新型エルゴノミックキーボードの効果を解説
結局エルゴノミクスって何がスゴイの? 理学療法士に聞いた「ERGO K860」が美姿勢に導くメカニズム
2021年08月02日 11時00分更新
7月20日、ロジクールはエルゴノミックデザインのキーボード「ERGO K860」の国内発売を発表した。同製品は8月19日発売予定で、直販価格は1万6940円となっている。
同社の「ERGO」シリーズと言えば、エルゴノミクス(人間工学)に基づいて設計されており、印象的な形状の製品も多い。今回のERGO K860もその例にもれず、キーボードとしてはかなり特殊な形状をしている。
しかし、エルゴノミクスと謳ってこうした独特なデザインをしている製品を見ると、正直な話かなりの“イロモノ”という印象を受けてしまうのは否めない。「インパクト重視で、実際には大した効果はないんじゃないのか?」と思ってしまう人も多いのではないだろうか。
一口にエルゴノミクスといっても、結局それがどういった効果を及ぼしているのかが分かりづらい。「なんか凄そう」なのは分かるが、果たしてこの形状をしているのは具体的に何の意味があるのかが分からなければ、実際に効果を発揮しているのか確かめる術がない。個人の感覚にゆだねられてしまう部分があるので、うさん臭く感じてしまうこともあるだろう。
そんな中、今回筆者は、理学療法士・医学博士の岡崎倫江先生に、ERGO K860がどういった効果があるのか、エルゴノミックデザインによって目指す効果はどういったものなのか、解説してもらうワークショップに参加させてもらうことができた。
理学療法士は、解剖学や運動学的な観点から骨や関節、筋肉を生体が本来持つ良い状態に整え、機能的にカラダを動かすためのベースづくりをサポートする仕事。つまりは健全な身体を整える上での専門家と言える。
先生には以前、ASCIIでエルゴノミックマウス「MX Vertical」の効果について解説して頂いたこともある。今回はキーボードの観点から、どのような設計思想があるのかを聞いてきた。
ワークショップで姿勢の大事さを学んできた
まず前提として、「エルゴノミックデザインとは?」といったところからおさらいしておこう。ワークショップを受けるまでの筆者は、「より楽に、力を入れずに扱える設計」を指す印象だった。
しかし実際には、「より正しい姿勢に導く」のがエルゴノミックデザインの狙いであるようだ。正しい姿勢とは、ただ楽な姿勢というわけではなく、身体を支えるために必要な骨と筋肉を適切に使用することが重要なのだそうだ。てっきり筋肉をなるべく使わないようにするのかと思いきや、そうではないらしい。
無論、身体のあちこちに無駄に力のこもった姿勢がいいということではない。ここで言う必要な筋肉とは、主に体幹を支えるインナーユニットと呼ばれる筋肉群。腹横筋や脊柱を支える多裂筋などの筋肉だ。
特に、座った姿勢ではこうしたインナーユニットを適切に使えていない姿勢になってしまうことが多い。筆者も経験があるが、長時間座っているとイスの背もたれに身体を預けてしまうなど、だらけた姿勢になっていることはないだろうか。
よりラクな姿勢へと流れてしまうのは当然といえば当然だが、それはつまりとことん筋肉を使わないような姿勢になっているということ。筋肉は使わなければ弱りもするし、柔軟性も落ちる。体幹を支える筋肉が弱れば、重力に対して身体を支える力も弱まり、普段の何気ない生活でも疲れやすくなってしまう。柔軟性が落ちると筋肉が緩みづらくなり、疲れも取れにくくなる。
「そういえば最近、ちょっとした階段を上っただけで息切れしたり、しっかり寝ても身体がなんだか重く感じたりするな……」と、筆者としても思い当たる節はあったが、さらに恐ろしいことに、不適切な姿勢で長時間座る生活を続けていると、心血管疾患や糖尿病のリスクなども高まってくるという。姿勢が悪いというのは自覚しつつも、大して危機感は抱いてはいなかったが、今回の話には驚かされた。
しかし、そうは言っても仕事などで座って作業せざるを得ない場面は多い。特に近年は、新型コロナウイルス感染症の影響でテレワークが急速に広がった。そうした生活のなかで、めっきり家の外に出る機会が減り、座っている時間が増えた人も少なくないだろう。
時折立ってストレッチなどをすれば身体に良いとは思いつつも、そうそう頻繁に席を離れてもいられない。だからこそ、座っている時の姿勢がより重要になってくるのだ。