労働時間を軸にした想定では、正しい生産性を評価できない
── オンラインの仕組みや文化に社会や人がどう順応していくかも大切です。
大谷 「オンライン疲れという言葉がありますが、まずはそれを克服しないといけない。実際、在宅ワークが中心になると、仕事をしないことよりも、優秀で責任感の強い人ほど、仕事をし過ぎるほうが問題になっています」
佐々木 「旧来の企業が敷いてきた労務管理の仕組み自体がハードルになりますし、働き方の実情に一気に沿わなくなったとも言えます」
── そもそも定時に皆が集まって働くスタイルは、工場などのラインを回すうえでは有効ですが、サービスや知的労働が中心となった時代には合わない印象もあります。
佐々木 「まさにその通りで、非常に優秀なエンジニアがいて、プログラミングを書いて手作業だった仕事を効率化したとする。しかし、報酬が時給など労働時間で支払われるとすると、仕事は遅いが、長時間残業した人のほうがより多い報酬を得る場合も出てきます。残業時間に関わる矛盾です。テレワーク下で、労働時間をどう定義するか。知的成果物をどれだけ生み出すかを、労務管理に反映させられるかは、日本の根本的な課題となるでしょう」
都市のIT化=スマートシティという概念が変わる
── 少し話題を広げますが、新型コロナウィルスは社会を大きく替えた側面があると思います。都市のロックダウンに伴い、人々の行動を政府や公的機関が管理する動きも出てきました。緊急時における個人情報の提供や、人々を管理するためのスマートシティなどはその一例です。
青木 「管理されることへの抵抗感をどう乗り越えるかは、課題でしょう。とはいえ、実験は必要です。やることありきではなく、実験を通じて良いところと悪いところをあぶりだすことが大事です。政府が個人を認識する制度として、マイナンバーは以前から用意されていましたが、これもいまが実験になっています。給付金や補助金の提供などで非効率や遅れが生じて問題になりました。これは行政が紙の書類を目視で帳合しているからという側面がありました」
── 個人情報の提供はメリットがある一方で、デメリットもあると思います。
青木 「例えば、病院に行ったり、疾病したりした履歴などがあります。学校の成績がデータで管理され、小学校の入学から大学を卒業するまで、すべてデータベースに蓄積されたとした場合、その履歴が就職時に不利になるといった問題が起きるかもしれません。また、小さい子供のときの行動が大人になって調べられることもあるでしょう。こういった扱いが微妙な情報を、どこまで政府や公的機関に提供するかは難しい判断です。また、こうした情報をどう守っていくかも重要です」
佐々木 「スマートシティについて端的に言えば、効率化に関する優先順位付けがコロナ禍によって変わったのではないかと思います。これまでは都市に人がたくさん集まって電力を使うのが前提だったので、どうやって省エネをするかが課題でした。自動運転とかも混雑している道路で使うことを考慮して安全性を高めようとしていましたが、ヒトが移動しなくなる世の中でもそれが重要なのかという議論があります。
また、人の行動が制限されれば、圧倒的にリモートメンテナンスの需要が増えます。例えば、インフラを担う人が、ステイ・ホームでもメンテナンスできるか。ここもクラウド移行へのポイントになるでしょう。地方での生活が見直され、分散型の社会構造が求められるなどの変化が起こると考えられるので、いま暗黙的にしたがっている前提自体を見直した方がいいでしょう」
── 海外では、街中に普通に置かれている監視カメラ。これが人と人との接触を監視するために利用されたという例もあるようです。
佐々木 「セキュリティの観点で言うと、プライバシーや自由を、法的なところで、どれだけ公衆衛生とバランスをとるかが課題になります。国の自粛要請だけで、家にこもれる日本は、世界の常識から考えれば信じられないですが、行動の制限や把握をどこまで許すかの線引きは改めてやらないといけません」