【後編】ソリッド・キューブ原田奈美社長インタビュー
原田社長が「モーション業界に“ヒーロー”を作りたい」理由
2022年11月20日 15時00分更新
「ヒーローを作らないと、業界は大きくならない」
―― 現在、力を入れている事業は?
原田 クリエーターマネジメントと自社発コンテンツが新しい事業ですね。自社のキャラクターを作っています。
これはキャラクターでマネタイズするというよりも、広報や宣伝ですね。デモ映像としてお客さんに見ていただき、『なるほど、こういうものを作ってみたいな』というヒントにしていただければと。「まずは表に出ていこう!」という意識でやっています。以前とはずいぶん変わりましたね。
―― 以前は広報・宣伝に消極的だった?
原田 はい。私たちの仕事はクライアントさんとだけつながっていれば、お仕事を受諾することには困りません。だからWebサイトも作っていませんでした。
でも、それを改める出来事がありまして。
2018年あたりから、VTuberさんがモーションを使い始めたときに、知識がないままに開始し、お金がかかった上に失敗してしまい、どうしようとなった際に私たちが呼ばれてサポートに入る、ということが相次いだんです。
ですから、きちんとしたモーションの知識が広がらないと、モーションの効果を誤解されたまま使われなくなってしまうという危機感が生まれました。そこで、コンテンツ東京という展示会に出てVTuberコーナーで「こんなことができますよ」という宣伝の「フリ」をしながら、モーションのお仕事を知ってもらおうという裏テーマを持って啓蒙活動をしたんです。
結果的にそれがうちの転機になりました。私たちが表に出ないと、モーションという職業そのものを一般の方々、そして企業に知ってもらえないということを痛感しました。
―― 特定の企業向けではなく、一般の広い層にも「知ってもらう」ことが重要だと。
原田 技術が発達したことで、モーションは小規模の座組みや予算でも使えるようになりましたし、CGキャラクターがステージに立つことが当たり前の時代になりました。手軽にできるようになったぶん、異業種からの引き合いも増えて、きちんと説明させていただける機会が増えたことは良い流れだと思います。
費用対効果を考えて見直すといったことを含めた正しい使い方をしてもらったうえで、『モーションを選んで良かったな』と思ってもらいたい。知ってもらう活動は、業界全体が良くなっていくことにつながるでしょう。
そして発信するもう1つの理由は、モーションの「仕事の魅力」を伝えることで、業界を目指してくれる人を増やしたいんです。私たちはよく「ヒーローを作らないと、業界の人口は増えない」と言っていて。
―― ヒーロー、ですか。
原田 はい。私もモーションの世界に「ヒーロー」が現われることは重要だと思います。
2021年10月に、ゲーム『君とフィットボクシング』(Nintendo Switch)がTVアニメ化されたんですが、エンディングにモーションアクターの名前もクレジットされたんです。キャラクター名の隣に、声優の大塚明夫さんや石田彰さんと並んで。やっぱりモーションアクターが役名付きでクレジットに出るというのは、すごく大事なことです。
だからこそ、自分たちで発信するメディアが必要だなと。
ヒーローは、メディアが作り出す面があると思います。昔、雑誌にはアニメーターさんや模型のモデラーさんなど、クリエイターの個性がわかるインタビューがたくさん載りました。それによって読者がその仕事や業界に憧れて「なりたい」という人がたくさん生まれたと思います。
私も渡辺由美子さんの著書『声優になりたいあなたへ』を読んで、声優を目指して覚悟を決めて東京に出てきたんです。ヒーローのような声優さんたちがいて、それを伝えるメディアがあったから、私も「よし、なろう」って。
今度は私たちの番だなと思います。かつて受け手だった人が送り手になるように、自分たちが好きで続けているモーションという仕事の魅力を伝えて、次の世代の「ヒーロー」を育てていきたいと思います。
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