大規模なインフラに対する膨大な投資に基づいていたトップダウン方式で構築されてきた」エネルギーインフラが、「再生可能なエネルギーへの適応性が高い、ボトムアップ方式による分散型」にシフトすると指摘。多くの蓄電器やEVを接続し、各家庭の利用状況をリアルタイムに把握するためには、Sigfoxが重要なツールになると期待を示した。
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