新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大で、大きな影響を受けた業界のひとつに「旅行」があります。中でも「クルーズ客船」は、連日報道されていた「ダイヤモンド・プリンセス」の件もあり、航海がほぼ全面的にストップしてしまいました。しかし、感染防止対策のためのルール作りや設備を用意し、それらを的確に運用できる乗組員の訓練など、長い時間をかけた慎重な準備期間を経て、日本でもクルーズ客船の商業航海が11月から再開します。
本稿では、商船三井客船の「にっぽん丸」が10月22日から23日にかけて実施した関係者向けのプレオープンクルーズの模様をレポートします。新型コロナウイルス感染症の感染防止を考慮した「新様式クルーズ」の状況や、多くの人には“まだまだ”なじみの薄い「客船による船旅」の楽しさについても紹介したいと思います。
まずは商船三井客船の歴史とにっぽん丸を知る
アスキー読者の皆さんの中には「軍艦はよく知っているけれど、客船はあまりわからんなー」という方も多いと思います。そこで、まずは今回乗船した「にっぽん丸」とその所有会社である商船三井客船についてご紹介します。実を言うと、商船三井客船は軍艦好きにとっても少なからず“縁”があったりするのです。
商船三井客船は主に客船事業に携わる商船三井のグループ企業ですが、商船三井の前身となる大阪商船は1884年設立という長い歴史を持った海運会社です。その大阪商船時代の1939年に「あるぜんちな丸」(姉妹船に「ぶらじる丸」という船もあります)、報国丸(姉妹船に「愛国丸」や「護国丸」があります)を就航しています。これらの客船は太平洋戦争において、あるぜんちな丸が航空母艦「海鷹」に、報国丸と愛国丸、護国丸は特設巡洋艦(商船を武装して通商破壊作戦に用いる艦種)にそれぞれ改装されて、数々の作戦に参加しました。
商船三井客船は日本で初めての外航クルーズ客船として1989年に「ふじ丸」を、そして翌年1990年には、同社2隻目の外航クルーズ客船として「にっぽん丸」を建造しました。ふじ丸は2013年に引退しましたが、にっぽん丸は2010年と2020年の大改装を経て、現在も活躍しています。船の全長は166.65メートルで、これは日本海軍が所有していた軽巡洋艦「阿賀野」型の全長172メートル、軽巡洋艦「川内」型の全長162メートルにほぼ近いサイズです。
また、にっぽん丸の全幅は24メートル、最大速度は21ノット、総トン数は2万2472トンとなります。総トン数とは客船のサイズを示す指標としてよく使われている単位です。日本郵船の「飛鳥II」の総トン数は5万444トン、キュナードのクイーンエリザベスの総トン数は9万400トンです。なお、「トン」と呼んでいますが、実際には(超ざっくり言うと)船の容積を表わす値になります。
乗船前に唾液検体採取によるPCR検査を行なった
さて、今回のプレオープンクルーズは新型コロナウイルスの感染対策を導入した「新しい様式のクルーズ」がどのようになるのかを示す航海でもあります。そのため、クルーズの乗船者は事前にPCR検査を受けることになりました。このPCR検査は唾液検体採取による検査で、商船三井客船から委託されたジェネシスヘルスケアから検査キットが事前にクルーズ乗船者の自宅まで郵送されてきます。
この検査キットにはQRコードが印刷されており、読み込むとユーザー登録手続きを行なうフォームにアクセスできます。ユーザー登録手続き後、“自分で採取”した唾液検体を返送パッケージに封入して、ジェネシスヘルスケアに返送します。この検査の結果はユーザー登録で作成されるマイページで確認できますが、ここで「低リスク」だった人だけがクルーズに参加できることになります。
PCR検査をクリアーしたクルーズ参加者は、今回のクルーズの出港地である横浜港の大さん橋国際客船ターミナルに集合します。通常ですと、クルーズ参加者全員が同じ時間に集合して、それから船室のクラスごとに時間を分けて乗船します。しかし、ここでも多くの人が同じ場所に集中するのを避けるため、集合時間から船室のクラスで分けて設定していました。
さらに乗船口では、事前に記入した健康申告票を提出し、非接触型体温計とサーモグラフィーによる体温チェックを経て船に乗りました。なお、船内では自分の船室にいる時以外は必ずマスクを着用することになっています。また、船内エレベーター乗り場やレストラン、ラウンジ、シアターなどのパブリックエリアをはじめ、船内のいたるところにアルコール消毒液を設置して、入退室ごとに指先を消毒するように案内されていました。