ワイヤレスイヤホンを使ったマジック!?
最近ではすっかり馴染みになったワイヤレスイヤホン。少し前は、マジックのタネとして使われていた時代もありました。
「透視術」と呼ばれるトリックで、目隠しをした透視者が観客の持ち物などを透視するという出し物でした。舞台の脇にいるアシスタントが、コッソリと透視者の耳元にその情報を無線で送信。透視者の耳元は女性の透視者の髪の毛や目隠しで隠れるのがミソでした。
しかしこのトリック、「ワイヤレス」や「IEM(In-Ear Monitor、インイヤーモニター)」が社会に認知されるにつれ、下火になっていきました。また、海外ドラマや映画でも、捜査官が耳の穴に入れる機器がよく登場し、人々に知られるようになったこともあるかもしれません。
余談ですが、スマホと組み合わせたBluetoothの技術やリチウム電池などが開発される近年まで、実際の捜査官やマジシャンが使っていたワイヤレスイヤホンは、かなり大掛かりな機材を身につけなければならず、さらに、数分〜数十分しか使用できませんでした。ドラマや映画のように、気軽に耳に入れるだけで準備完了するのは、あくまでフィクションだけの話です。
アーティスト御用達のIEM
IEM、インイヤーモニターという言葉は、あまり聞き慣れないかもしれませんが、コンサートなどでアーティスト(歌手)が耳にしているイヤホンはほとんどがこのタイプです。そして、一般に使われているモノよりかなり高価です。
その理由は、それぞれの耳の型を採取した個人専用のイヤーピースであること、ライブの最中でも音が途切れないヘビーデューティーさが求められることです。オーダーなので、15万円〜30万円ほどするのですが……。
そんな高価なIEMですが、ステージ上での大音量からアーティストの耳を守るだけでなく、以前のステージの中央、足元に必要だった箱型のモニタースピーカーを無くすなど、視覚的な効果も生み出し、いまでは多くのアーティストが活用しています。
IEMは一般的な音響製品とは違い、快適な着け心地で音質を追求するよりは、音響をチェックすることやステージディレクターからの指示を伝えることなどが主な目的でした。ただ、最近では「イヤモニ」などと呼ばれ、一般的な音楽鑑賞用としても使う人が出てきています。
IEMから派生したのが、いわゆるカナル型イヤホン。筆者が6月に購入したWF-XB700もカナル型イヤホンです。ウェブセミナーのモニターとして購入しました。ちなみに「カナル」とは「外耳道」のこと。簡単にいうと「耳の穴」です。
優れた密閉性と快適性
少し余談が多くなってしまいましたが、WF-XB700のレビューです。購入してから3ヵ月ほど使用してみましたが、もっとも優れていると筆者が感じるのが密閉性と快適性です。つまり、耳にフィットして、長く装着しても疲れない形と音質に満足しています。
WF-XB700は周囲の音を低減するノイズキャンセリング機能はありません。しかし、装着すると耳栓をしたような密閉感があります。
筆者は製品に付属しているSS、S、M、Lサイズのシリコン製のイヤーピースのうち、SSがぴったり。そのせいか耳の穴が内側から圧迫されず、長時間つけていても、耳が痛くなりません。これは形状だけでなく、WF-XB700の重量バランスのおかげかもしれません。
ただし、筆者の場合、耳に入れたあと後頭部側に少し回す独特の装着法に気が付くまで少し時間がかかりました。こうすることで、頭を傾けるだけで落ちそうな不安定感が解消されます。
音質は多くのレビューにある通り、低音から高音までバランスよく、とくに低音については高く評価されています。これは、本製品のセールスポイントの12ミリのダイナミックドライバー(振動版)が使用されているからでしょう。他製品と比べ、イヤホンとしては大型の12ミリのドライバーは、無理なく低音から高音域を再現できるため、長く聴いていても疲れない音質も特筆すべきところです。
バッテリーの持続時間(連続再生時間)は9時間となっています。筆者の実感としては10時間ほど使える印象です。これは、あまりボリュームを上げない筆者の環境のせいかもしれません。
参考までに、筆者がやや気になるところをあえて書いてみます。
筆者はPCとの接続でWF-XB700を使うことがほとんど。そんなケースでは、音楽観賞では音途切れが1曲中に1、2回起こります。原因は、おそらく、WF-XB700が使用する電波帯域が無線LANの2.4GHz帯とかぶるせいでしょう。ただし、これは外出時にスマホとWF-XB700では起こりにくい現象なので、それほど気にしていません。
筆者は先に触れたように、ウェブセミナーやテレビ会議用での使用がメイン。なので、「もう少し薄型だと正面からのカメラアングルで目立たないのになぁ……」と残念に思っています。「せめて肌色のカラーバリエーションがあれば……」と願うのは筆者だけではないはず。
あまり贅沢を書いても「それなら、専用のIEMをオーダーしろ!」と言われると、グウの音も出ないので、ここまでにしておきます。
前田知洋(まえだ ともひろ)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。
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