トラックボールのメリットを生かすために誕生した「円形ホイールパッド」
もうひとつ、レッツノートの特徴となる部分といえば、円形ホイールパッドだ。ボンネットと同じく、他社製品ではまず目にすることがないものだけに、今でも搭載されつづけているのを不思議に思う人もいるだろう。
実はこの円形ホイールパッドを遡っていくと、トラックボールに行き当たる。
レッツノートが登場した1996年以降、いくつもの機種でトラックボールが採用されており、「レッツノートといえばトラックボール」というイメージが強かった時代がある。その後、一旦はすべての機種からトラックボールが消えてしまったが、ユーザーからの声に応え、2000年には「Let's note B5シリーズ(CF-B5)」でトラックボールを復活させるといったことも行われてきた。
トラックボールのメリットは、キーボードのすぐ近くでポインター操作がしやすいこと。当時のタッチパッドは精度や感度がイマイチなことが多く、ちょっと触れただけでポインターがズレる、普通に動かしていたはずが急に飛んでしまうといった、イライラすることも少なくなかった。それだけに、トラックボールの操作性の良さを知っている人であれば、タッチパッドを使いたくないと思うのも当然だ。
「製品の薄型化でトラックボールの搭載が難しくなってきたということもあって、タッチパッドへと移行することになりました。この時、トラックボールのメリットを何らかの形で残せないか、というところからホイールパッドの採用が始まりました」(白神氏)
ホイールパッドのメリットはいくつかあるが、そのひとつが、スクロール操作がしやすい事。マルチタッチに対応する前のタッチパッドでは、タッチパッドの端を上下になぞることでスクロールが実現されていることが多かったが、大きくスクロールさせたいときは何度もなぞる必要があり、決して操作性が良いものではなかった。
「ホイールパッドは円の外周をなぞることでスクロールが可能で、右回りで下スクロール、左回りで上スクロールといったように、上下スクロールを自在に操作できるのがメリットです。上下スクロールの切り替えに指を離す必要はありませんし、スクロール速度の調整も簡単です」(白神氏)
ちなみに、スクロールの開始こそ外周をなぞる必要があるものの、一旦開始されてしまえば、パッドのどの位置で円を描こうとスクロールは続く。常に外周をなぞる必要がないわけだ。現在のFVシリーズではホイールパッドが大型化されているが、スクロール操作のしやすさは従来通りだ。
なお、FVシリーズではこのホイールパッドの大型化により、マルチタッチやピンチといった操作がしやすくなっている。
とはいえ、一番最初に円形にしようと決めたときには、世の中に円形のタッチパッドというものが存在していなかった。
「パソコンのタッチパッドは四角だというのが当たり前だった時代に、パソコンを担当していなかったデザイナーがやってきて、トラックボールの意匠を継承した円形にしようと提案してきました。世の中の一般常識ではありえない形です。本当に円形でいいのかという議論が色々あったのですが、試しに作ってみたら使いやすいことがわかり、採用に至りました。ただ当時、円形のタッチパッドが存在しなかったため、初代モデルでは四角いタッチパッドに円形のリングを載せ、実現していました」(田中氏)
当初こそイロモノのように見られがちだったホイールパッドだが、その使いやすさが受け入れられ、その後のレッツノートシリーズで採用されるように。また、四角いタッチパッドからの流用ではなく、専用の円形タッチパッドも開発されるようになった。