元ウォーカー総編集長・玉置泰紀の「チャレンジャー・インタビュー」番外編
およそ40年をかけて遂に開館する大阪中之島美術館に来た!
大阪中之島美術館の内覧会にやってきた(2022年1月28日)。この美術館、なんと、スタートは39年前の1983年、時はまだ昭和58年だった。大阪市政百周年記念事業基本構想のひとつとして、近代美術館の建設を発表したのが最初だった。この年には早くも、コレクションの先駆けとなる、山本發次郎コレクションが寄贈されている(今回のオープニング展覧会の目玉でもある佐伯祐三の「郵便配達夫」を含む佐伯作品33点を含む洋画54件56点、墨蹟232件260点、染織288件302点の計574件)。
その後、1988年には近代美術館構想委員会が発足、1990年には近代美術館建設建設準備室が設置され、続々と寄贈、寄託のコレクションも増え、1989年にはモディリアーニの購入を皮切りに、計画的な購入計画もスタートし、コレクションは年々充実していったが、大阪市の財政の悪化もあり、肝心の美術館が長く形にならなかった。それが長い議論の末、施設整備を公共で実施し、運営にPFIを導入することが決まったのが2016年。PFIとはプライベート・ファイナンス・イニシアティブ。公共施設を民間資金で運営するコンセッション方式のことを言う。そして、遂に2月2日に開館することになった。
真っ黒な躯体からなる、個性的な美術館の設計は遠藤克彦。コンセプトは「さまざまな人と活動が交錯する都市のような美術館」。都市に浮遊する黒いボリュームをイメージした建物の中は立体的なパッサージュ(通路)にくり抜かれ、大きな吹き抜け空間に長大なエスカレーターが交錯し、来場者が美術と出会い、パブリックスペースとして、美術館目的でない人が行き来する街の回遊の場としても機能すると説明している。
初代館長の菅谷富夫氏は、1992年より大阪市立近代美術館建設準備室学芸員を務め、2017年からは大阪中之島美術館準備室長に就任したが、30年関わってきたことになる。筆者は関西ウォーカーの編集長時代からの付き合いで、10年以上になるが、内覧会の記者会見で想いを語った。思わず、開館できて幸せという言葉が出た。
「大変長くかかった美術館ですので、思わず、幸せという言葉が出ました。紆余曲折があり30年、40年かかって、収集した6000点から、今回は400点を展示。この展示は、多くの市民の方へのご報告という気持ち。そのため、少しでも多くの収蔵品を見せたいと考えました。
正直、(内覧会の前日)昨日まで間に合うかなと心配していた。今日こういう形でメディアにご披露して、ようやく、実感が湧いてくるかなぁ。
この美術館は、いろいろな使い方が出来る美術館。運営で様々仕込んでいます。開館で終着点でなく、通過点として、色々な通過をしてほしい。
30年間は、この時代に大阪が作り得た作品群とも言えます。(以前語った)大阪の未来への貢献ですが、美術館ができることで未来は変わっていくと思います。近現代の美術館が身近に出来ることで何かが変わるのは間違いない。どこかにある美術館がやってくるのではなく、大阪で作ってきた美術館。この美術館だから体験できることがあり、大阪の街の在り方を変えていく。資料の公開やワークショップや、ここを使ったイベントなどで変えていきたい」
収集・研究・展覧の成果であるコレクションを99の物語で展示。100個目の物語はあなたが
開館を飾る展覧会は「Hello! Super Collection 超コレクション展 -99のものがたり-」(2月2日~3月21日)。40年近くにわたり収集してきた6000点は、関わってきた学芸員らによる収集、研究、展覧(他の美術館などに貸し出しての展示活動)の成果であり、計画的に作り上げられてきた。今回は、その中から600点を厳選し、「Hello! Super Collector」「Hello! Super Stars」「Hello! Super Visions」の3章構成で、4階と5階の展示室を使って展示する。テーマは99の物語だが、100個目の物語は観る人がいて初めて成り立つ。開館がゴールでなくスタートという意味も込められている。
第1章「Hello! Super Collector」は、同館の礎となった「山本發次郎コレクション」(1983年寄贈)、「田中徳松コレクション」(1987年寄贈)、「高畠アートコレクション」(1988年寄贈)の3つの個人コレクションを展示している。
