個人向けゲノム解析サービスを日本で初めて事業化。ビジネスと研究、社会課題の橋渡しをする。
高橋祥子(Shoko Takahashi)が起業したのは、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程の在籍中のこと。インターネットを活用した個人向けゲノム解析サービスを日本で初めて立ち上げた。このサービスにより、ユーザーは自身の疾患リスクや体質の傾向を知り、病気の予防などにつなげられる一方、高橋は、このサービスを通じて蓄積されたゲノムほか各種データを、生命科学の研究に生かす仕組みを構築した。
ユーザーから許諾を得た取得したゲノムデータと、Webアンケートで聞いた生活習慣や既往歴に関するデータを匿名化してデータベース化し、遺伝子研究プラットフォーム「ジーンクエストリサーチ」として提供。国内外の製薬企業、食品・飲料メーカーや大学、研究機関など、これまでに30カ所以上との共同研究に取り組んでいる。
従来、ゲノム解析は国主導のバイオバンクなどで行われてきたが、インターネットを活用するジーンクエストでは、遺伝子解析したユーザーとのつながりを継続することで、その後のデータを蓄積していくことが可能となった。ユーザーへの追加のサービス提供と「インターネット・コホート」を活用した創薬研究への応用を実現する。これまで研究が進んでいなかったアジア系集団、とりわけ日本人集団を対象とした一般的な体質の遺伝的個人差に関する研究を促進する点でも、重要な意義を持つものだ。
2003年にヒトのDNAを構成する全ての塩基配列が解読されて以降、ゲノム解析技術はDNAシーケンサーの低価格化などもあって飛躍的に発展してきた。高橋の活動は、研究成果を正しく社会に還元し、今ある課題解決に役立てることを旨とする。「日本だけでなく世界の多くの国が高齢化に伴う疾病や健康寿命の問題などを今後抱えていく中、ゲノムを活用したサイエンスの力で、高齢化に伴う課題解決方法を見出して社会実装し、世界の国々に輸出できれば」と高橋は言う。
(畑邊康浩)