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遠藤諭のプログラミング+日記 第100回

Raspberry PiのっけたPC-8201? DevTermで行こう!

2021年09月09日 09時00分更新

文● 遠藤 諭(角川アスキー総合研究所)

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プラモデルみたいに部品をプチプチやって組み立てる

 このコラムが100回目なんだけど、それにピッタリな製品が届いたので紹介したいと思う。私の大好きな、ちょっとレトロで、オモチャみたいで、それでいて最新のトピックという領域。そのスジでは、発売の何カ月も前から話題になっていた教育向けの液晶+キーボード一体型コンピューター「DevTerm」だ。

 このマシンの魅力は、デザインを見てもらうだけでもう十分な気もするのだが、どっこいそれだけでは語りきれない製品だと思う。発売したClockwork Tech LLC(米国はカナダに接したミネソタ州にあるらしい)のやること、考えること、コンセプトがいちいちカッコいい。

 いわゆる組み立てキットになっているのだが、箱をあけると、基板以外のすべてのパーツが、プラモデルみたいにランナーからニッパで切り離すようになっている。プラスチックのパーツ1つ1つは、きちんと作られていて満足のいく品質だ。

箱をあけると「プラモデル?」というのが最初の印象。

箱の下からはフルキーボードや3つの基板。液晶パネル。下のCPUコアモジュールは選べるようになっていて、私のはRaspberry Pi CM3版だ。

アセンブリガイドは、家具などの組み立て説明図みたいな感じで淡々と進む。英独中日に対応。全体にデザインがよい。

 ほとんどネジというものを使わず(1カ所だけあるのだがほぼ不要)、十字型の穴と突起を組み合わせるよくできた太めのピンで組み立てていく。そして、全体の形状でもっとも大きな特徴の1つが、左右についているつまみだ。これは、デザイン上のアイコンでもあるわけだが、いつでも手でクルっと回して外すと本体ケースが上下2つにカパッと開くようになっている。

本体左右のつまみ。同社が以前発売したゲームボーイ風のデザインの「GameShell」も同じしくみ。

組み立て後に本体カバーを開くとこんな感じになる。キーボードはフィルムケーブルではなくピンがはまる感じで持ち上げるだけで外れるしくみ。

 日常的に本体ケースを開けられることにどの程度のニーズがあるのか、一部の開発者たちはとても重宝するのかもしれない(私には正直わからない)。しかし、Clockwork Tech LLCは、中身が見れるだけで価値があると考えているようだ。底面も2種類のオプションがあり1つはトランスルーセント。

 同社によれば、コンピューターは「時計仕掛け」のようにいくつもの部品の組み合わせでできている。アイザック・ニュートンは、宇宙は時計と同じように法則と秩序にしたがって動いていて、「時計」の発明が現代文明の触媒になると考えていたそうだ。

 さすが、近代科学の祖、空前の大天才とされたニュートンだけのことはある(同時に不確定性原理以前のニュートン物理学的でもあるのだが)。DevTermの本体を開くと、そのアイザック・ニュートンの言葉をいま受けとめることになる!! みんな大好きな「分解」にこんな偉大な意味がかくされていたとは! わかる。

 しかし、DevTermの最初に目にとまる特徴は、やはり、そのレトロなデザインだろう。NECが1983年に発売した「PC-8201」やその米国版であるタンディの「TRS-80 model 100」をほうふつとさせるものがある。むかしのパーソナルワープロやMSXみたいだと表現している人もいた。米国では「ブリーケースコンピューター」と呼ばれたフォームファクター(製品形状)になっている。

 このレトロデザインの採用、私みたいな「オヤジが懐かしがってよろこんでいるだけでしょ」というのかというと、必ずしもそうではない。「子ども向けのコンピューターでこのデザインもよいでしょう」というような感じなのだ。もちろん、大人が「むかしはこんなコンピューターがあったんだよ」と子どもと対話するのもよいだろう。

 気になるのは1点だけ、すでにお気づきのとおりその大きさである。オリベッティの「M10」(PC-8201やTRS-80 model 100と同型のコンピューター)と並べてみたのだが、DevTermが、ふたまわり以上小さい。フットプリントはA5判。とくにキーボードは使ってみないとなんともいえない。ディスプレイは、6.8インチのIPS液晶 で1280×480ピクセルだ。

オリベッティM10とDevTerm。このミニチュア感もちょっと楽しいのではあるが。

ファミコンのカセット感覚でCPUコアモジュールを差し替えよう

 DevTermは、メインボードに設けられたDDR2-SODIMM 200 ピンスロットにCPUが載ったコアモジュールが差さる構成になっている。私が購入したのはRaspberrypi CM3+ Liteのモジュールだが、ほかにARM Cortex-A53などを搭載した4つの独自コアモジュールから選べるようになっている。

