デジタルの力で解き放とう、日本の可能性
Googleのミッションは、「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」である。検索サービスからスタートした同社を象徴するミッションだといえる。
だが、その一方で、グーグルの日本における事業方針などは、これまで対外的に明確にされることはなかった。
そのグーグルが、先ごろ、日本におけるビジョンを示してみせた。
グーグル日本法人の奥山真司代表は、2022年6月16日に開催した同社オンラインイベント「Google for Japan」において、新たなビジョンとして、「デジタルの力で解き放とう、日本の可能性」を掲げたと発表したのだ。
さらに、日本において注力する重点領域として、無料のデジタルスキルトレーニングの提供などによって実現する「一人ひとりに力を」、パートナーシップを通じて様々な業界の発展を支援する「ビジネスに革新を」、テクノロジーを活用して、社会の発展に寄与する「社会の進歩に貢献を」の3点をあげた。
奥山代表は、P&Gジャパン社長や、江崎グリコの常務執行役員を経て、2021年2月にグーグルの代表に就任した。
「かつての私自身もそうであったように、多くの人が、グーグルのプロダクトやサービスを毎日利用していても、日本での存在が見えにくいという印象を持っている。今後は、そのイメージをいい意味で払拭したい」と述べ、「グーグルは、日本において最も信頼され、最も貢献できるローカルパートナーになるという強い決意を持っている。日本社会の一員として、日本の現状と将来像を考え、日本の未来のために、Googleが貢献できることを考え続けている」と語る。
そして、「日本には有形無形の資産が眠っており、大きな可能性がある。一方で日本の経済を支えてきたシステムが制度疲労を起こしているのも事実である。これをデジタルの力で変革するDXによって、課題をチャンスに変え、日本が持つ大きな可能性を、最大限に引き出すことに貢献したい」と語り、「グーグルは、デジタルトランスフォーメーションが人々の生活のあらゆる場面で、知識、成功、健康、幸福をもたらす原動力になりうると信じている。この実現にテクノロジーが欠かせない」などとした。
グーグルは日本に貢献してきた
グーグルが日本に拠点を置いたのは、2001年9月のことだ。まだ、米本社の設立から3年目のことであり、グーグルにとって最初の海外拠点が日本だった。
グーグル アジア太平洋地域 代表のスコット・ボウモン氏は、「グーグルのミッションを達成するには、世界経済の発展に貢献できる国であるとともに、技術の進歩の最前線にある日本に拠点を設立することは自然の流れだった」とし、「それ以来、変わらないことは、日本の人々、企業、政府に信頼され、貢献できるパートナーになるという強い意志を持っていることである。また、製品やサービスを通じて、日本の社会全体にポジティブな影響を与え、日本の企業の成長を促し、働く人の雇用と機会を創出し、日本のイノベーションを支えるプラットフォームを提供したいと考えている」と語る。
2021 Economic Impact Reportによると、グーグルの日本における貢献を次のように試算している。
●グーグルのプロダクトから日本企業が得られる経済効果は年間3兆2000億円
●グーグルのプロダクトから日本の生活者が得られる経済効果は年間4兆4000億円
●グーグル検索を利用することにより、従来のオフラインの方法と比較した際に節約できる時間は年間5.4日
●グーグルマップの利用によって短縮できる車の運転時間は7 時間以上
●コロナ禍で影響を受けた分野においてグーグルが支える雇用は10万9000人以上
ボウモン氏は、こうした数字をあげながら、「グーグルは、今後もテクノロジーによって、日本の経済と社会の力強い未来を支えていく。よりパートナーシップを深めながら、日本の進歩に貢献していく」と宣言する。
Grow with Google
奥山代表は、日本での重点領域にあげた。「一人ひとりに力を」、「ビジネスに革新を」、「社会の進歩に貢献を」の3点について説明する。
ひとつめの「一人ひとりに力を」では、「一人ひとりが知識を得ることを通じて、自分の能力を伸ばし、可能性を花開かせることができるようにサポートする。これが、多様な人たちが持つ力を、日本社会の力として生かしていくことにつながる」とする。
具体的な取り組みのひとつが、2019年から提供しているGrow with Googleである。
Grow with Googleは、無料のデジタルスキルトレーニングを提供する取り組みで、これまでに170以上のパートナーが参加し、900万人以上が受講。2022年末までに1000万人が受講する予定だという。
さらに、この取り組みを加速するのが、同社が主幹事となって発足した「日本リスキリングコンソーシアム」である。