また、コレクションの大きなテーマとしては、大阪に由来した作品が集められていて、佐伯祐三も大阪出身の画家である。また、大阪を描いた作品も多い。
第1章の最後は、黒い壁のコーナー。この黒い壁は、美術館のコレクションの根幹でもある現代美術の潮流、具体美術協会(具体)の、中之島にあった私設展示施設「グタイピナコテカ」(𠮷原治良の所有していた土蔵を改築)の黒壁に因み、敢えてこの色にした。秋には、具体美術協会を特集した「すべて未知の世界へ-GUTAI 分化と統合」展(10月22日~2023年1月9日)を、隣の国立国際美術館と合同で開催されるが、今回は代表的な作家、吉原、今井俊満が展示される。
第2章「Hello! Super Stars」は、収蔵品から25人の作家を厳選して紹介。国内外の展覧会への貸出履歴が多く、これまで広く人の目に触れてきた作品から選んだ。コーナーの冒頭には、最初の購入品のモディリアーニが展示されている。他には、ジョルジョ・キリコ「福音書的な静物」、草間彌生「アキュミュレーション」、森村泰昌「美術史の女(劇場A)(劇場B)」などが並ぶ。
第3章「Hello! Super Visions」では、ポスターや家具など、デザイン分野の作品が並ぶ。1992年から「生活の中の芸術」を収集方針として掲げて椅子や家具などデザイン作品を集めているのも、この美術館の大きな特徴。ポスターについては、大阪の天保山にあったサントリーミュージアム閉館に伴い、同ミュージアムのポスター・コレクション18076点が寄託された。今回の展示では5階のスペースを使って、これらの家具とポスターを同じ空間で、デザイナーなどをリンクさせながら数多く展示している。
大阪を代表する現代アーティスト、ヤノベケンジが語る大阪中之島美術館
今回、この美術館を設計するにあたり、非常にシンプルな黒い躯体にしたわけだが、建築家の遠藤克彦は、美術館の前に、大きなインパクトを与える作品を置くことを考え、菅谷館長らのアイデアもあり、大阪出身で、今も、大阪、京都などを中心に世界で活躍する現代アーティスト、ヤノベケンジの「シップス・キャット(ミューズ)」が、あたかも守り神のように鎮座した。ヤノベと筆者は大阪府の地域アート、おおさかカンヴァスで長く一緒に審査員として活動してきたこともあり、旧知の仲だが、今回、内覧会に駆け付けた彼に話を聞いた。
この美術館は大阪大学の跡地に建てられているが、江戸時代には蔵屋敷が立ち並び、かつては広島藩の蔵屋敷だった。直接、船が入る「舟入」があった。ヤノベによると、船でネズミを捕る為に飼われたシップス・キャットや、エルミタージュ美術館でネズミから美術品を守る警備員として買われた猫を想い、ミュージアム・キャットとして制作した、という。胸の羽のエンブレムは、船首に降り立つ勝利の女神「サモトラケのニケ」を連想して付けた。ヤノベは「中之島のミケ」やね、と笑う。
また、ヤノベの代表作ともいえる7メートルを超える「ジャイアント・トらやん」が4階から5階にかけての吹き抜けに展示されているが、なんと、この展示の為に階段の設計が変更された。美術館が出来てから収蔵品が集められたのと違って、この美術館は収蔵品が先にあったため、エレベータの大きさなど、全て作品に合わせて調整されている。
「ジャイアント・トらやん」は2004年に開館した金沢21世紀美術館のプロジェクト工房で「子供都市計画」の一環として制作された。口から火を噴くこともでき、豊田市美術館や青森、横須賀、タイ、六本木などでも展示され、大阪の北加賀屋の大型アート収蔵庫MASKで収蔵展示されていたが、今回、ここで常設展示されることになった。ヤノベは「大阪で生まれ育ち、活動するアーティストとして、非常にうれしい」と話している。
Hello! Super Collection 超コレクション展 ─99のものがたり─
開催概要
会期:2022年2月2日〜3月21日
会場:大阪中之島美術館 4、5階展示室
住所:大阪市北区中之島4-3-1
開館時間:10時〜17時(入場は16時30分まで)
休館日:月(3月2日をのぞく)
料金:一般 1500円/大学・高校生1100円
※日時指定事前予約優先制
https://nakka-art.jp/exhibition-post/hello-super-collection/
音声ガイドは、ナビゲーターが女優・創作あーちすとの、のんさんが担当
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