はんつ遠藤の全国ラーメン探訪記 第3回
東京の名店「麺屋 武蔵」で修業を積み、故郷の北海道で、あえて東京スタイルのラーメン、つけ麺を提供し続ける「麺屋 武双(北海道釧路市)」
2020年09月02日 12時00分更新
お世話になっております。フードジャーナリストでラーメンWalker百麺人の、はんつ遠藤です。
「はんつ遠藤の全国ラーメン探訪記」、1回め「あら陣(北海道中標津町)」2回め「とみ川(北海道富良野市)」と北海道からお届けしました。
そろそろ本州へと思ったのですが、なにぶん九州の2倍より大きい面積のある北海道ですから、もう少し、道内からお届けします。
そういえば僕は昨年、12回、北海道へ仕事(取材&撮影など)で伺いました。
ほとんどが札幌ですが、釧路や中標津、函館なども。一番の魅力は、広大な自然でしょうか。それとグルメ。各地にご当地グルメが存在し、見た事もないような料理に遭遇したり。
もちろんラーメンも各地にあります。札幌、旭川、函館、釧路が北海道4大ご当地ラーメンと言われますが、他の都市でもとても人気です。
そんな北海道ですが、今回は釧路から。
人口約16万6千人の釧路市は、いわゆる道東という地域にあります。海があったり、湿原があったりと自然豊かな風景も良いですが、霧が多く発生するために「霧の町」としても知られています。その意味では「日本のロンドン」と称されることもあるそう
あとは夕日も綺麗だったりと、情緒あふれる都市なのです。
そして、かなり広いです。釧路市は面積約1,363平方km。日本の市町村の中で第7位。なんと香川県の約7割という広さです。なので釧路空港から釧路駅までは約20㎞の距離があります。
その釧路ですが、前述したとおり、北海道4大ご当地ラーメンのひとつである釧路ラーメンがあります。あっさり醤油味のスープに細ちぢれ麺。発祥は諸説ありますが、大正時代に横浜から来た料理人が食堂で提供したのが最初とか。この系統で僕が一番好きなラーメン店は「まるひら」ですね。
1959年創業。ラーメンが運ばれてきた瞬間に、芳醇な魚介と醤油の風味がふわりと漂ってきます。カツオ節ベースの1杯は、透き通る中にコクが詰まった味わい。熱々なのも嬉しいです。
でも、今回紹介させていただくのは、違うラーメン屋さん(汗)。
確かにご当地である釧路ラーメンの系統も素晴らしいのですが、全国そうなんですけど、ご当地処でも続々と違う味のラーメン店が誕生しているわけです。こちらには「釧路ラーメン麺遊会」という「釧路のラーメンを盛り上げよう」的な団体があるのですが、そこに参加しているラーメン店を見ても、塩ラーメンだったり辛いラーメンだったり、濃厚系だったり、えびダシだったり、つけ麺だったりと幅広いわけです。
そこで、今回の釧路では新進気鋭の1軒をご紹介します。それが「麺屋 武双」(めんや むそう)。
2016年10月にオープンしました。釧路市芦野という場所で、愛国北国通と柳橋通の交差点付近の大通り沿い。とはいえ釧路駅の北方で、クルマのルートだと5㎞くらいあります。 なので、観光客をアテにすることは、まず、無く、むしろ地元密着型と言えましょう。
でもご主人の森本徹さんは厚岸(釧路の東方約50㎞)の出身で、東京の名店「麺屋 武蔵」で修業を積んだ実力派です。
僕が森本さんに最初に会ったのは、浅草にあった「麺屋 武蔵 江戸きん」の店長をなさっていた時かなぁ。今から10年以上前で、当時からラーメンに対する熱い想いを感じました!
お店は、前面に駐車場もある平屋建て。カウンター&テーブル席で構成された店内も修業先の「麺屋 武蔵」イムズが息づいているというか、なかなかのダイニングレストラン的な雰囲気を醸し出しています。
メニューが豊富なのも魅力です。「つけ麺(あっさり)」「つけ麺(こってり)」「ら~麺(あっさり)」「ら~麺(こってり)」「煮干し」「「油まぜそば(赤、白、黄)」など合計10数種類もあります。
その中でも、イチオシは「特製つけ麺(こってり)」。
つけ汁(こってり)は、鶏7:豚3の割合で、鶏ガラとモミジ、ゲンコツ、豚足を用いた、甘味と酸味の効いたタイプ。モミジや豚足も加えているので、ペタっとした口あたりのある濃厚さです。でもドロドロというわけではなく、カツオやサバなどの魚介系だしも加えているので、後味の爽やかさもあります。
(ちなみに、あっさりは、アゴ(トビウオ)とアジ、豚足などで取り、やや甘みと酸味を抑えています)
また、約半年のやり取りでようやく完成したというカネジン特注の平打ち麺は、麺自体の旨みもあります。
もちもちなのに、ツルツルという、不思議な食感。しかも少しウェーブがかっているので、つけ汁との絡みも良いです。麺は並盛200g、中盛300g。いずれも同料金!