 同社によると、コアモジュールのCPUとして、FPGA+ARM、RISC-V、さらにはx86系もテストを行っているそうだ。気分としては、ファミコンなどのゲームカートリッジを差し替える感覚でCPUを入れ替えることができる。また、この設計図や回路は、デバイスドライバーなどとともに、GitHubにてGPL v3 ライセンスで公開されている。このあたり、さすがに「DevTerm」という名前もダテではない根性の座り方だと思う。

 ところが、公式ページのコアモジュールごとのオススメ用途を見ていくと、ごく当たり前のエディタ、ウェブ利用、プログラミングあたりがメインになっている。つまり、「ふだん使い」のマシンとして提案しているわけだ。

 基板むき出しのシングルボードコンピューターであるRaspberry Piだが、よく見れば外部インターフェイスも使えるソフトも十分にある。だったら、もう「ふだん使い」のパソコンとして使おうというわけで、コンセプト的には、誠文堂新光社『子供の科学』の「ジブン専用パソコン」「Raspberry Pi 400」といったあたりと近いわけだ。なお、Raspberrypi CM3+ Lite版で価格が249米ドルだった。この内容ならなかなかお買い得なお値段といえる。

アプリケーションのメニューから「プログラミング」を開いたところ。

 ブラウザのChromeでYouTubeなど不自由しないし、LibreOfficeでワープロや表計算も入ってる。日本語入力も、iBUSとMozcをターミナルからインスールするだけで5分もあれば使えるようになる。Mozcは、グーグル日本語入力 のオープンソース版なので、辞書や変換精度は申し分ない。

 なお、動作OSは、Raspberry Pi CM3+ LITEのコアモジュールでは、Raspberry Pi OS。独自のコアモジュールでは、Debian 9 ARMhfとLinuxカーネル 5.2に基づくというClockworkOS。Ubuntuも利用可能とのこと。

 気になるのは、先にも触れたとおりキーボードが小さいことだろう(キーピッチは実測13ミリ)。「これじゃ、PC-8201みたいにキーボードをバシバシ叩いて使えないじゃん」となりそうだ。しかし、まあポチポチと入力するのはそれほど大変ではなかった(タッチもお世辞にもよいとは言えないがHP200LXのキーピッチは10.5ミリだ)。子どもの手なら大人ほどの違和感はないとも思われる。

 それよりも楽しいのは、キーボード左上のPC-8201ソックリな方向キーと、右上にあるゲーム機風のABXYボタンだろう。キーボード正面上のミニトラックボールは、少々慣れが必要。なにかまとまった作業をするのならBluetoothマウスを使うのがよさそうだ。

DevTermのキーボード。

 そして、個人的に「おっ」と声に出してしまったフィーチャーが、本体の後部にロール紙のカートリッジを脱着して使える感熱式プリンタを内蔵する点である。この点ではエプソンの「HC-80」(1982年発売)みたいでもある。1年半ほど前に感熱ロール紙式のカメラにはまっていた私としては、とても萌える部分である。

レジで標準的に使われる58ミリの感熱ロール紙のカートリッジを装着して印字したところ。解像度は200dpi。

 電源は、USB給電だがバッテリ動作も可能。別売の18650という単三電池を大きくしたようなバッテリを使う。18650は、探してみると電子タバコVAPE用のものが売られていたので、それをこの教育用コンピューターに入れて動かしている。

 このコラムをよくご覧になっている方は、お気づきのとおり、ここのところ昔のコンピューターをナノブロックやプチブロックで作っている。それをやっていると、時代によってコンピューターに求めるものが変化してきたことを感じることが多い。それでは、このDevTermというコンピューターは、どのような欲求によっていま生まれてきたのだろう? ニュートンにならっていうなら、Raspberry Piが現代文明の触媒になっている。DevTermのいちばんそれらしい使い方は、子どもがいつでも持ち歩いてScartchをやっているみたいなことだろう。

プチブロックで作ったTRS-80 model 100とDevterm。

 

DevTerm:https://www.clockworkpi.com/devterm
Clockwork Tech LLC:https://www.clockworkpi.com/
「ブロックdeガジェット by 遠藤諭」:https://www.youtube.com/playlist?list=PLZRpVgG187CvTxcZbuZvHA1V87Qjl2gyB

 

遠藤諭(えんどうさとし)

 株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。「AMSCLS」(LHAで全面的に使われている)や「親指ぴゅん」(親指シフトキーボードエミュレーター)などフリーソフトウェアの作者でもある。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。

Twitter:@hortense667
Facebook:https://www.facebook.com/satoshi.endo.773

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