クリーニング方法はとても簡単で早い!
それではレコードクリーニングをしてみましょう。やり方はカンタン。クリーニングするレコードをプロディジーにセット。本体の電源スイッチを押すと、盤が回転しはじめ、吸引ポンプが動作します。動作音は、ひと昔前の熱帯魚育成用空気ポンプと同程度といったところ。
続いてエコ・ローラーを盤に接触。そのすぐ近くからクリーニング液を塗布し、レコード全面が濡れたところで塗布をやめます。前出の通り、エコ・ローラーに液が残っている状態ならティースプーン1杯程度で問題ナシ。クリーニング液を多く塗布した方が綺麗になるのでは? と思ったのですが、そういった事はなさそうです。むしろ液が多いと遠心力によって周囲に飛び散ったり、裏面の外周部に液が付いてしまったりするなど、デメリットの方が目立つかも。あとはエコ・ローラーをそのまま盤に接触させた状態で10回転ほどクリーニング。
あとはトーンアーム型バキュームをレーベル面側に持っていくだけ。あとは内周から外周へ、音溝に沿ってトーンアーム型バキュームが動き、しばらくすると吸い取りが完了。しっとり濡れた盤が、内側から綺麗になる様子は見ていて面白いもの。アームの動きもさることながら、アームに沿うシリコンホースの中に液が伝わっていくのも「おぉ! 吸ってる吸ってる!」と妙な感動が。最外周部までアームが動いた後は、ポトリと盤からアームが外れる様子も哀愁を感じさせ、動きモノが好きな人にはたまらない魅力があります。
吸引中、キュキュっと音がする場合がありますが、それは乾いているところで吸引動作をしているから。無視して問題ありません。また、最外周に液が残る時がありますが、その時は手でアーム部を持ちチョンチョンと吸うか、不織布でふき取ればOK。その後ひっくり返して、同じ作業をするだけ。作業時間は片面2分30秒もかかりません。ですので両面で約5分、1時間あたり12枚程度のペースでレコードクリーニングができます。手でクリーニングするよりは遥かにラクで早い! それでは片面のクリーニング作業をご覧ください。マイクゲインの設定に失敗して音が大きいですが、実際はここまで音は大きくありません。
ビックリするほど盤面が美しくなる
盤の汚れがひどかったり、クリーニングしても音飛びがする場合は、歯ブラシの毛先が並んだような市販品のブラシでゴシゴシするのもオススメ。動画では結構景気よく擦っているように見えますが、優しい力でやれば音溝を痛めることはありません。とはいえ、あくまで自己責任で。
筆者は盤を定期的にクリーニングしているので、「処理をしても見た目で変わらないでしょ」と思っていたのですが、これがビックリ。見たことのないような色をしているではありませんか!
さらに驚くのは、廃液タンクの底面に謎の物質が! これが不織布による手動クリーニングとの違いであり、音溝に溜まっていた汚れなのでしょう。「今まで苦労して綺麗にしていたのは一体何だったのか」と自暴自棄になりそうです。ではクリーニングした盤をプレイバックしてみましょう。
見た目で綺麗になっているのがわかるのですから、出音が変わらないわけがありません。その変化は「S/Nが上がり、解像度が向上する」「音の余韻が長く美しい」といったオーディオ的な言葉を並べるよりも、ただ一言「レコードが活き活きと歌うようになる」と言いたくなる変化。もちろんプチプツといったノイズも減っているのですが、それよりも「今までこんなにイイ音を聴き逃していたのか」ということの方に驚き。
汚れによりマスキングされていた音が、本来あるべき姿に戻った、と一言で言えばそれまでなのですが「汚れによって封印されていた演奏者の喜怒哀楽が、クリーニングの魔法によって解き放たれた」と例えたくなるほど。演者本来の姿、音を知らなかった事実に、人生を大きく損をしていた気がしてなりません。いや、損していました。
クリーニング直後にスグ針を降ろせるのもプロディジーの美質。というのも、クリーニング液が残った状態でレコードをかけると、レコード針が減りやすくなりますし、盤も痛みます。ゆえに手でクリーニングをした後は、すぐに針を降ろせなかったのですが、プロディジーは確実にクリーニング液を吸い取れるので、針が下せるというわけです。動作音を気にしなければ、聴きながら次に聴きたい盤をクリーニングということもできます。
