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ポストコロナのインターネット社会もふまえた「その先」とは? チップ供給不足問題についても尋ねた

「Wi-Fi 6/7」や「AV over IP」に注力する理由、ネットギアCEOに聞く

2022年06月24日 11時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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教会の礼拝からスポーツの審判まで? AV over IPの多様なユースケース

――エンタープライズ領域のもうひとつのテーマとして「音声と映像のHDMIからIPへの移行」とおっしゃいました。ただ、日本市場におけるAV over IP、Media over IPの動きはまだまだこれからだと感じます。

ロー氏:わたしもそう思う。あちらの会場(Interop Tokyoと併催された「DSJ:デジタルサイネージジャパン」)を見てきたが、デジタルサイネージや8Kの超高精細ディスプレイといった製品が展示されていた。ただ、米国や欧州の市場ではそれらはごく一部のユースケースでしかなく、AV over IPの世界はもっと多様なものに広がっている。

 たとえば、米国や欧州では“Zoom Room”を設置する企業が増えている。ハイブリッドワークの時代になり、社員はそれぞれバラバラにオフィスに出勤するものの、全員が同じ日に顔を揃えることがなくなった。チームとしての一体感が損なわれるかもしれない。

 そこで会議室の片側の壁一面に大きなディスプレイを設置し、そこに在宅勤務中の社員が大きく写るようにしたわけだ。PCの小さなディスプレイに10人、15人が映っていても「一緒にいる」気持ちにはならないが、社員が原寸大で映れば一緒にいるように感じられる。もっと巨大なスクリーンを用意すれば、300人、400人の全社員ミーティングを、半分が在宅勤務のまま実施できるようになるかもしれない(笑)。

 AV over IPのユースケースは企業以外にも広がっている。たとえば教会だ。COVIDの不安もあって、教会に行くのを嫌がる人がいる。ただ、教会の礼拝には参加しなければならない。そこで教会が一計を案じた。教会では神父や牧師が話(説教)をしたり、人々が賛美歌を歌ったりするが、その様子をインターネットで配信することにしたのだ。IPカメラが神父や牧師の動きを追うので、教会に行くのが嫌な人も自宅で礼拝に参加することができる。――面白いユースケースだろう?

ネットギアブースではAV over IPソリューションも展示。LEDバックパネルに映像を映し、そのカメラ映像をIP伝送してほかの映像と合成するといった複雑な映像処理も、簡単なシステムとIPネットワークで実現できることを紹介した

――ははは、たしかに。AV over IPが社会にかなり浸透している証拠ですね。

ロー氏:HDMIではできないAV over IPの事例としては、たとえば駅や空港の発着便を知らせる大画面モニターのインテリジェント化がある。かつてはHDMIを使っており、画面構成を柔軟に切り替えられなかったので、出発便と到着便の情報だけが表示されていた。これをEthernetケーブル接続に切り替え、AV over IPのシステムにしたことで、インテリジェントかつ柔軟な表示を変えられるようになった。たとえば、画面の上半分には出発便/到着便の情報を表示させつつ、下半分にはCMや動画広告、あるいは空港からのお知らせなどを表示させることができる。

 カメラの側もIP化されて広く使われるようになった。たとえばテニス、ゴルフ、野球、アメリカンフットボールといったスポーツの試合で、ボールが着地したのがラインの外か内かを、審判ではなくカメラが判定するようになっている。競技場内のすべてのラインを、高精細かつナノ秒単位で撮影する“デジタル審判”が監視しているのだ。大量のカメラ映像を大量のディスプレイで映すのを、HDMI(と映像スイッチ)で実現するのはかなり困難だ。10G、100G Ethernetでカメラを接続すれば、コンピューターによる映像処理も容易だ。

 もちろん、デジタルサイネージでの利用も非常に多い。8K、12Kの巨大ディスプレイでも、AV over IPであれば複数の入力を簡単に切り替えたり、自由にレイアウトしたりして表示できる。また、映像をインターネット経由で伝送することもできるので、たとえば300店舗、500店舗と展開する小売業のサイネージコンテンツを、本社から一括で管理するようなことも可能だ。

世界的な部品供給の停滞でも「他社よりはまし」な状況にある

――現在、世界中のさまざまな製造業で部品の供給が滞り、製造が遅れる事態が生じています。ネットワーク製品もその例外ではないですが、ネットギアではどう見ていますか。

ロー氏:もちろん、われわれも部品供給が逼迫している状況には影響を受けているが、競合他社と比べると状況は“まし”だと考えている。

 まず、ネットギアはワールドワイドに展開するメーカーであり、インテル、クアルコム、ブロードコム(などのネットワークチップメーカー)と強力なリレーションシップを築いているからだ。他のメーカーよりも強力なリレーションシップを持っていると自負している。

 もうひとつ、ネットギア製品が先進的なテクノロジーを採用していることも、部品供給の停滞が少なく済んでいる理由だ。70nm、55nmといった製造プロセスの(比較的古い)チップは、自動車や軍事産業といった他業界とも“奪い合い”になっており、入手に制約が生じている。一方で、ネットギアでは28nmプロセス以下の新しいチップへの設計変更に1年前から取り組み、それが完了し始めているため、入手の厳しい状況は改善しつつある。

 部品供給の停滞は本当に大きな問題だ。たとえばスマートフォンや自動車でも、大量の部品の中のたった1つが手に入らないというだけで、製品の製造そのものがストップしてしまう。ほかの部品で代替するならば、製品全体の設計をやり直さなければならない。われわれにもそういう場面があるが、製品設計の変更も含めてネットギアは他社より一歩先を歩んできた。これからも、テクノロジーで他社を先駆けるという方針は変わらない。

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