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Cybozu Days 2021で聞いたエンタープライズセッションの前編

重厚な三菱重工でクラウドネイティブでアジャイルなデジタル組織を作ってみた話

2022年02月14日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 昨年、幕張メッセでリアル開催された「Cybozu Days 2021」では、kintoneユーザーの三菱重工業(以下、三菱重工)のDX部門が異なるテーマの2つのセッションを繰り広げた。「重厚な企業でクラウドネイティブ×アジャイルなデジタル組織を作ってみている話」とタイトルに「重厚」を冠した前半では、三菱重工業 成長推進室 デジタルエクスペリエンス推進室の川口賢太郎氏が三菱重工の「DX組織作り」について解説した。

登壇した三菱重工業 成長推進室 デジタルエクスペリエンス推進室の川口賢太郎氏

三菱重工が掲げた3つのDXの柱 DX、CX、PX

 大手製造業である三菱重工は、数十に渡る事業領域から構成されており、約4兆円の売上のうち、約4割が発電機関連、2割弱が航空・防衛・宇宙、残り4割強で産業機械を作っている。数年前までは1つの三菱重工で担っていたが、それぞれのマーケット動向や商流に迅速に対応すべく、事業会社化を進めた結果、中規模な事業部門の連合体となっているのが現状だ。

 しかし、事業会社に分かれた結果として、近年必要となっているIT導入や運用でリソース不足が起こってしまったという。「やらなければいけないんだけど、やれない問題が経営課題として浮上してきました。ホールディングス側から事業者に働きかけても、なかなかうまくいきませんでした」(川口氏)。こうした課題から、事業会社のIT導入と活用をハンズオンで支援する組織が3年前に設立。これが川口氏が現在所属するデジタルエクスペリエンス推進室の前進で、2020年4月からは全社的なDX組織として活動している。

 デジタルエクスペリエンス推進室が進めるDXは、大きくEX(Employ eXperience)、CX(Customer eXperience)、PX(Product Transformation)の3つの柱から構成される。

EX、CX、PXという大きく3つのDX

 まずCXは顧客接点のデジタル化で、目的は顧客が三菱重工との取引をしやすくすること。「Amazonでポチれば、明日モノが届くのに、なぜ三菱重工に見積もりを依頼するだけで、2~3週間かかるんだというお客さまのペインポイントはたくさんあります。そういったものの多くはデジタルで解決できます」と川口氏は語る。目指すのは、靴のメーカーでありながら、アプリで顧客とつねに接点を持ち続ける「NIKE様」のような企業だという。

 続いてのEXは、業務のデジタル化や生産性の向上を進め、従業員が働きやすくなる環境を構築するための施策だ。このEXで目指す企業は「日本マイクロソフト様」。Office 365を販売しているだけではなく、自ら製品を活用し、売上を向上させているからだ。

 最後のPXは、次世代製品を開発できる能力を指しており、こちらは「Tesla様」のような企業を目指している。「Tesla様は、自動車をEV化したというよりも、コネクテッド化して次世代製品にしました。私たちも自分たちの製品をコネクテッド化していきたいと考えています」(川口氏)。

 つまり、CXとPXは顧客向けのデジタルサービスを作っていく活動、そしてEXは従業員向けのデジタルワークスペースを構築する活動になる。そして、これを実現するためにシステムの開発や運用を快適に行なうためのプラットフォームが存在している。これが三菱重工のDX戦略の全体像だ。

DX組織のメンバーはITの専門家ではない

 DX組織では、EX、CX、PXでそれぞれやり方を変えているという。たとえば、EXやCXの一部においては、世の中によい解決策があるコモディティ領域にあるため、既存のシステムやSaaSを活用する。当然、kintoneもこのツールに含まれる。

 一方、CXの一部やPXに関しては、世の中に解決策が出回っていないため、自ら試行錯誤する必要がある。逆にここで解決方法を生み出せれば、これは三菱重工自体の競争力を高めることになる。こうしたシステムはIaaSやPaaSを用いて、自ら開発する。「SaaSでできることはなんでもSaaSでやり、SaaSがなければPaaS、PaaSがなければIaaSでサーバー立てるというやり方になります。クラウドの恩恵を最大限活用しながら取り組んでいます」と川口氏は語る。

 しかし、どんなユーザーも満足するような鉄板のシステムはないと考えている。そのため、最初に仮説を立てて、小さく試していく中で、ユーザーの課題を解決していくリーン開発に取り組んでいる。こうしたアジャイルな開発が同社のDXの基礎となっている。

コモディティ領域と競争領域では利用するツールも異なる

 約4年前、この組織ができたときはメンバーは5名だった。しかも川口氏は建築のデザイン専門で、kintone活用と現場とITの共創について話す山本氏は機械の設計者。つまり、ITの専門家と言うより、経営や業務課題を理解するメンバーでスタートしたのだ。その後、キャリア採用でSIerやWeb系のエンジニアが来たり、情報子会社や社員のDXに関わりたいメンバーがジョイン。川口氏曰く「ボイラーの整備に使うスパナからkintoneに切り替えた」という。

 三菱重工ではDXを進めるにあたって、ビジネス部門からDX部門に人を異動させて実施するという特徴がある。「事業会社のDXは、ビジネス部門とDX部門でPMを立て、両PMが手を取り合ってやっていくのが一般的。でも、同じ事業会社で同じ目的に向かっているのだからということで、事業の隅々までを知っているビジネス部門の方をDX部門に異動してもらっている」(川口氏)とのことだ。この結果、DX部門は5名から現在は50名になったが、グループ8万人の規模からすると、まだまだ発展途上だという。

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