バッテリーは酸化還元反応で放電します
前回(「中古のモトコンポにはオリジナルと違うところが『3つ』あった!」)は後半がすっかりバッテリーの話になってしまいましたが、あと少しお付き合いください。
うちのモトコンポに付いていたバッテリーは純正品ではなく、汎用のシールドバッテリーでした。純正のバッテリーは6Vで、昔ながらのバッテリー液を入れたり水の補給が必要な鉛蓄電池。充電時に内部で発生するガスを逃す穴があることから開放型と呼ばれています。
シールドバッテリーも6Vの鉛蓄電池ですが、こちらは密閉型。穴が無いため横倒しにしても大丈夫。メンテナンスの必要もありません。
鉛蓄電池の名前の由来は電極の素材。正極が二酸化鉛(PbO2)、負極が鉛(Pb)と、どちらも鉛が使われています。中に入っているバッテリー液は希硫酸(H2SO4 + H2O)。硫酸が水に溶けて電解液となり、マイナスの電荷をもった硫酸イオン(SO42-)とプラスの電荷をもった水素イオン(H+)に分離した状態になっています。
このような電解液の中に2種類の物質を入れると、より電子(e-)を手放しやすい方から電子が出て、もう一方の物質へと移ろうとします。電子を失うのは酸化反応のひとつ。
鉛蓄電池の場合、二酸化鉛はすでに酸化されているのでこれ以上酸化されることがないため、電子が出ていきやすいのは鉛側。つまり鉛が負極、二酸化鉛が正極になります。この時、両極を導線でつなぐと電子はそちらを通るため、負極から正極に向かって電子(e-)が流れ、電流は逆向きなので正極(プラス)から負極(マイナス)に向かって電気が流れることになります。
酸化と還元は必ずセットで反応が起こるので、二酸化鉛は還元されます。鉛蓄電池の放電は負極が酸化され、正極が還元反応を起こして電子(e-)が流れる現象のことで、その反応により両極に硫酸鉛(PbSO4)が付着して水(H2O)が生成されます。
充電の反応は放電の反対
水ができるということは、使っているうちにバッテリー液はどんどん薄まっていき、次第に放電が弱くなる=電圧が低下していくということになります。そのためクルマやバイクはエンジンの回転を利用して発電機を回し、走りながら充電しています。
充電するには、発電機のプラスを正極につなぎ、マイナスを負極につないで放電電圧より少し高い電圧をかけます。本来の電子の流れに逆らって逆方向により多い電子を流すことになり、それにより強制的に逆方向の酸化還元反応を起こします。式も完全に正反対。放電の式が逆向きになります。
負極は、放電では鉛(Pb)が溶けて鉛イオン(Pb2+)になり、余った電子2個(2e-)が放出されて、鉛イオン(Pb2+)が硫酸イオン(SO42-)と結合して硫酸鉛(PbSO4)になっていました。電子を失う酸化反応です。それが充電では、電子を得るというまったく逆の還元反応が起こります。
負極:PbSO4 + 2e- → Pb + SO42- (硫酸鉛+電子2 → 鉛+硫酸イオン)
硫酸鉛(PbSO4)の鉛イオン(Pb2+)が電子2個(2e-)を受け取って鉛(Pb)に戻り、硫酸イオン(SO42-)を放出。負極(Pb)が徐々に元どおりになっていき、放出された硫酸イオン(SO42-)が電解液中に溶け出して硫酸濃度が再び上がっていきます。
充電すると元の状態に戻っていく鉛蓄電池
一方、放電時に還元反応が起きていた正極からは電子(e-)が奪われて、酸化反応が起こります。
バッテリーの中で電子(e-)を一番たくさん持っているのはバッテリー液中の硫酸イオン(SO42-)。なので電子(e-)はそこから持ってきたいところですが、硫酸イオン(SO42-)は電子が満員状態で安定しているため手放してくれないので、水(H2O)が電気分解されてそこから電子(e-)が引っ張り出されます。式にするとこのとおり。
2H2O → O2 + 4H+ +4e-
この時に放出された酸素(O2)が硫酸鉛(PbSO4)の鉛イオン(Pb2+)と結びついて二酸化鉛(PbO2)に戻り、負極と同様に硫酸イオン(SO42-)が放出されます。これらの反応を合わせると以下の式になります。
正極:PbSO4 + 2H2O → Pb2+ + 4H+ + SO42- + 2e
この式も放電の時とは正反対。正極(PbO2)が元に戻っていくと同時に、電解液中に水素イオン(H+)と硫酸イオン(SO42-)が溶け出していきます。
水素イオン(H+)と硫酸イオン(SO42-)は結合すると硫酸(H2SO4)になるので、充電の全体の反応式は次のとおり、放電の時とは左右が入れ替わったものになっています。
全体の反応:2PbSO4+ 2H2O → Pb + PbO2 + 2H2SO4 (硫酸鉛2+水2 → 鉛+二酸化鉛+硫酸2)
充電すると硫酸鉛が消えて両極にそれぞれ鉛と二酸化鉛が付着し、バッテリー液の硫酸濃度が上がっていく。つまり充電するとバッテリーが元の状態に戻っていくということがわかります。
過充電には要注意!
