再現できる色の範囲が広がるだけではダメ。
色再現範囲の広さを示す色度図を見てみると、広色域量子ドット採用のZ770Lでは赤・緑・青のすべてで色域が広がり、三角形の面積が大きくなっていることがわかる。これをデジタルシネマの標準的な規格であるDCI:P3の色域と比較すると、面積比で130%となる。通常の液晶テレビであるM550Lも白色LEDバックライトとはいえ広色域タイプなので面積比103%ほど。有機ELは面積比100%ほどだという。
このように、実は最新の薄型テレビであれば、いずれも十分な色域を持っている。ただし、より広い色域を備えている方が、原色の鮮やかさや色の力強さを伝えやすくなる。デモを見るとよくわかるが、教会のステンドグラスやモルフォ蝶のような蛍光色の羽根を持つ昆虫の映像では、その本来の色が出ていることが実感としてわかる。逆に一般的な液晶テレビ(デモでは75M550Lを使用)は、モルフォ蝶の蛍光色のシアンの色が詰まった感じになるし、赤い蝶の羽根の色もくすんだ感じになり、不自然な色に感じてしまう。これは教会のステンドグラスでも同様で、強い光で照らされた光量(輝度)がしっかりと得られていることも力強い色に感じた理由とわかる。
実は10年以上前から登場していた量子ドット技術が今まで話題にならなかったのは、LEDの輝度も原因であるようだ。色というのは実は輝度との掛け合わせで三次元的に解析するべきもので、色域だけ広がっても輝度が足りなければ正しい広色域にならない。
一見広色域でも輝度がかなり高いところだけ広色域で、中間や暗い部分は色域が狭いと、化粧とかギラついたと表現されるような、不自然な色になってしまうのだ。現在はHDRパネルの搭載が当たり前になっており、LEDもかなり高輝度になってきている。ようやく量子ドットによる広色域を活かせるようになったとも言える。
また、単に色域が広がるだけでもダメだという。例えば、地デジ放送は映画用のDCI:P3よりもずっと色域が狭いBT.709規格で制作されている。最新の映画やビデオコンテンツを除くと、まだまだBT.709規格で再現する映像の方が多いのが現状だ。レグザだけに限らず各社が、高画質エンジンにBT.709の範囲内にある色を本来あるべき色として再現する技術を盛り込んでいるが、均一に色の範囲を拡大してしまうと、色が不自然になってしまうという。