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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第85回

日本でも「デジタル通貨」議論が本格化、発行のタイミングに注目

2020年07月27日 09時00分更新

文● 小島寛明

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 日本銀行による、デジタル通貨の発行に向けた議論が本格化している。

 2020年7月17日には政府の「経済財政運営と改革の基本方針2020」(骨太方針2020)に、日銀がデジタル通貨の発行を検討することが明記され、その3日後に日銀が担当部署を立ち上げた。

 キャッシュレス化を進める政府の基本方針の中に、デジタル通貨の「検討」が書き込まれた意味は大きい。

 政府の旗振りのもと、中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency、CBDC)「デジタル円」の発行に向けた体制整備が一気に進むのか、と前のめりな見方をしたくもなるが、実現には膨大な課題をクリアする必要があるのも現実だろう。

●小泉政権が始めた「骨太の方針」

 そもそも「骨太の方針」に明記されたことは、どの程度重いことなのか。

 骨太の方針は、首相が議長を務める経済財政諮問会議で内容を議論する。「構造改革」を掲げた小泉純一郎政権が2001年に始めた。

 その位置づけについて、『現代用語の基礎知識2019』に次のような説明がある。

 「それまで大蔵省(現財務省)が握っていた予算編成の主導権を内閣に移し、各省が個別要求を出す前に改革の総論を提示することになった」

 予算編成が本格化する前に、7月に内閣が骨太の方針を示し、各省庁はその内容を踏まえて次の年度の予算を考えるという位置づけだ。

 2020年の骨太の方針には、中央銀行デジタル通貨に関する記述が2行盛り込まれた。

 「中央銀行デジタル通貨については、日本銀行において技術的な検証を狙いとした実証実験を行うなど、各国と連携しつつ検討を行う」

 骨太の方針の位置づけから考えると、日銀に実証実験に必要な予算が措置され、本格的な検討が進むことは確定したと言える。

●背景に中国の動き

 日本を含むさまざまな国で、中央銀行デジタル通貨の発行に向けた検討が本格化している背景には、いくつかの流れがある。考えられるのは、おもに以下の4つの流れだろう。

● 仮想通貨(暗号資産)の登場
● キャッシュレス化とデジタル化
● 中国のデジタル通貨
● 新型コロナウイルス

 2009年にビットコインが登場して以降、中央銀行でなくても、技術さえあれば円やドルといった法定通貨に似た機能を持つ仮想通貨を発行できるようになった。

 多くはビットコインやイーサリアムの技術を転用したものだったが、世界中でさまざまな仮想通貨が登場した。

 仮想通貨が一般にも認知されるようになった5年ほど前から、各国の中央銀行もその動向を注視するようになり、自らデジタル通貨の発行を検討する中央銀行も少しずつ増えていった。

 キャッシュレス化とデジタル化の進展も大きな要因のひとつに挙げられる。日本政府はキャッシュレス決済のキャンペーンを進めており、2020年の骨太の方針の最大のテーマは行政手続きのデジタル化だった。

 デジタル化が進んだ政府の一要素として、中央銀行がデジタル通貨を発行する機能を担うようになるというのは、想定しておくべき近い未来の姿だ。

 さらに大きいと思われるのは、中国の動きだ。中国は、2022年に北京で開かれる冬季オリンピックまでに、「デジタル元」の発行を目指しているとされる。

 すでに、北京など一部地域で試験運用も進めている。

 中国の前のめりな動きを受けて、米政府も検討を本格化させたと報じられている。

 こうした流れを一気に加速させたのが、リアルに人と人の接触が制限される新型コロナウイルスの流行だ。

 感染拡大をきっかけに官と民で一気にデジタル化が進みつつある日本でも、中央銀行デジタル通貨の導入に向けた流れが本格化したと読み解くことができる。

●ハードルは多い

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