商用利用や実証実験が増加しているローカル5G、パートナー共創を含む取り組みを紹介
富士通「ローカル5G普及の鍵は“Vertical Service”が握る」
2022年08月10日 07時30分更新
富士通は2022年8月9日、同社のローカル5Gビジネスの取り組みに関する記者説明会を開催した。ローカル5G普及の鍵は業種ごとの“Vertical Service”が握ると考え、幅広いユースケースやソリューションの共創を目指したパートナープログラム、共創ラボの活動を展開していることを紹介した。
パートナープログラムと検証ラボを通じて多数のユースケースを創出
富士通は、2020年3月に国内で初めてローカル5Gの無線免許を取得。2020年10月からは「ローカル5Gパートナーシッププログラム」を開始し、検証施設である「FUJITSUコラボレーションラボ」を活用しながら、さまざまな業種の企業やパートナー企業との技術検証を通じてローカル5G向けソリューションのユースケースを創出してきた。
現在、ローカル5Gパートナーシッププログラムに参加しているパートナー企業は30社、さらにFUJITSUコラボレーションラボを通じたパートナー企業とのソリューション共創/PoC検証は164件に達している。
富士通 ネットワーク&セキュリティサービス事業本部 5G Vertical Service事業部 シニアディレクターの上野知行氏は、ローカル5Gビジネスには業種ごとにデバイスからインフラ、サービス、ナレッジまでが垂直統合された“Vertical Service”が必要だと説明する。
「5Gを活用したDXの実現に向けて、テクノロジーとサービス、業種ナレッジを統合したVertical Serviceを提供することによって、多くの企業がローカル5Gを利用できるようになる。そのためにパートナーと連携した活動を推進している」(上野氏)
ローカル5Gパートナーシッププログラムには、通信デバイスを持つ企業、プラットフォームやアプリケーションを持つ企業、センサーデバイスやロボット、ACV(自動搬送機)を持つ企業などが参加。富士通が提供するローカル5Gネットワークとの接続性を検証する「接続検証プログラム」や、富士通およびパートナーの商品、サービス、先端技術を組み合わせてソリューションを共創する「ソリューション共創プログラム」を展開している。接続検証プログラムを通じて、現在までにルーターやPC、エッジAIカメラなど10種類のデバイスの接続確認が完了しているという。
またFUJITSUコラボレーションラボでは、5Gやローカル5Gの技術者だけでなく、映像AIやエッジ、クラウドの技術者などが常駐しており、開発現場としての役割を果たしているのが特徴だ。2020年3月の開設時に設置したラボ1に加えて、2021年12月にはラボ2を増設。ローカル5Gに関しては、ミリ波NSAシステム、Sub6-SAシステム、富士通が用意したスターターキットによる3つのシステムを稼働しているほか、パートナー企業が構成しているエッジシステムや、NTTドコモのキャリア5Gシステムも稼働する環境を整えている。なお2022年10月には、同ラボとしては初めてとなるオープンラボイベントを開催する予定だ。
「富士通では、DXからSX(Sustainability Transformation)への転換を目指しており、FUJITSUコラボレーションラボは、SXを加速させるラボを目指している。今後は、FUJITSUコラボレーションラボやローカル5Gパートナーシッププログラムをよりオープン化することで、デジタルテクノロジー保有企業との共創を強化したり、ビジョンを共有するビジネスパートナーとの協業を加速。さらに、SXを目指す企業との連携も進めていく」(上野氏)
幅広い分野のローカル5G事例を紹介
ローカル5GパートナーシッププログラムおよびFUJITSUコラボレーションラボを活用したさまざまな事例も説明した。
Acuity(アキュイティー)では、ローカル5Gを活用して高精細な映像を伝送し、エッジでAI処理するソリューションを検証。これにより、人物検出で人と人との距離を推定して人の密度を検知したり、行動追跡で不審な行動や作業中の無駄な動作を検出したりできるという。さらに同社では、AIセンシングと富士通の映像測位技術にローカル5Gを組み合わせることで、ミリメートル単位で人やモノの位置を測定する取り組みもしており、測位情報を使ったAGVのガイドレス高精度制御や、人の稼働時間や動線の見える化に活用できるという。
