複数拠点で同時生演奏の「デジタルコンサート」実現も近いかも?
コンサートホールの響きをそのまま自宅に。WOWOWが「AURO-3D」用いた配信実験
2020年11月05日 18時00分更新
「デジタルコンサート」も近い将来に実現するかも?
プログラムは全8曲で、2曲ごとにA、B、C、Dの4チームが入れ替わって、ホールとロビーで聴き比べをするという段取りで公開実験が進められた。
私はCチームだったので、4曲を聴き終えた段階でロビーに移動し、5曲目、6曲目を、配信を想定した9.1chのシステムで聴いた。
結論としては「おお、かなりすごいな!」と思った。マイクセッティングも、ロビーのスピーカーシステムも、緻密なセッティングと調整がされていて、かつロビーも天井が高いため、ある程度ホール的な響きがプラスされるという部分もあったと思う。
でも、「ホールで聴いている雰囲気」がしっかりと伝わってきたのには驚いた。Hakuju Hallのホール内の、「濃密な音で包まれる感じ」の「感じ」の部分がよく再現されていたように思う。
もっと詳しく言えば、直接音はホールで聴くのに近いのだが、反射音や、その減衰の仕方など、波形にすれば小さな部分まで、しっかりと再現されており、結果的に、「感じ」がうまく表現できているというイメージだ。
AURO-3Dは最大で13.1chが扱え、水平方向(レイヤー1)に7.1ch(または5.1ch)、斜め上方向(レイヤー2)に5chのハイトスピーカー、そしてリスナーの真上(レイヤー3)に1chのトップスピーカーの3層に分けた配置ができる。実験では5.1chシステムに4chのハイトスピーカーを追加した9.1ch構成を選択していた。
AURO-3Dは規格上、9.1ch構成で、384kHz/24bitの品質が扱える。MPEG-4 ALSで圧縮した後の帯域はHD映像にロスレスのマルチチャンネル音声配信を合わせて、11.5Mbps程度となっており、比較的帯域を押さえたものになっていると考えられる。
ステージ上のマイクも下段(レイヤー1用)に5ch、上段(レイヤー2用)に5ch分用意していた。10月6日に実施した実験では、ステージ上の直接音収録用マイクとは別に、 客席側に アンビエンス用のマイクを設置してミックスしていた。「これもAURO-3Dの収録を想定してのもの」という説明だったが、異なるマイキング方法を採用したことになる。AURO-3Dはチャンネルベースのサラウンドのため、各チャンネルに相当するマイクを使い、直接音も間接音も収録したほうがいいという判断なのかもしれない。
ロビーのスピーカーは、着席位置を取り囲むようにセットされており、定位がはっきりしていて、どの音がどの方向から鳴っているかも、掴みやすかった。
さすがにホールの中と同じ音質ではないのだが、ホールで聴いてから、すぐにロビーに移動して聴き比べたのに、双方のサウンドに、ここまで近い印象を覚えたのが面白いと思う。
WOWOWのエグゼクティブクリエイターで、この日のエンジニアリングも担当した入交英雄氏は「このような試みが発展すれば、一ヵ所のホールでの演奏を、複数のホールにリアルタイムで配信して、デジタルコンサートといった形態も作れると思う。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、集客にも制限がかかり、以前のようなコンサートを実施しにくいのが現状。複数のホールに演奏を生配信できれば、売り上げの部分にも貢献できるかもしれない」と話した。
また、デジタルメディア評論家の麻倉怜士氏は「いまはいろいろなものが『3D』に変わってきていて、今後も3D化の流れは加速していく。今回の試みは、場を届けること、コンサートホールそのものを家庭に持っていけることが画期的で、エジソンが『メリーさんの羊』を蓄音機に録音した依頼の革命だと思う。
2chの場合は、明瞭さか、響きのよさかといった選択が必要になるが、3Dイマーシブオーディオの場合、下のスピーカーで明瞭さを出して、上のスピーカーで響きを出すといった分業ができるので、空間、音楽の解像度が非常に高くなる。音楽が一番羽ばたける音が出てくるのがAURO-3D。それを、インターネットで配信したというのも、画期的。今後、MQAで3D配信が実現すれば、究極の3Dオーディオになると思う」と話した。