映画『ドライブ・マイ・カー』が第94回アカデミー賞で、日本映画史上初の作品賞をはじめ、脚色賞、監督賞、国際長編映画賞の4部門にノミネートされている。日本時間の3月28日の結果発表が待たれているが、同作を語る上で、主要キャストの三浦透子を避けては通れない。独特の存在感で見る者をくぎ付けにしている。
『ドライブ・マイ・カー』は、カンヌ(『寝ても覚めても』コンペティション部門出品)、ベルリン(『偶然と想像』銀熊賞受賞)、ベネチア(共同脚本作『スパイの妻』銀獅子賞受賞)など世界三大映画祭を席巻した濱口竜介監督が脚本も手掛ける最新長編作。179分もの上映時間(Rakuten TVでの再生時間は2時間58分)は、淡々と静かに進むが、次々と明らかになる衝撃的な真実から目が離せなくなっていく、そんな作品である。
主な登場人物は4人。愛する妻を失う舞台俳優で演出家の家福(西島秀俊)、家福が演劇祭に参加する期間に彼のドライバーとして働く女性・みさき(三浦透子)、家福の妻・音(霧島れいか)と、音が家福に紹介する俳優・高槻(岡田将生)という、関係性がつながっていく物語。家福の職業柄、深く関わる「ワーニャ伯父さん」などの演劇要素が大胆に取り入れられ、ストーリーと演劇部分が重なっていくという、これまでにない鑑賞体験が得られる。
また、家福の愛車である赤い“サブ900”が走り抜ける広島、東京、北海道、韓国などの世界は、映像美にあふれ、どのシーンを切り取っても絵になる。濱口監督が村上春樹の原作にほれ込み、映画化を熱望したというだけあって、セリフの言い方から情景の一つ一つまで、すべてこだわり抜いて仕上げていったことが伝わる作品だ。
今作は韓国、台湾、フィリピンなどのオーディションで選んだ海外キャストも出演し、濱口監督がキャスト選びにもこだわったのがよく分かる。中でも、みさき役の三浦透子が光っていた。みさきは、口数が少なく物静かで、左の頬に傷がある女性。家福と妻の記憶が刻まれた大事な車のドライバーを任されることになり、丁寧かつ確実なドライバーテクニックで家福の信頼を得ていく。家福は、車の中で亡き妻・音の声が録音された戯曲の音声テープを繰り返し聞いて、セリフを覚えるのが日課。家福はみさきと過ごすうちに、自分が目を背けて生きてきたことと向き合うようになる。
みさきの姿は、真っすぐ前を見つめてハンドルを握るときも、外でタバコを吸って遠くを見つめる表情にも、実に味がある。若い女性にしては異様に落ち着きがある理由も、ある過去の告白シーンから分かってくる。みさきの存在感は抜群で、視聴者は作品の中で時を重ねて生きてきた実在の人物であるかのような感覚に陥るだろう。
演じる三浦は、この役が来るまで車の運転免許を持っていなかったという。粛々と運転をする演技に、複雑なみさきの感情をプラスするのは簡単なことではなかったはずだ。しかし今作で、東京映画記者会が制定する「第64回ブルーリボン賞」の助演女優賞に輝いた。彼女への高評価はこれからも続くに違いない。
1996年10月20日生まれ、北海道出身の三浦は、2002年にサントリーのCM「なっちゃん」で2代目なっちゃんとして子役デビューしており、キャリアは長い。以降、数々の映画出演の他、映画『天気の子』(2019年公開)では主題歌のボーカリストとして参加するなど歌手活動もしている。放送中の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK総合ほか)では初の“朝ドラ”出演を果たし、ヒロイン・ひなた(川栄李奈)の友人である一恵を明るく演じている。
ここからきっと大躍進して、さまざまな顔を見せてくれる三浦の存在は、日本映画界の宝となっていくだろう。
公開日
3月23日11時