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電子サインの活用拡大に取り組む企業向け

電帳法の改正や電子サインの全社導入事例を紹介、「Adobe Signユーザー会」

2021年08月12日 19時00分更新

文● ASCII

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Adobe Signユーザー会の概要を紹介

 アドビは、7月8日にオンライン開催したAdobe Signユーザー会の概要をAdobe Blogにて公開した。本イベントでは、製品の最新情報から法務関連の最新動向、活用事例の紹介やユーザー間でのグループディスカッションなどを行なった。

Adobe Document Cloudや他社ソリューションと連携できる
Adobe Signの強みとは

 今回のユーザー会は、まずアドビから国内における電子サインの需要動向とAdobe Signソリューションの強みについて解説した後、専門家による「電子帳簿保存法の改正と対応」と、ユーザー企業によるAdobe Signの活用事例の紹介が続いた。その後に、個別のテーマに分かれてグループディスカッションを実施し、Adobe Signの最新開発動向について紹介した。

 最初にアドビ カスタマーサクセスチームの徳永氏が登壇し、「Adobe Signを始めとする電子サインの需要は2020年以降急拡大し、2017年から2024年の7年間で10倍になると見られています」とニーズが拡大していることを説明した。

 ただ、電子サインは「デジタル上で署名・捺印すれば終わり」というものではなく、一連の業務プロセスのなかで行なう行為であり、一例として電子契約のプロセスを考えると、社内には「相手側に提出する契約書ドキュメントのレビュー・承認」というプロセスがあり、社外では「契約内容の確認・説明から契約捺印、保管」といった形で業務が流れる。

 「そのためアドビでは、Adobe Signと共にDocument Cloudを提供することで、文書の作成からコラボレーション、セキュリティー保管という一連のライフサイクルをトータルで実現しているのです」(徳永氏)

 これをより強固にしているのが、Microsoft Office365やMicrosoft SharePoint、Microsoft Teamsといったマイクロソフト製品との連携だ。さらに、SAP Aribaやサイボウズのkintone、セールスフォース、NTTデータイントラマートの製品などとも連携が可能であり、あらゆる業務のワークフローでAdobe Signを適用できるのが、アドビの最大の強みとしている。

改正間近の電子帳簿保存法、何が変わるのか

 続いて登壇したのは、アドビのパートナーであり、Adobe Signのユーザーでもあるk&iソリューションズ 代表取締役社長 CEOの村上啓一氏だ。

 k&iソリューションズは、弁護士や税理士、社労士から成る士業法人を母体とするケインズアイコンサルティンググループの一員として活動している。電子契約をはじめとした業務効率化ソリューションやガバナンス全般にわたるコンサルテーションを手がけ、Adobe Signやサイボウズのkintoneのパートナーとして企業の業務改革を支援している。今回は、電子契約の運用と密接に関わる電子帳簿保存法(電帳法)の改正について講演した。

 企業が文書データを適切に保管するための要件を定める電帳法が令和4年1月に改正される。現在判明している改正ポイントには、タイムスタンプ付与や検索機能に関する要件の緩和、それに「電子取引で交わした文書データについて、紙で出力して保存することを認めない」という措置がある。

 特に大きいのは、最後のデータ保管要件だという。これまでは請求書や領収書、発注書といったデータは、プリントアウトして紙で保管するのが常識だったが、今回の改正では真逆になる。村上氏は「電子契約の実行から文書管理まで包括的に管理できる仕組みが必要です」と説明。

 Adobe Signは電帳法で定められたタイムスタンプ付与などの要件を満たしているうえ、文書の電子保存に関しては「kintoneと連携することで高度な検索要件にも対応が可能となり、より効果的に電帳法に対応した保管を行なうことができます」と村上氏は話した。

