海中で輝く青い光を追って――東大・吉澤晋准教授インタビュー
「東京湾のバクテリア研究」なら今からでも第一人者になれる!?
スーパーで売ってる刺身も光る!
―― チョウチンアンコウは深海で光ることによって餌を集めていると聞きますが、では比較的浅い場所に居るヒカリキンメダイが発光微生物と共生しているメリットは何でしょう?
吉澤 コミュニケーションのためだと言われています。ただ、海の生物は水の中に住んでいるので、観察するのはそんなに簡単ではありません。
―― 共生している微生物の光り方を魚自体がコントロールできるということですか?
吉澤 発光細菌は常に光を放ちますが、魚側が筋肉を動かして、シャッターを閉じたり開いたりしてコミュニケーションに利用しているようです。
―― シャッターの開閉で信号を送るのですね。発光細菌は基本的に生きている間はずっと光りっぱなしなんですか?
吉澤 基本は光りっぱなしですね。自分では細かなコントロールはできません。
―― そういえば、吉澤先生のWebサイトを拝見したのですが、スーパーで普通に売ってる刺身まで光るのを見て驚きました。
吉澤 発光微生物は普通の魚の腸や、表皮にも存在します。基本的にバクテリアは目に見えませんが、発光細菌だけは肉眼で観察できますから研究対象としては面白いと思いますよ。
意外!? チョウチンアンコウが
光で餌をおびき寄せる姿を見た人は皆無
吉澤 チョウチンアンコウって有名ですよね。でも、生きたチョウチンアンコウを見たことある人は、ほぼいないと思います。
にもかかわらず、「チョウチンの部分を発光させて、それにおびき寄せられた魚を食べる」という、誰も見たことがないような説をみんな信じていますよね。
―― えっ、あれは誰かが見たわけじゃないんですか?(笑)
吉澤 生きたチョウチンアンコウですらほぼ観察できていないのに、捕食の瞬間を見た人なんてほぼいないと思います。わかりやすい話ですし、反論も聞きませんので、おそらく間違ってないとは思います。
ただ、チョウチンアンコウが光を使って魚をおびき寄せて食べているというのは、つまり、深海魚はふだん光っているものを食べているということになります。そうでないと、光るチョウチンがルアーとして使えないので。つまり、生物発光を他の魚たちは目で見ているわけで、それはおそらく発光細菌由来でしょうと。
ちなみに、発光器(微生物を共生させる)を持つ生物の糞は光ります。発光細菌は常に増殖するので、増えた細胞は糞として排出されます。その糞が光って、それをまた別の魚が食べる。そういった循環で成り立っていると思います。刺身が光るのは、彼らが光る餌を食べており、体の中に発光細菌を取り込んでいるからです。結果、魚を放置しておくと、発光細菌が増殖し光るという寸法です。
海の研究はロマンしかない!
―― 先ほど、光合成とは違う新たな光エネルギーについて言及されましたが、あれってじつは地球温暖化のシミュレーションなどにも関係してきますよね? どれだけ太陽エネルギーを使っているかわからないということは、大きな誤差を生み出す原因になっているかもしれませんし。
吉澤 そうですね。現在はシミュレーションモデルに入っていませんから。
―― もしかすると宇宙のダークマターのように、数値上は大きいのかもしれませんね。
吉澤 まさに微生物ダークマターです。わかってないことが多いですし、海の研究はロマンしかありませんよ(笑)