ロシアのウクライナ侵攻に伴い、米国をはじめとした各国がロシアにさまざまな経済制裁を科している。米国企業ではアップルやマイクロソフト、インテル、AMDがロシアでの製品販売を取りやめ、日本企業もソニーや任天堂、韓国企業はサムスンやLGも同じく販売やサービス提供を停止した。一方で、ロシアでスマートフォンのシェアトップであるシャオミや、パソコンメーカーのレノボなどは傍観の姿勢を示している。
そんな中、ロシアのBQというスマートフォンメーカーが、制裁によってグーグルのGMSが利用できなくなったことを機に、ファーウェイのHarmonyOSとHMSを導入しようとする動きがある。
ロシアの状況を見ているためか、中国のネット言論では、明日は我が身の可能性について語られるようになり、「中国はいざというときに海外のライセンスなしに情報機器は作れるのか!?」という話題が出ている。それは今後、ロシアやあるいは別の国が中国のIT製品だけを前提に、制裁下で実際どこまでのところをカバーできるのかという意味も持つ。そうした製品はどの程度の実力なのか、今回はこれを紹介したい。
スマホでは西側の半導体やパーツ、ソフトウェアなしに
端末を作ることは難しい
ファーウェイが米国の制裁により、5G対応チップの供給が止まり、グーグルのGMSが使えなくなったのはよく知られた話だろう。ファーウェイはAndroidのオープンソース部分(AOSP)をベースに、独自のプラットフォーム「HMS」を採用したHarmonyOSベースの4Gスマホを出し続けている。
同社が昨年発売した「HUAWEI P50」を分解したレポートによると、ディスプレーからRF関連部品、充電用IC、光学レンズ、指紋認証チップ、基板など構成する部品の多くを中国製パーツで構成されていることが明らかになっている。それまでにリリースされた「HUAWEI Mate30」「HUAWEI Mate40」よりも中国産パーツが占める割合は大きいとのこと。
またスマートフォン用のハードウェアといえば、CPUではアリババ系の半導体企業「平頭哥」の「玄鉄」をはじめ、いくつかの企業がRISC-Vコアでチップを開発し、Android側もRISC-Vをサポートしようとする動きがみられる。RISC-Vはアーキテクチャが公開されており、ライセンス料無しに開発できることから、昨今リスク回避として注目が集まり、ファーウェイやZTEも力を入れている。
もっともスマートフォンでは、完全に中国産のパーツだけで揃えて動くという状態ではなく、中国産の比率がかなり高まってきたという状況だ。一方パソコンはどうかというと、なんと、とりあえず中国製だけでも“動く”という段階になっている。
独自命令セットのCPU上でLinuxを動作
x86のエミュレーションで20年ほど前のゲームがプレイ可に
今年3月、動画サイトのビリビリに「deepin震度操作系統」というアカウントによる、「中国産のハードウェアとソフトウェアだけで自作PCを組んでカウンターストライクは遊べるか?」という動画がアップされて話題となり、中国のテック系メディアもこのネタに飛びついた。結果を先に書けば、「オール中国産でも遅いなりにはWindowsアプリが動いた」のだ(なお、カウンターストライクは最初のバージョンは20年以上前にリリースされたFPSだ)。
スペックはこうだ。CPUには2021年7月に発表された12nmプロセスで2.5GHz動作のRISCプロセッサ「龍芯3A5000」、マザーボードは専用のものを利用する。ストレージには「聯芸(Maxio)」製コントローラと「長江存儲(YMTC)」製NANDフラッシュを搭載した「GLOWAY(光威奕)」の256GB SSDを採用。メモリーには「紫光」製のDDR4 8GB、ビデオカードには「景嘉微」製で28nmプロセスのGPU「JM7201」搭載でメモリー1GBの製品、電源には「長城(Greatwall)」製の400Wタイプとなっている。もちろんケースも中国製だ。
中国メーカーの製品だが、中身は外国製の半導体やパーツといったものではなく、中国企業が開発したチップやパーツで揃えているわけだ。なお、CPUの龍芯3A5000は独自アーキテクチャでWindowsを動かすことはできないので、中国製のLinuxディストリビューションである「UOS(Unity Operating System、統信UOS)」をインストールしている。その上でWindowsアプリケーションを動かす「Wine」を導入。これでなんとか中国産ハードウェアだけでWindowsアプリケーションを動かせるところまでたどり着いている。さらにはWindows用のデバイスドライバーでLinux上でデバイスを認識して動かすことまでできている。
なお、中国産CPUは大きく分けると、「(AMDやVIAから)x86のライセンスを得た合弁企業が生産する『海光』や『兆芯』など」「Armからライセンスを得たARMベースのHiSilicon『Kirin』など」「オープンソースの命令セットであるRISC-Vベースの『玄鉄』など」「命令セットも含め自前で開発する『申威』や『龍芯』など」に分けられる。このうち後者2つについては外国が規制をかけても開発・生産が可能と言える。
「龍芯3A5000」とLinuxである「UOS」でなぜWindows用ソフトが動かせるかは、前述したように「Wine」を使ったからだが、命令の変換部分については、オープンソースの「QEMU」などとは少々異なるアプローチをしているという。龍芯3A5000の独自命令セットである「LoongArch」では、ソフトウェア+バイナリ変換処理に特化したハードウェアという構成になっている。そのためソフトウェア側の対応でx86だけでなくMIPSやArmにも対応し、将来的にx86の命令セットが拡張されてもソフトウェアのアップデートで可能になるとしている。
ビリビリにアップされた動画では、カウンターストライクをプレイした結果として、「Pentium 4と無名の128MBのビデオカードでプレイしてるかのようだ」と言いつつも、「とはいえ、日本のノベルゲーとは相性がいい」と評価(?)する。中国製のソフトウェアは高頻度で更新される傾向があるが、最近LoongArch命令セットへの変換ソフトが更新されたというニュースがしばしば報じられている。現役のアプリケーションを使うには厳しいがとりあえず動くのは確かだし、今後さらにソフト面が中心の改良により進化していくことだろう。
この連載の記事
-
第211回
トピックス
日本のSNSでブレイクの「格付けミーム」は中国発 中国のコンテンツが日本で二次創作に使われる例が生まれる -
第210回
スマホ
中国で中古スマホ市場が真っ当化 中華スマホが安く買えるようになった -
第209回
トピックス
海外旅行でAIアシスタントを活用したら、見知らぬ場所にも行けて旅が楽しくなった! -
第208回
トピックス
中国のゲーマーが20数年待ち望んだ国産AAAタイトル『黒神話・悟空』の人気で勝手にビジネスを始める中国の人々 -
第207回
スマホ
折りたたみスマホが次々と登場する中国 カワイイニーズ&成金ニーズがキーワードか -
第206回
トピックス
AI時代に入り、中国独自の半導体による脱米国の可能性は少し出てきた!? -
第205回
トピックス
中国のガジェットレビューがメッチャまとも&有用になっていたのにはワケがあった -
第204回
トピックス
必死に隠して学校にスマホ持ち込み!? 中国で人気のスマホ隠蔽グッズは水筒に鏡に弁当箱 -
第203回
トピックス
死んだ人をAIを動かすデジタル蘇生が中国で話題! 誰もが「死せる孔明生ける仲達を走らす」時代に!? -
第202回
トピックス
停滞感があった中華スマホだが、生成AIが盛り返しのきっかけになるかも -
第201回
トピックス
ようやく高齢者にスマホが普及し始めた中国 ECで爆買い、そして詐欺のカモにされることも - この連載の一覧へ