パーソルホールディングス事例
「Adobe Signの全社展開を一気に進められた理由」

 ユーザー会のメインともいえる事例セッションには、パーソルホールディングス グループデジタル変革推進本部 ビジネスITアーキテクト部 部長の中桐亮氏が登壇した。

 パーソルグループは、人材派遣・人材紹介など「人」を軸に、ITソリューションやプロダクトなど多様な事業を展開している。パーソルグループは2017年にAdobe Signを導入し、他社との契約件数が他部門に比べて圧倒的に多いIT部門、それも特に取引が多かったグループ内の2社にしぼって先行導入を進めた。

 導入後の安定稼働を経て、その後もパーソルグループの他企業・他部門に横展開する予定だったが、2019年前後に導入をリードした当時の担当者が退職。その後1年、Adobe Signの低迷期が続いた。

 2020年に感染拡大が広がったCOVID-19の影響で状況が一変。中桐氏は「緊急事態宣言が出た4月にはほとんど出社していない状態になり、テレワーク自体は加速していたのですが、それでも『請求書対応』や『捺印』などの理由で出社せざるを得ない状況でした」と打ち明けた。

 この大きな課題を受け、「捺印電子化プロジェクト」が発足。最初の導入時点では社内規定や管理の面で考慮できていない点がかなりあることが判明し、「そのまま横展開はできない」という事態に遭遇した。

 これを受け、ビジネスITアーキテクト部のほか、リーガルとガバナンスを司る法務部門、社内規定を担当する総務部門の3つの部門でタスクフォースを結成。(1)書類ごとに法規定が異なる場合があり、どの書類が捺印電子化できるのか、利用部門ごとでの判断が難しい、(2)社内規定は紙での捺印前提で設計されており、電子化という点ではまだ足りていない点がある、(3)電子帳簿保存法に則した電子データの保管がなされていなかった、という大きな3つの課題解決に向けてプロジェクトを進めた。

 (1)の課題については、電子サイン導入のプロセスを標準化すると共に、導入を希望する部門の担当者が相談しやすい環境を作って対応した。導入相談を受けると、法務・総務・ITのチームがチェックをして、電子化に法的な問題や社内規定に抵触していないかを確認し、IT部門がAdobe Signのサポートを担当。これにより、導入のハードルが下がったという。

 (2)は、電帳法に準拠し、電子化に即した社内規定を再整備することで対応した。ここもIT部門が積極的に動き、システム対応を過剰にすることなく、規定を変えることで文書管理の負荷を軽減するルールを策定したという。社内文書規定で電子データの保管規定を明確化し、さらに電帳法に準じ、改ざん防止を定めた事務処理規定を作成した。

 (3)の場合は、kintoneを活用してクイックに電子文書を管理するアプリを1日で構築し、IT部門で調整しながら運用設計を行ない、他部門へ展開した。説明会を開催し、Adobe Signと電子文書管理の運用方法をレクチャーすることで、他部門への展開が進んだ。

 この結果、2社でしか利用されていなかったAdobe Signの利用がグループ内数十社に拡大。以前だとAdobe Signは1種類の契約書にしか適用されていなかったが、今回のプロジェクトで14種類に広がり、「よりテレワークを進めやすくなりました」と中桐氏は説明した。

パーソルホールディングスにおけるAdobe Sign導入・活用の推移

Adobe Signは生産性・業務変革効果を強化へ

 最後にアドビの鈴木氏が登場し、Adobe Signの新機能とロードマップについて説明。今年度においては、「生産性強化」「業務プロセスの変革」という2つの戦略を軸に開発を進めており、よりコラボレーションしやすく、安全性の高い電子サインソリューションとして機能強化を図っている。また、モバイルデバイスへの最適化を行ない、操作性・視認性も一層向上しているという。

 質疑応答では、活用事例を紹介したパーソルホールディングスの中桐氏に「社内での展開と同じように、電子契約する社外のネットワークをどう広げていけばいいのか」という質問や、k&iソリューションズの村上氏に「電子契約と紙の契約を併用して対応するにはどうすればいいか」といった具体的な質問が飛び交った。

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