ちなみにクリーニングした盤をかける際、それまで使っていたホコリ取り用のブラシは使わない方がよいかも。というのも、それまでのホコリやチリがブラシを介して綺麗にした盤に移ってしまうからです。なのでブラシを洗浄するか、新しい物に交換した方が無難でしょう。
驚くのは新譜をクリーニングしてもクリアーで好ましい方向へ変化したこと。汚れているハズがないレコードなのになぜ? という疑問が頭をよぎります。これはレコードをプレスする時に使う離型剤が音質に悪影響を与えているからなのだそう。プロディジーは、この離型剤の除去に効果が絶大なことを体感しました。新譜でそれなのですから、中古盤で一度もクリーニングしていない盤は、長年に渡り離型剤が付着し続けていたかもしれないわけで……。考えただけでゾッとします。
今回、このプロディジーを5月上旬にお借りしたのですが、緊急事態宣言でいくつか取材がキャンセルになったものですから、自宅にいる時間のすべてをレコードクリーニングに費やしてしまいました。「この盤をクリーニングしたら、どうなるんだろう?」という期待と、その出音のよろこび。オーディオ機器の新製品レビューで「すべての盤を聴き返したくなる」「こんな音が入っていたのかと驚く」という表現を目にしますが、まさにそれ。結局施工した全レコードを聴きなおし、次々によろこびと驚きと発見があり、さらにレコード棚も整理できた、実に有意義なGWでした。
気になるのはランニングコストです。クリーニング液は1Lで6600円。かなりケチケチしながら100枚ほどのクリーニングで500ccほどを消費したので、1枚あたり30円といったところ。そのほか、消耗品としては1000枚ごとにバキューム部分の先端にあるゴム(Threadless Tip)を交換する程度。こちらは2個で6600円。一般的な不織布とクリーニング液(250ml)がセットで3000円位。それでいて50枚程度しかクリーニングできないことを考えると、コストはトントンか、少し良いといったところ。ですが手間や作業性、なによりクリーニング効果はプライスレス。
クリーニング液をもう少し下げられないかとも。試しに他社のもので使ってみました。クリーニング液の粘度が違うためか、最初は吸い残しが発生しましたが、バキュームの圧力を調整すれば利用できます。驚いたのは、キース・モンクスを利用した時と音が違うこと。これが気のせいではなく、カートリッジを交換したくらいの差! こうなると徹底的に調査したくなるのがオーディオファイルの悲しい性で、今年発売開始40周年を迎えた大滝詠一の名盤「ロング・バケイション」を2枚使い、名曲「君は天然色」で様々なレコードクリーニング液を試してみました。アルバムの最初に入ってるチューニングの音、そして有名なイントロ、大滝詠一さんの歌声がチェックポイントになります。
キース・モンクスよりオーディオ的な解像度やS/Nの向上は見られる液はありました。ですが冷調で面白味に欠ける傾向。また「話にならない音がする」液が意外と多いことにも驚き。肝心のキース・モンクスの音は中庸の美学といったところで、肌合いのよい温度感とS/Nの良さを感じます。キース・モンクスが50年にわたって作り上げたクリーニング液の恐ろしさを体感した次第。さらに、クリーニング液によって施工後の静電気の発生量やホコリの付着量に差が。クリーニング液にはレコードを保護するコーティング効果があるようで、この点においてもキース・モンクスは優秀。オカルトみたいな話ですが、本当の話。我々はレコードに収録されている音だけでなくクリーニング液の音も聴いていたというわけです。
ならば手動でのクリーニングによるクリーニング液の差は出るのか、というのも気になるところ。ですが、こちらはあまり差を感じない様子。クリーニングマシンの方がクリーニング液の音質差が出やすいようです。とりあえず、キース・モンクスの液はイイ! と断言します。
では、どの程度の頻度でレコードクリーニングをした方が望ましいか。これは諸説ありますが、まったく聴かなかったとしても、1年に1度はした方が望ましいと考えています。中古レコードを購入した際、表面が白濁したような盤を手にしたことはありませんか? これは、一般的に「ビニ焼け」「カゼヒキ盤」と呼ばれるもので、ビニール製の内袋(インナースリーブ)とレコード盤面が化学反応を起こしたもの。一度発生したら、元に戻すことはできません。
