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共有しながら文書作成、「脱・Cドライブ」、会議運営の「2チャンネル」化などのノウハウを披露

コープさっぽろCIOが勧めるDX時代の情報共有「3つのポイント」

2021年03月31日 07時00分更新

文● 指田昌夫 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 Google Cloud Japanが2021年3月16日に開催した「Google Workspace」活用企業の記者説明会。ここに登壇したコープさっぽろCIOの長谷川秀樹氏は、企業のDXにおける情報共有基盤の重要性について、自社の取り組みを交えて講演を行った。

生活協同組合コープさっぽろ CIOの長谷川秀樹氏

DXで変革を狙うべきは、仕事時間の9割を占める「文書の作成と共有」

 長谷川氏は、アクセンチュアで長年にわたり小売業を中心とする業務支援を行った後、東急ハンズやメルカリでCIOを勤めてきたDXの専門家である。2020年2月にコープさっぽろのCIOに就任して以来、Google WorkspaceとSlackの連携による社内の情報系システムの再構築と業務改善を進めている。

 長谷川氏はまず、「企業がDXを進める際、まずテクノロジーインフラを構築して、その上に業務アプリケーションを載せていく形になりますが、実はアプリを載せる前に、コミュニケーションインフラを整備することが重要です。しかし、これが抜け落ちていることが多いと思います」と語る。加えて、多くの企業がDXを「紙業務のシステム化」と捉えてしまっていることが、「DXがうまくいかない原因」だと指摘した。

 「例えばA4タテの請求書の書面を、そのままシステム化してしまうわけです。ですが、本来は請求書がA4である必要はありません。紙で存在するものを、そのままシステム化するのは間違いです。まず、手作業だったものをオンラインで業務できるようにして、それから自動化するという手順が本来の形です」

 企業情報システムが変遷してきた歴史をたどると、ホストコンピューターからPCへと時代が変わったときは「非常にわかりやすかった」と長谷川氏は語る。「ホスト(コンピューターの作業)がPCのExcelになったとき、『これでデジタル化した』と思ってしまった企業が多い。しかし、それは紙業務をシステム化しただけでした。今DXと言われていることは、本当はコミュニケーションの領域まで含めたデジタル変革をしなければいけないのですが、そこまで進んでいない企業が多いのが実態です」。

 DXの取り組みにおいて変革を狙うべきターゲットは、会議や資料作成、意思決定に関わる業務だという。これらが業務時間の大半を占めるからだ。

 「勤怠管理や経費精算のシステムを入れて、それをDXだと呼ぶ人もいます。しかし、ビジネスパーソンがデスクワークでそれらの業務に使う時間は、せいぜい全体の1割ぐらい。残り時間のほとんどを、資料の作成か、会議をしているか、メールチェックなどに充てています。会社全体を強くするには、この9割の部分を改善して、速い意思決定ができる仕組みを作らなければいけないのです」

文書は作成開始時点から共有せよ、「脱・Cドライブ」情報共有のすすめ

 そのためには「仕事をオンラインでする」ことが必要だと長谷川氏は説明する。やや抽象的な表現だが、こういうことだ。

 「コープさっぽろでは、Google Workspaceをフル活用してメール、カレンダー、オンライン会議、社内ポータルを運営しています。また、文書の作成と共有にはGoogleスプレッドシートなどを使っており、白紙の段階から、メンバー間で共有した状態で作成を始めます。当社ではこれを『脱・Cドライブ』と呼んでいます」

 ちなみに、“GoogleスプレッドシートはMicrosoft Excelのグーグル版”という認識は間違いであり、両者はまったく違うものだと長谷川氏は強調する。これが「脱・Cドライブ」という考え方にもつながっている。

 「今までは、各自が個別のCドライブ(ローカルPC上)で作った文書を、文書ができた段階で社内に共有していたため、『全然違う、やり直し』ということも起きていました。Googleスプレッドシートを使って最初から共有しておけば、文書を作っている過程でも共有できます。上司は部下の資料作成の様子をチラチラ見ながら、細かくチェックを入れることができるため、後から大幅な手戻りが発生するのを回避できます。スピードの差は決定的です」

会議は「音声」と「資料」の2チャンネルを共有して進行

 また会議は、オフライン/オンラインを問わず「音声を共有するチャンネル」と「資料を共有するチャンネル」の2系統を同時に使いながら行っているという。

 「人が話して説明する場合、オンラインでもリアル(オフライン)でもどうしても一方的になります。他の人がその間にドキュメントにコメントを入れたり、リンク先を確認したりして、“ドキュメント上で会話をする”運用をしています。そうすることで、参加者全員が問題意識を共有することが可能になります」

 さらに長谷川氏は、社内にファイルサーバーを設置するのは今すぐやめた方がいいと話す。

 「皆さんがインターネット上で情報を探すときは、検索するかリンクをクリックするか、2つの方法しか使わないと思います。『この分類のこの場所』という探し方は絶対にしません。社内の情報検索も、基本的にそうならなければいけないと考えています。当社では、ほとんどの情報はGoogleカレンダーのリンクから必要な資料に到達できるようにしています。また作りかけの文書はGoogleドライブ上の検索から開きます。フォルダから探すということはやりません」

 文書ファイルはフォルダ階層を使わず管理し、常に最新バージョンの1つしか存在しないようにするというのが、基本的な考え方だ。「メールに添付して送ってしまうと、そのファイルは更新できなくなり、別のバージョンが生まれてしまいます。すべての情報をオンラインで共有して、1つのバージョンのファイルをどんどんアップデートしていく、また関連する情報へはリンクを辿るだけで仕事が進むことが実感できると思います」

 「コミュニケーションインフラを整備する」「脱Cドライブの情報共有」「会議は音声とファイル共有の2チャンネルで運営する」。この3つを実践することで、仕事がスムーズに進み、意思決定が速くなる。それが長谷川氏の目指すDXの神髄だ。

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