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超パワーなM1 Pro/M1 Max搭載のMacBook Pro登場 新型AirPodsも! 第21回

新MacBook Pro詳細ベンチマークテストでわかったメディアエンジンの効果は絶大

2021年11月28日 12時00分更新

文● 柴田文彦 編集●飯島恵里子/ASCII

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メモリ容量の効果は実アプリで発揮される

 今回は、ベンチマークテスト用のアプリに加えて、一般的なユーザーが日常的に利用する実用的なアプリを使ったテストも実行した。内容は、①Finder上でサイズの大きなフォルダーをコピー、②やはり大きなXIPファイルを展開、③iMovieで4K動画を480p(または540p)で出力、④Final Cut Proで8Kムービーを4Kで出力、⑤XcodeでiOS用アプリをビルド、という5種類の処理にかかる時間をストップウォッチで計測するというもの。したがって、ここでのテスト結果の数字の単位は、すべて「秒」であり、数字が小さいほど高速ということになる。

 このような実用アプリによる処理では、ベンチマーク用アプリに比べて時間のかかる処理も多く、プロセッサーに対する重い負荷が比較的長時間続くことになる。そのため、M1 ProとM1 Max搭載機では、バッテリー設定にあるエネルギーモードがパフォーマンスに影響を与える処理もあると考えられる。そこでため、ここでは同じテストをエネルギーモードを変えて実行し、時間を測定している。

 また、ベンチマークテスト用のアプリとは異なって、実用的なアプリでは、大量のデータを処理するものも多い。その際には搭載しているメモリ容量が結果に影響を及ぼすことも少なくない。今回テストに使用した新しいMacBook Proの14インチモデルの搭載メモリは16GB、16インチモデルは64GBとなっている。新しいモデルについては、それ以外のメモリ容量のテストはできていないが、2020年のM1搭載の13インチモデルについては、以前に8GBと16GBのそれぞれの容量のメモリ搭載モデルでテストしているので、その結果も今回まとめて示す。

 まずは、テスト結果全体を表で確認しよう。

実用アプリによる各種実行時間の測定結果一覧表

 ①のFinderによるフォルダーコピーは、実は一般的なフォルダーではなく、iMovieのアプリケーション本体をデスクトップ上で複製するのに要する時間を計測した。macOSのアプリの正体は、パッケージ、あるいはバンドルと呼ばれる複雑な構造を持ったフォルダーに他ならない。現バージョン(10.3)のiMovieの場合、サイズは約2.65GBで、その中に含まれる項目数は約2万3900もある。これは、ディスクのランダムアクセスによる読み込み+書き込みのテストの一種と考えてもいい。

 ただし、これらの数字はiMovieのバージョンによって異なる。実際、2020年のM1搭載のMacBook Proモデルを計測した際のバージョンは、10.2で、サイズは約2.77GBだった。フォルダー内部の構造に大きな違いがあるとは思えないが、サイズは若干小さくなっているので、どちらかと言うと、新しいMacBook Proに有利な変化だと考えられる。

 しかし結果は意外なものとなった。グラフで確認するとはっきりする。

Finderフォルダーコピーにかかる時間のグラフ

 新しいMacBook Proでは、いずれもM1搭載モデルよりも逆に時間がかかっている。それも誤差範囲ではなく、ざっと言えば2倍近くの要する場合もある。テストでは、いずれも3回ずつ計測して、最小値を取っているが、値は安定していて、突発的な結果のブレというわけでもない。

 この理由を正確に推測するのは難しいが、macOSのバージョンも異なるので、新しいFinderの最適化が不十分なのではないかとも考えられる。今後のmacOSのアップデートとともに劇的に変化することも考えられるので、別の機会に改めて評価したい。

 ②のXIPファイルの展開は、Xcodeインストール用の圧縮ファイルを、デフォルトのアーカイブユーティリティで展開するのに要する時間を計測した。Xcodeは旧バージョンも入手可能なので、全モデル共通で、サイズが11.44GBのバージョン12.2の圧縮ファイルを使った。現在のCPUでは、圧縮ファイルの展開処理など、大した負荷にはならないと考えられる。このテストは、ディスクのシーケンシャルな読み出し(圧縮ファイル)とランダムな書き込み(アプリ本体)を組み合わせたテストに近いだろう。