ビニ焼けはビニール袋に入れて高温多湿の環境で長期保管していると発生するのですが、その化学反応を引き起こすのがレコード盤に含まれている可塑剤なのだとか。この可塑剤、タチの悪いことに年数を経過し浮き出てくるのだそう。ビニール製内袋を使い続ける限り、定期的にクリーニングした方がよさそうというわけです。
新譜でレコードを生産することは少なくなった今、中古盤をいかにコンディションのよい状態で長く楽しみ、保存し次の世代へと受け継いでいくかが、レコード愛好家の使命のように思います。クリーニングマシンの導入は、レコードの長期保存、そして次の世代へ繋ぐ意味でも有効といえるでしょう。ちなみに「レコードがすり減るまで聴いた」という表現がありますが、針圧が適正ならばレコードがすり減るということはありませんのでご安心ください。むしろ針を通せば通すほど、針なじみがよくなり、レコードの音質が向上するという話も。もちろんそれは「綺麗な状態で、綺麗な針で通した場合」に限りますが。
光学ディスクもクリーニングしてみる
プロディジーのもう一つの特徴は、この手のレコードクリーニングマシンとしては、恐らく初となる「光学ディスクの洗浄も可能」であること。CDはもちろん、SACD、DVD、ゲーム用ディスク、BD、そして盤が薄い4K対応のUHD……なんでもござれというから驚き。やり方はレコードの時とほぼ一緒ですが、クリーニング液が専用品を使うことと、スピンドルキャップにディスクを差し込んで施工するのが相違点。
今回はオーディオ専門誌「ステレオサウンド」が販売するシャンソン歌手バルバラの名演を納めた「BOBINO 1967(ボビノ座のバルバラ)」で試すことにしました。このディスクは同じ音源をSACDシングルレイヤーとCDと別媒体で収録した2枚組。メディアによる効果の違いが分かりやすいと思った次第です。
SACDに関しては、「ちょっとクリアな音質になったかな?」という程度の差で、耳を澄まさなければわからない差でした。ですがCDは明らかに「違う!」「ヤラレタ!」と声を出したくなるほどの大きな差が。SACDと比べてトゲトゲしさを感じていたバルバラの声が、滑らかでスムースな歌い方になるのだから不思議。その差を例えるなら、ビット深度が24ビットへと上がったような違いに似ているように感じました。これは音楽を聴く時だけでなく、リッピングする時にも効果がありそう。
筆者は10年前の東日本大震災でCDラックが倒壊。散らかった部屋を見ながら「二度とこんなことは御免だ」と、すべてのCDをパソコンに取り込み、3000枚ほどあったCDを全部処分したのですが、プロディジーの効果を目の当たりにし、「クリーニングしてから取り込めばよかった」と痛感。もっとも、その時にプロディジーは存在していないのですが、そんなことが頭をよぎりました。
プロディジーを使えば使うほど、「もっと前からレコードクリーニングマシンを導入すればよかった」と大反省。レコードクリーニングマシンの効果は知っていましたし、欲しかったんです。ですがバキューム式のクリーニングマシンは驚くほど高く、キース・モンクス製の業務用機は約60万円! しかも20年以上前でその値段。その血を受け継ぐプロディジーが20万円弱で購入できるというのは、高額ではありますが安価といえるのでは? 他社を見ても、この20万円弱というプライスは安価だったりします。さらに英国BBCが認めた実力と耐久性。使わない時はオブジェになるルックス。何より音質向上が見込める性能は、他社製品よりも魅力的に映ります。
同社製品はもちろん他社製品の中には、自動的に液が出るなど、クリーニング時間が短縮できたり、半自動でクリーニングができる高額なモデルもあります。レコードを2000枚とか3000枚と所有されている方ならともかく、一般的な個人利用では全自動式に大枚を叩く必要はないように思います。むしろ全自動によって奪われてしまった作法的な部分がプロディジーにはあり、その行為が実にアナログ的でレコードと対話しているようにも。導入しやすい価格と相まって、真のレコード愛好家のためのツールと断言します。取材後、私はプロディジーの導入を決意したのは言うまでもありません。