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ポスト・パンデミック経済を切り拓く日本企業の切り札はアートと共感力?

2021年12月22日 09時00分更新

文● 嶋田敬一郎/R/GAマネージング・ディレクター

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 去年に引き続きチャレンジに満ちた年となった2021年も最終コーナーに差し掛かかりました。加速的な変化を受け入れることができるバイタリティのある人々に対して、コロナ渦とAI(人工知能)/ML(機械学習)がむしろ多くのチャンスをもたらしていることを実に興味深く思います。

 これから私たちは、予測と準備がさらに困難になるだけでなく、不安定性と混乱の速度が高まるために、決してプラン通りには進まない事態に対してより柔軟な対応が要求されるであろう2022年と、更なる未来の世界へ、勇敢にも足を踏み入れていくことになります。ASCIIでの本シリーズの連載も3回目となりましたが、このような状況下において、ポスト・パンデミック経済で成長、成功するために日本企業が参加すべき5つのイベントのうち、3つ目のイベントを紹介します。

 そのイベントとは、オーストリアで開催される「Ars Electronica」(アルス・エレクトロニカ)です。会場は、首都ウィーンから西に移動し、ウィーンとドイツのミュンヘンの中間に位置するリンツ。1979年の創立以来、アルス・エレクトロニカは、世界のクリエイティブコミュニティにとって参加必須のイベントとなっています。日本には、アルス・エレクトロニカ・ジャパンとして進出を果たし、東京オリンピックでは複数の共同プロジェクトにおいて主導的な役割を担いました。

 IBMのDigital Maker labのリーダーとして在職中、デジタルトランスフォーメーションを推進し、クライアント向けの新しいテクノロジーを使用したソリューションの開発とビジネスモデルの創出をリードする中で、「アルス・エレクトロニカ」には2度参加する機会がありました。2019年には、世界初のAIクラシックコンサートの企画をプロデュース、サポートし、ピアニストのグレン・グールドの演奏スタイルを学習したシステムによる、生身の音楽家たちとのアンサンブルコンサートを成功させました。これは公私にかかわらず、これまでの自分の人生で最も強く記憶に残った経験のひとつとなりました。もちろん、このAIピアニストと音楽家たちによる共創的なイベントが、私にとって3番目のホームタウンとも言うべきオーストリアのリンツにある荘厳な聖フローリアン修道院の大聖堂で開催されたことも強く記憶に残った大きな要因です。

 こうした「アルス・エレクトロニカ」でのプロジェクトによって、私は、自らが率いるチームを構成するメンバーである「マエストロ」たちのニーズを知り、理解する「指揮者」であるべきという自分の役割を確信させられました。そして「アルス・エレクトロニカ」でアート思考を高いレベルで統合した経験のおかげで、EQ(感情知能指数)が刺激を受け、共感的なリーダーシップについての気づきを得ることができたと感じています。

 すなわち、このイベントの最重要テーマであるアートは、概念や状況を他人がどのように認識しているかということに対して、自分の心を開くことができる、高い共感力を私にもたらしてくれたといえるでしょう。そして、批判的思考力と寛容力についても重要なインスピレーションをもたらしました。競争の激しい業界に身を置いた経験があり、また自分のバックグラウンドがテクノロジーであることは、「共感」のような感情的なアプローチからは縁遠いように思えるかもしれませんが、むしろ、他人とつながりながら、自分とは異なる視点や感情に気付き、その意図を理解し相手を気遣えるような、共感的なリーダーシップについての視点を持つことは不可欠です。そういった意味で、本イベントへ参加できたのは、またとない機会だったと感じられます。

 共感力は、現在最も過小評価されているビジネススキルのひとつであるといえるかもしれませんが、リーダーが将来成功するために必要な力であることには疑念の余地がありません。メンバーに共感を伝え示すために取ったリーダーの行動は、モチベーションの向上やイノベーションに貢献し、また、優秀な社員を会社にとどまらせるために役立つことが分かってきています。さらに、全てのビジネスパーソンにとっても、チームをお互いに結びつけ、さらなる躍進のための基盤となる、活発でインクルーシブな職場環境を実現する源泉ともなり得ます。危機の際にはチームがより機敏で革新的になることができるなど、多くのポジティブな結果をもたらすことも期待できるでしょう。まさに、共感力は、チームのメンバー全員に大きな成果をもたらす重要な推進力のひとつであるといえるのです。

 ポスト・パンデミックの職場において、共感は不可欠なものとなるでしょう。私はそのエッセンスを教えてくれた「アルス・エレクトロニカ」に感謝しています。

 「アルス・エレクトロニカ」は、私たちが直面する難題に答えを出すために「アートの力」を活用する方法についての気づきをもたらしてくれるだけではありません。共感力を持つことにより、全体を俯瞰視できるようになり、高い課題解決能力をもたらしてくれることも教えてくれるのです。それは、チームの活動において、刻々と変動する状況に対して、的確に問いを立て、柔軟性高く対応することができる能力が高まることを意味します。私はこの学びのおかげで、より深い自信と、最高の組織こそが採用できる新たな戦略やアプローチについて、見識を獲得することができました。「共感」と「アート」が私たちの様々な視点を育んだことで、謙虚になり、また、批判的思考を通してより多くの発見を得ることができ、結果としてそれが新しいエキサイティングなクライアントとの出会いをもたらしたとも思います。

 不確実であることが確実なこととなったこの時代。今こそ、「アルス・エレクトロニカ」がインスパイアしてくれる共感的なリーダーシップとアートの力が、次のイノベーションに向けて求められています。

筆者:嶋田敬一郎

 米R/GAの日本におけるマネージング・ディレクター。電通イージスグループのグローバル・イノベーション・ディレクター、電通のdXLABのチーフラボオフィサー、日本アイ・ビー・エム Digital Makers Labのリーダーを経て現職。キーノート・スピーカーとしても多くの仕事を手掛け、これまで40ヵ国以上で基調講演やモデレーションを行ってきた。Plug and Play Japanの公式ピッチメンター。内閣府が任命した、GPS衛星「みちびき」の公式エバンジェリスト。

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