なんだかものすごくよくできた仕組みですが、落とし穴もあります。それは反応が行き過ぎてしまった時。
放電した時に電極に付着する硫酸鉛は柔らかいペースト状なんですが、そのままにしておくと負極の硫酸鉛が硬い結晶になってしまいます。こうなると電圧をかけてもバッテリー液に溶け出さなくなってしまうため、充電ができなくなってしまうのです。完全に放電してしまうと復活させるのはほぼ無理なので、早めに充電する必要があります。
そしてもっとヤバいのが過充電。両極が元どおりになったあとも、充電を続けたらどうなるでしょう。
もう反応する硫酸鉛はありません。でも負極には引き続き電子(e-)が流れ込み、正極からは電子(e-)が奪われ続けます。すると負極が電子(e-)によってマイナスに帯電するため、電解液中の水素イオン(H+)を引き寄せます。そして水素イオン(H+)は電子(e-)を受け取って水素原子(H)になり、2つくっついて水素分子(H2)になります。水素ガスの発生です。
2H+ + 2e- → H2
また、正極では引き続き水(H2O)の電気分解が起きて酸素(O2)が発生し、硫酸鉛はもう無いので酸素(O2)はそのままガスとなって放出されます。
2H2O → O2 + 4H+ + 4e-
つまり充電し続けると水素ガスと酸素ガスが発生し、バッテリーの中に充満していくことになります。また、実際はこの反応は満充電になる少し前から起こり始めます。
そのままにしておくといずれは破裂しかねないということになりますが、走行中は電力を使うため充電速度はゆるやかだし、開放型ならガスを逃す通気口があり、密閉型もガスの発生を抑える仕組みなどがあるので、普通に使っている分には心配ありません。
ただ、同じ過充電でも大電流や高電圧は別です。安全範囲を超えて反応を起こし、大量のガスが発生して破裂する危険性があります。
バッテリーに厳しいモトコンポ
バイクの発電機は交流なのでレクチファイヤーという部品で直流に変換しています。でもその出力をそのまま使うことはできません。発電機は高回転になればなるほど出力電圧が上がっていくため、回転を上げるとバッテリーの充電電圧を超えてしまうのです。それを防ぐのが電圧を適正に保つレギュレーターという部品。これが無いとバッテリーは過充電になってしまいます。
ところが古い原付バイクだと、このレギュレーターが付いていないことがあるんですよね。モトコンポもレクチファイヤーしかなく、発電電圧がそのままバッテリーに突っ込まれています。
じゃあどうやって電圧をコントロールしているのかというと、バッテリー自身がその役目を肩代わりしているのです。バッテリーの出力は6Vなのでどれほど高い電圧がかかっていようとも出力は6Vのまま。バッテリーを通すことで電装系に流れる電圧が安定するというわけです。
ここで問題なのは、バッテリーが常に過充電に晒されることになるという点。先ほど「普通に使っている分には心配ない」と書きましたが、このタイプのバイクは普通に使っていても過充電になってしまうのです。心配ですね。
バッテリー液の水が消費されて液面がどんどん下がっていくという、バッテリーにとっては過酷な使われ方です。限界以上に減ってしまうとそれ以上は過充電を支えることができず高電圧がそのまま電装系に流れることになり、電球が切れるというトラブルが発生することも。
レギュレーターを付ければ解決
もともと開放型の鉛蓄電池は電気分解や蒸発で水が減るため定期的な補水が必要ですが、レギュレーターが付いていないバイクは普通以上にバッテリーをしっかりチェックし、必要に応じてバッテリー液を補充しなくてはなりません。モトコンポも外から見てすぐわかるように点検窓が付いています。
ここで問題になるのがシールドバッテリーと開放型の違いです。シールドバッテリーはバッテリー液の補充が不要な設計になっていますが、あまりの過充電だとその限界を超えてしまいかねません。また、開放型と違って発生するガスを外部に放出できないため内部で吸収しますが、処理しきれない量になった時、安全弁が無い場合は破裂の可能性も出てきます。
つまり、単純にシールドバッテリーに交換するわけにはいかないということですが、まだ諦める必要はありません。ありがたいことに、こういう古いバイク用にレギュレーターが売られているのです。レクチファイヤーが一体化した、レギュレートレクチファイヤーという部品がそれです。シールドバッテリーが付いているのを見て真っ先に買ったので、次回はそれを取り付けたいと思います。
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