総務省と経済産業省が協力し、企業や地方自治体など49企業/団体が参画。地域や性別、年齢に問わずに、あらゆる人のデジタルスキルを高めることを目的に、200以上のトレーニングプログラムや、就業支援サービスを提供することになる。トレーニングプログラムは、大企業や中小企業、女性、シニア、経営者、次世代を担う若者など、あらゆる人が利用可能であり、利用者は、サイト内で、受講プログラムを簡単に検索して、目的のトレーニングプログラムを受講できる。たとえば、AIや機械学習の初歩を学べるコースのほか、中上級者向けのAI人材育成のための短期集中型コースも用意。実践的で深い学びの機会を提供するという。
また、トレーニングプログラムで得たスキルを活かすことができるジョブマッチング機能も提供。就職や転職のほか、副業やフリーランス、アルバイトなど、様々な働き方にも対応するという。
Google News Initiative
2つめの「ビジネスに革新を」では、クラウドサービスを提供するグーグル・クラウド・ジャパンが果たす役割が大きい。
グーグル・クラウド・ジャパンの日本代表である平手智行氏は、「グーグルの役割は、変化し、挑戦し、エコシステムや社会基盤にイノベーションを起こそうとする日本の企業を、テクノロジー、ソリューション、パートナーシップを通じて支援をしていくことである」とする。
ここであげた事例のひとつが、Google News Initiativeである。
2018年から活動を開始しているGoogle News Initiativeは、世界中のニュースをしっかりと受け止める未来を築く手助けをするために、ジャーナリストやパブリッシャー、メディア業界のリーダーなどと協力関係を拡大。グローバルなニュースルームと、地元新聞社が同じように繁栄できる仕組みづくりに取り組んでいるという。
日本では、全国の地方新聞社が参加するBuild New Localプロジェクトに協力。地方新聞社の収益化や、デジタルを活用した報道の実現、地域コミュニティの育成などに取り組んでいるという。
グーグルの奥山代表は、「イノベーションを追求することが成功の鍵になると信じている。ビジネスにイノベーションを起こし、社会に幸福をもたらそうとする日本の企業にとって、信頼できるパートナーでありたい」と語る。
Google Cloud Platform(GCP)
そして、3つめの「社会の進歩に貢献を」では、「テクノロジーは社会をより良い方向に変えていく力がある。日本の人たちの幸福と健康に貢献するために、社会の進歩に貢献したい」(奥山代表)と述べ、「AIをはじめとした最新技術を社会課題の解決に応用するための研究開発を通して、誰もが心身ともに健康で、幸福に暮らせる未来の礎になりたいと考えている」と語る。
ここでは、デジタルインフラストラクチャーの提供や、行政や企業、関係機関との連携、AIなどの最先端技術の活用を通じて、日本の様々な課題解決を支援することをあげる。
たとえば、グーグル・クラウド・ジャパンは、2021年10月、デジタル庁が進めるガバメントクラウドのサービスプロバイダーに選定された。平手氏は、「クラウドサービスであるGoogle Cloud Platform(GCP)が、デジタル庁が定める約350の技術要件を満たしたこと、サービスの柔軟性と迅速性が評価されたことが選定につながった。政府が要求するセキュリティ水準の確保を図るISMAPには、2021年3月に最初に登録されたことも評価されている」と述べた。これも、日本の社会の進歩への貢献のひとつといえる。
日本では、毎日、グーグルのサービスを利用しているという人が多い。グーグル検索、グーグルマップ、Gmailのほか、ブラウザとして最大シェアを誇るGoogle Chromeや、小中学校の1人1台環境を実現するGIGAスクール構想で最もシェアが高いChromebook、ニュースやバラエティ番組などの画像情報にも利用されるGoogle Earthといったように、サービス提供範囲は幅広い。そして、2007年6月に日本語版サイトの開設し、今年で15周年を迎えYouTubeも、グーグルによって提供されるサービスだ。スマホのOSとして広がっているAndroidもGoogleが提供している。さらに、企業がGoogle Cloud Platformを活用し、運用している各種サービスも知らないうちに利用しているかもしれない。
日本では、あらよる人がグーグルのサービスを利用しているのは明らかだ。だが、日本において、目指す企業像や役割といった指針がはっきりしていなかった。それがようやく対外的に打ち出させるようになった。グーグルが、日本にさらに根づくためには、こうした企業姿勢を打ち出すことが大切だ。日本での存在が見えにくいという状況を打破するきっかけにもなる。グーグル日本法人にとっては、大きな一歩だといえる。
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