日本マイクロソフトは、「Azure IoT Edge」を活用したエッジ&クラウドシステムを構成し、エッジで処理した情報を、ローカル5Gを活用してクラウド上で見える化。統計情報や経営情報として活用できるようにした。これらの技術はすでに「データコレクションモデル」「リモートアクセスモデル」「エッジ動画分析モデル」としてサービス化されているという。
トレンドマイクロとの協業では、ローカル5Gのサイバーセキュリティソリューションを実現。5GのSIMにセキュリティソフトを搭載。5Gネットワークに不正なデバイスが接続されていないかどうかを検出し、不正なデバイスに対しては接続を自動遮断できるという。
富士通自身では、放送業界向けソリューションが紹介された。これは、ローカル5Gを通じて撮影現場から高精細な4K映像を超低遅延で伝送することで、目視が難しい距離での現場状況や詳細な状況をリアルタイムに認識できるというものだ。
KDDIでは、富士通のローカル5G技術やVRアプリ、行動分析エンジンと、KDDIのau 5GサービスとIDマネージャーを組み合わせることで、現場と遠隔地を融合した新しいコミュニケーション体験を開発し、リアルとバーチャルを融合したBtoBtoXサービスにつなげるという。たとえばバーチャルストア内で、現実のストアに来店したユーザーとリモートで訪れたユーザーが、コミュニケーションをしながら一緒に買い物ができるといった体験を実現するという。
「2021年度後半からローカル5Gの商用利用や実証実験が増加」
富士通 ネットワーク&セキュリティサービス事業本部 5G Vertical Service事業部 事業部長の森大樹氏は、「2021年度後半からローカル5Gの商用利用が増加している。商用利用を前提とした実験も増加しており、累計で3桁に迫る件数に至っている」と語る。
商用化に向けた実証実験では、東急電鉄が車載モニタリングカメラとAIを線路巡視業務の高度化に駅ホームに設置したローカル5G基地局を利用した事例、西松建設がローカル5Gを活用して数百メートル先のホイールローダーを遠隔操作した事例などがある。またミクシィでは競輪ドームの「TIPSTAR DOME CHIBA」において、ローカル5Gを活用した高品質な映像配信を実現している。
その一方で、半導体不足の影響により機器導入の見通しが立たず、ローカル5Gの導入が先送りになったケースもあり「立ち上がりは想定よりも遅れている部分はある」と述べる。
「だが、ローカル5Gの普及にはVertical Serviceが鍵になると考えており、そこへの取り組みを強化する。5Gになって初めてネットワーク設備を取り扱う企業がほとんどであり、ナレッジを提供していくことも重要だ。富士通は、2025年度までにローカル5G関連事業で1000億円の売上を目指しており、その目標に向けて邁進していく」(森氏)
富士通では、ボーダーレスワールドを実現する「リアルとデジタルの融合」、リアルの世界とデジタルの世界をシームレスにつなぐ超高速インテリジェントネットワークによって実現する「ヒューマンセントリックネットワーク」の2つのテクノロジーによって、人のエンパワーメントの実現を目指しているという。
「さまざまな作業現場のデジタル化に向けたニーズが高いが、デジタル化された現場が日常になるには、5Gネットワークだけでなく、AIやロボティクス技術がシームレスにつながり、身近にしていく必要がある。富士通はそれに向けた取り組みを進めている」(森氏)
富士通自身のさまざまな現場におけるローカル5G活用事例にも触れた。富士通 横浜データセンターでは、総務省の「令和4年度課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証事業」として、ローカル5Gを活用したデータセンターの運用省人化および安定運営の実現に取り組んでいる。またFUJITSUコラボレーションラボとTIS DIGITAL Innovation Centerがラボ間で連携し、現場での検証環境を強化している。2022年6月には富士通那須工場に、屋外でのローカル5G検証が可能な環境を用意した。
「ビジネスパートナーとの共創ラボ連携は今後も拡充していきたい。これにより、ローカル5Gを活用したVertical Serviceの創出につなげていく。また、検証環境の活用は、これまではパートナー企業だけを対象にしていたが、ユーザー企業にも開放していく」(森氏)