 結果は、新旧のM1チップ間でも大きな差は見られず、比較的平坦なものとなった。

XIPファイル展開にかかる時間のグラフ

 M1 ProとM1 Maxでは、低電力モードで時間が長くかかっていることから、SoCやSSDの発熱もある程度大きめの処理だとわかる。M1 Maxの「自動」モードが「高出力」モードよりもやや速いという結果が出ているが、このような現象は他のテストでもまま見られる。いずれも差はわずかだ。

 ③のiMovieの出力テストは、約50秒の4Kビデオ(ファイルサイズは約125MB)を、再エンコードして出力する時間を計測する。iMovieの新バージョンでは、以前のバージョンから出力可能なビデオの解像度が変化した。そのため、M1チップのMacBook Proでは480p、新しいM1 Pro、M1 Max搭載モデルでは540pの出力となっている。出力するデータ量では後者の方が多く、若干不利となる。

iMovieで4Kビデをを480p(540p)出力するのにかかる時間

 結果はM1チップの世代、グレードによって差がはっきりと出るものとなった。エネルギーモードも含めて順当な結果となっている。特に2020年の13インチと、新しい14インチ、16インチモデルの差が大きく、ざっと2倍以上となっている。これは、M1 ProやM1 Maxを搭載し、ビデオのエンコードにも使用されるメディアエンジンの効果と考えられる。また、iMovieのバージョンが異なるので、アプリの最適化レベルの違いが出ている可能性もある。

 ④のFinal Cut Proでは、同じムービーファイルの出力でも、さらに大きな差がついている。これは、25個の8Kビデオクリップをコンポーズしながら約43秒の4Kビデオファイルとして出力するもの。

Filnal Cut Proで8Kビデを4K出力するのにかかる時間

 この場合、エンコード処理して出力するデータ量も多く、実装メモリ容量によって速度が大きく影響を受けているように見える。特に、M1チップの8GBと16GBの差は顕著だ。同じ16GBでも、M1とM1 Proの差が大きいのは、iMovie同様に、メディアエンジンの効果が大きいと考えていいだろう。M1 ProとM1 Maxの差がiMovieよりも大きいのは、処理するデータ量が大きいために、実装メモリの16GBと64GBの差も強く影響していると考えられる。

 最後の⑤のXcodeによるビルド時間は、アップルがデベロッパー向けに提供している「SwiftShot」というiOS向けARゲームアプリのサンプルコードをビルドするのにかかる時間を測定している。

Xcodeで「SwiftShot」をビルドするのにかかる時間

 この結果は、2020年のM1チップ搭載モデルから、最新のM1 Pro Max搭載モデルまで、他の多くのテストに比べて差が小さいものとなった。アプリの開発に限って言えば、特に実装メモリ容量の違いが速度に与える影響も大きくはなさそうだ。

 全体として、基本的なCPU性能やGPU性能の違いもさることながら、ビデオエンコード処理におけるM1 ProやM1 Maxの速さが印象的だった。また、処理内容によっては実装メモリ容量が速度に大きく影響することもあるため、用途と処理内容を見極めてオプションを選択する必要があることもわかった。

 

筆者紹介――柴田文彦
 自称エンジニアリングライター。大学時代にApple IIに感化され、パソコンに目覚める。在学中から月刊ASCII誌などに自作プログラムの解説記事を書き始める。就職後は、カラーレーザープリンターなどの研究、技術開発に従事。退社後は、Macを中心としたパソコンの技術解説記事や書籍を執筆するライターとして活動。近著に『6502とApple II システムROMの秘密』(ラトルズ)などがある。時折、テレビ番組「開運!なんでも鑑定団」の鑑定士として、コンピューターや電子機器関連品の鑑定、解説を担当している。

 

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