さらに、チャーシューもGOODです。分厚くて大きくて、香ばしくて柔らかい。大盤振る舞い的な存在感も嬉しいです。
しかも、卓上には魚粉、辛味噌、胡椒などの味変アイテムが。
これらで味の変化を楽しみながらいただくのも良いですね~♪
もう、いただけばいただくほど、釧路にいるという事をすっかり忘れます。東京スタイルそのもの。決して釧路の味に迎合しない!という意気込みをひしひしと感じます。で、感じれば感じるほど、不安になってきました。
森本さん、この味で、最初から大丈夫でした?
「ダメでした!!!(爆)」
やっぱり(大汗)。
伺えば「最初は、うどん食わしてんじゃねーよ!!」とか、さんざんいろいろ言われたみたい。あと、これは「つけ麺」文化がない地にはありがちな話ですが、麺のほうにつけ汁をかけちゃって、ぶっかけみたいにしちゃう人とか。
でも、分かる人には分かるようです。徐々にファンが増えて、今では大評判♪
「3周年記念の日には400人以上来てくれたんです」と森本さん。
「抽選でいろいろ当たるみたいな企画もしたおかげ」と笑いますが、それでも一日400人以上はスゴイなぁ。
通常でも人気なんで、スゴイ儲かってますよね?(聞いちゃった♪)
「ところが、建物を自分で建ててしまい……。3500万円」
おおおお!
「原価率も通常のラーメン店は30%で作れと言われているのに、35~36%くらいかかっていて」
ありゃあ!
「濃厚系スープがメインなんで、ガス代が毎月16万円くらいかかっちゃってて」
ありゃああ!!(東京で100人くらい来る店舗でも月3万円くらいのところも多いです)
「水道代も月に10万円超えますし」
ありゃあああ!!!
「濃厚スープも時間がかかるし、ラーメンの種類も多いので、朝6時に来て、終わると23時すぎて……」
ありゃああああ!!!!
もう、何と答えてよいのやら、です。
でも、その時、森本さんは、言いました。
「でも、楽しいんです!ラーメンが楽しいんです!!ラーメン屋さんになって、本当によかった。ごちそうさまって言ってくれるのを聞くと、ラーメンやってて良かったって、本当に思います!!」
なんて良い人なんだ、森本さん。
ラーメンには夢がある。そんな事を思いました。
ありがとう、森本さん。がんばれ!森本さん♪
そういえば、昔、「僕はラーメンが大好きなので、店に寝泊まりしている」という有名店主がいました。感動しましたが、あとから聞いたけれど、実は本当の理由は、夜な夜な、お店の近所のキャバクラに入り浸っていたらしい(言っちゃったw)。
ちなみに「麺屋 武双」の近所にはキャバクラは無さそうなので、僕は信じてます(おい!)。
麺屋 武双
北海道釧路市芦野5-15-11
0154-39-3737
はんつ遠藤
1966年生まれ東京在住。早稲田大学教育学部卒業。海外旅行雑誌のライターを経て、テレビや雑誌、書籍などでの飲食店紹介や、飲食店プロデュースなどを行うフードジャーナリストに。ライターとして執筆、カメラマンとして撮影の両方をひとりでこなし、取材軒数は、1万軒を超える。全国のご当地グルメの知識と経験を活かし、ナムコのフードテーマパーク事業にも協力し、中国・上海の日式ラーメンテーマパーク「拉麺競技館」の名誉館長も務める。『日経トレンディ』にてトレンドリーダーにも選出。「週刊大衆」「JAL(Web)」などに連載中。また近年はYouTube【はんつTV】で飲食店を紹介している。ラーメンWalker百麺人も。岐阜高島屋「はんつ遠藤の全国ご当地ラーメンリレー」監修。
著書は『はんつ遠藤のうどんマップ東京・神奈川・埼玉・千葉』『おうちラーメンかんたんレシピ30』『おうち丼ぶりかんたんレシピ30』『東京やきとり革命!』など27冊。
百麺人(https://ramen.walkerplus.com/hyakumenjin/)
本人Twitter @hantsendo
YouTube【はんつTV】 https://www.youtube.com/channel/UCgu9hL89X4k5mWpz8BetHjw
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