新宿グランドターミナルの再編 第2回

「新宿の拠点再整備方針~新宿グランドターミナルの一体的な再編~」始動! vol.2

【連載/新宿再開発】 “現代の宿場町” 新宿を再構築! 新宿区と東京都が見据えるこのまちの未来

文●岡田知子(BLOOM) 写真●曽根田 元

提供: 東日本旅客鉄道株式会社、小田急電鉄株式会社、東京地下鉄株式会社、京王電鉄株式会社、西武鉄道株式会社

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東京都は「国際的に東京の発展を先導していく重要拠点」として
新宿を再整備

――東京都から見た新宿とはどんなまちですか?

安部(東京都 都市整備局理事)「新宿は、戦後の復興計画によって歌舞伎町の繁華街が誕生し、副都心計画によって西新宿の淀橋浄水場跡地に超高層ビル地区が整備されるなど、新宿駅を中心に個性的なまちが形成され、高度な都市機能が集積されてきました。そういう意味で、東京の活発な都市活動を支えるような拠点、存在だと思っています。

東京都 都市整備局理事の安部文洋氏。航空政策、交通基盤整備、交通政策を主に担当する

 こうした中、東京都は2021(令和3)年3月に〈『未来の東京』戦略〉を策定しました。2040年代の東京の姿を見据えたもので、その一つとして都市機能をさらに高め、新宿駅周辺に国際競争力を備えた魅力的な拠点を形成することを目指しています。具体的には、新宿駅直近地区については、駅ビルの建て替えを契機とした駅、駅前広場、駅ビルなどの一体的な再編などを行っていきます」

――「国際競争力」とはどういったものですか?

安部「国内外の人や企業が、この地に投資したり、アジアの拠点としたりするようなイメージです。新宿に限らず、大手町、丸の内、有楽町、八重洲、日本橋、渋谷、品川など各拠点で競争し合いながら、東京を国際競争力のある都市にしていけば、投資も含めて人や金が集まってくる。そうした選ばれる拠点になるために、ビルの機能更新、道路整備、インフラ整備などを行う必要があります。それが、東京全体、また新宿の都市づくりの目標でもあります。今までの東京の集積を生かして、人・モノ・情報がさらに活発に交流できるようになれば、また新しい価値も生まれてくると考えています」
 

区画整理+駅ビルと駅の改良+人中心の賑わい。
三位一体で完成する「新宿グランドターミナル」


――2018(平成30)年に新宿区と「新宿の拠点再整備方針~新宿グランドターミナルの一体的な再編~」を策定しました。新宿駅直近地区ではどのような事業が展開される予定ですか?

安部「新宿駅一帯を『新宿グランドターミナル』として再編するに当たり、東京都が施行者となって土地区画整理事業を行います。具体的には、駅の東西に歩行者優先の『東口駅前広場』『西口駅前広場』、線路上空に『東西デッキ』などを整備していきます。民間事業者により複数の駅ビルの機能更新も順次行われる計画です」

新宿区直近地区の整備イメージ。線路上空に「東西デッキ」を新設し、地下空間に集中する歩行者を分散化。東西に駅前広場も整備し、滞留空間をつくり出す

――東西の「駅前広場」や「東西デッキ」とはどういったものになる予定ですか?

安部「駅前広場は、車道の一部や駐車場の出入口を再構成して、歩行者空間を広げるようにつくり替えます。西口駅前広場からは西新宿の高層ビル街を、東口駅前広場からは歌舞伎町方面を望める空間となる予定です。

 東西デッキは、新宿駅の線路上空に新設される予定です。2020(令和2)年に開通し、新宿区が主体となって整備が進められてきた新宿駅東西自由通路と合わせて、駅とまちを『東西骨格軸』でつないでいくというものです。

 広場、デッキともに一部完成は2035(令和17)年度。現在の新宿駅の由来となる『内藤新宿駅』が開業した1885(明治18)年から150年に当たる年なので、これに合わせて事業計画を進めています」

――新宿駅の具体的な改善計画は?

安部「新宿駅は複数の路線が乗り入れ、さまざまな地域の多くの人に利用されている一方、時代とともに建物や線路が追加されているため、駅の構造が複雑で、出入口が分かりにくくなっています。

 こうした課題に対応するため、エレベーターの整備といったユニバーサルデザインなども取り入れながら、駅改札や東西デッキ、駅前広場などを連続させていきます。同時に、駅改札からまち側への見通しも確保して、駅からまちへとつながる、分かりやすく快適な歩行者ネットワークをつくっていきます。

 東京2020オリンピック・パラリンピック開催を機に、新宿区や関係者と協力しながら、すでに駅構内の案内サイン(表示板)の内容やデザインの統一などを行いました。今後は、GPSが機能しない駅の地下でも使える屋内案内誘導アプリの民間による実用のほか、東京メトロ丸ノ内線新宿駅と西武新宿駅を地下通路でつなぐ計画なども進める予定です」

本庁舎勤務が大半で、「人生のかなりの時間を西新宿で過ごしている」という安部氏。第一、第二本庁舎の間の道路から見上げる都庁の風景がお気に入り

東京都が考える東京、そして新宿のこれからとは?


――東京都としては、今後の新宿にどんな期待をされていますか?

安部「人口減少や超高齢化、気候変動、災害に加え、今回の新型コロナウイルスのような感染症の脅威は今後も起こり得ること。そういう中で、新宿に限らず、東京全体の都市づくりは『サステナブル・リカバリー』の視点がポイントとなります。

 例えば、今回再編する西口の駅前広場には、新しいモビリティの発着所をつくることも検討されており、先端技術も活用しながら、『ゼロエミッション』(環境を汚染したり、気候を混乱させたりする廃棄物を排出しない社会システム)の東京を目指しています。地球環境と調和を図りながら、持続的に発展していくという考え方を基本に、都市づくりを進めていきたいと思っています」

――都市づくり、まちづくりはハード面などに時間がかかります。

安部「そうですね、特に東京は地上にも地下にもさまざまな施設があるので、いろいろな機能を生かしながら進めると、どうしても時間がかかります。

 ですが、これまでのストックもちゃんと生かしながら、人・モノ・情報の活発な交流を促し、新たな価値を生む、世界中から選ばれる都市を目指していきたい。新宿においてもそのような考えの下、まちづくりを進めたいですね」

――新たな建物や設備を造って終わり、ではないわけです。

安部「『新宿グランドターミナル』の再編によって、巨大ターミナルにふさわしい交通結節機能が備わり、周辺の各エリアがつながります。同時に、高質で重層的な歩行者空間などが整備され、賑わいや交流が生まれる『人中心のまち』が形成されます。また、まちの価値を維持向上させる地域主体の活動が相まって、各エリアの間で活発な交流も生まれ、持続的に個性あるまちをつくることができます。

 こうした都市づくりを通じて、新宿は、東京の発展を先導し、国際競争力を備えた魅力的な拠点として成長し続けてほしいと考えています」