PPPoEだけではなく案4に決まった理由 VNEはなぜ3社だったのか?
IPoEの10周年記念イベントが開催! 今だからこそ語れるIPoE誕生秘話
「/22を2つ必要」と言った瞬間……
2009年8月、案4をベースとしたIPv6インターネット接続の認可が下りたが、VNE選定の条件としてISP経由での見込み客の多い事業者が求められた。その結果、選定されたのがNTTコミュニケーションズとIIJを親会社とするインターネットマルチフィード、KDDI系のJPIX(後に日本ネットワークイネイブラー、JPNE)、ソフトバンク系のBBIXの3社のIX事業者。選定の背景について外山氏は、「やはり卸売りに徹するというところが基本にあったのかなと思います」とコメントする。2011年7月にIPoE方式によるIPv6接続が開始し、そこから10年が経過したという流れになる。
苦労したのはVNEとしてIPv6アドレスを割り振ってもらうことだ。APNICのようなアドレス管理団体からIPアドレスを割り振ってもらうためには、利用用途を明示する必要があるが、ユーザー増という明確な理由があるISPに対して、VNEはあくまでNTT東西のネットワーク設備の都合でアドレスが必要になる。「VNE事業者からしてみれば、『NGNで必要としているから』以外の理由はおそらく用意できない」(岩佐氏)ため、アドレスを割り振るAPNICは当然アドレスの割り振りを渋ることになる。
これに対しては岩佐氏は直接APNICに出向き、関係者に理解を求めた。しかも、多くの人たちにきちんと理解をしてもらうことが重要だったという。「会場で(APNICの)ジェフ・ヒューストン氏に『/22が2つ必要なんだけど』と言った瞬間、(怒りで)彼の顔が赤くなったのを今でも覚えている」と岩佐氏は振り返る。
これに対して、岩佐氏はこの規模のアドレスは数社しか必要ないこと、日本のIPv6普及に大きく寄与することなどを説明し、最終的には納得してもらった。「そのとき僕の中では、NGNのUNIでDHCPが払い出すプレフィックス長を48のままではいけない。もっと長くして、必要なアドレス空間をもっと小さくしなければとかたく心に誓った」と岩佐氏は振り返る。岩佐氏はその後担当を外れたが、後輩たちの努力で2012年2月には/48だったプレフィックス長は/56に変更されたという。
「IPoE」という名前はやめたほうがよかった?
2012年にはIPoEの事業者が3社から一気に16社に拡大される。当初3社だった事業者数を速やかに拡大するというのが認可条件だったこともあり、3社に決まってからも技術的にトポロジの変化に対する経路の収束速度の短縮が実現され、16社になった。とはいえ、エッジルーターの処理能力上16社になり、2021年時点では9社のVNE事業者が登録されている。「多くの人たちががんばって拡げた16社ですので、ざぶとんは使い切って欲しい」と岩佐氏は語る。
当初はIPv6サービスは厳しかった。外山氏は、「マルチフィードも相当赤字を出していたが、幸いIX事業があったので、なんとか耐え忍ぶことができた」と振り返るが、これは他のVNE事業者も同じだったようだ。しかし、アドレス枯渇に加え、インターネットの混雑が問題となり、IPv6の高速性に大きな注目が集まるようになった。キラーコンテンツになったYouTubeがIPv6で快適に見られるようになり、NTT側がNGNの接続インターフェイスを強化したことで、今の「爆速」なIPv6インターネットの環境が整った。この結果、NGNでのIPv6の利用率は8割に成長したのは周知の通りだ。
最後、これまでの経緯を振り返った岩佐氏が「IPoEという名前はやめた方がよかった」とコメントすると、会場は笑いに包まれる。「大きな仕事に携わって、自分としても胸を張るんですけど、奥さんや子供に説明しようと思っても、IPoEだか、PPPoEだか、なにやらPが多すぎてよくわからない(笑)。時間が戻せるなら、もっとクールな名前でやりたかった」と岩佐氏は語る。あわせて同じく十年前に戻るなら、VNE事業者を制限せず、アドレス割り当ても、もっと効率的にやれたのではないかとコメント。最後は「NGNはこれからも変わっていくべき」と述べ、次世代のネットワークへの期待を示し、トークセッションを終了した。