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百麺人・山本剛志の「語りたいラーメン店」 第21回

かつて「インスパイア系」と呼ばれた「九段 斑鳩」(東京・九段)は、今も東京の最先端にいる

2020年07月16日 12時00分更新

文● 山本剛志 編集●ラーメンWalker

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 ラーメン好きならば「インスパイア系」という言葉を聞いた人も多いと思う。「inspire」という英単語はそもそも「(誰かに)着想やひらめきを与える」という言葉だが、音楽や絵画などでは、尊敬する先人の作品に触発されて新しい創作を行う意味で用いられている。ラーメンにおける「インスパイア系」も、先人のラーメンがあってこその存在ということになる。

 今のラーメン界で「インスパイア系」最大勢力は「二郎インスパイア」。私の知る限り、最初に「二郎インスパイア」と呼ばれたのは、世田谷区で2002年に開業した「らーめん辰屋」の「辰醤油らーめん(2015年閉店)」。だが、それよりも前に「インスパイア」と呼ばれたラーメン店がある。今回紹介する「九段 斑鳩」がそれである。

2016年に市ヶ谷駅近くに移転。店頭に看板を出していないのに行列ができている

 アパレルでの経験を経て、地下鉄九段下駅近くのビルに店を借りたが、坂井店主はその後しばらく、独学で素材・火加減・配分を少しずつ変えて、「自分の味」を探していった。2000年に開店するまで半年の時間を要したという。

 開業してからすぐ、ラーメン好きの間で話題になる。動物系と魚介系をブレンドしたスープは、当時人気だった中野の「中華そば 青葉」に近いとの評判が立ち、「青葉インスパイア系」と呼ばれることもあった。しかし、独学で自分の味を作り上げた坂井店主にとって、「インスパイア」の一言で括られてしまうのは、本意ではなかったかもしれない。

「特製らー麺」※市ヶ谷本店開業時(2016年)

 2011年「東京ラーメンストリート」に「東京駅 斑鳩」を、2015年にはその並びに「中華そば ちよがみ」を開店。一方で九段下の本店はビルの老朽化で閉店する事に。市ヶ谷駅近くに新たな物件を確保し、住所が「千代田区九段南」なので、店名は「九段 斑鳩」で継続されることになったが、店を万全に整えてから開店したいとして、ここでも味やオペレーションを再調整し、1年近く本店が休業する事になった。しかも平日の週3日、昼のみ営業という「ソフトオープン」が、2020年の今も続いている。創業前に半年を要した時と一貫したスタイルだが、営業日以外も、東京ラーメンストリートを含めた3店舗の仕込みに全力を尽くしている。営業日が少ない市ヶ谷本店は、店頭に店名も掲げないままに行列店となった。

「特製濃厚らー麺」(1000円)

 開業以来提供してきた「らー麺」は休止中で、現在は動物系スープの存在感を強めた「濃厚らー麺」をベースに、トッピングの組み合わせを提供している。「特製」では半熟の煮玉子が加わり、チャーシュー・穂先メンマ・海苔が増量される。

 大量に使うサバ節は特注品になり、カツオの高級本枯節、利尻昆布もふんだんに使った魚介系スープを構成。豚足や鶏などから煮出したとろみある動物系スープと合わせて、立体的な旨みを構成している。麺もラーメンとしてのバランスを考えたものを人気製麺所「大成食品」に特注している。

 20年間味を向上させ続け、現在も人気店として確固たる地位を築く一方で、仕込みもすれば開店前の味見も欠かさず、営業中の厨房にも立つ。一杯のラーメンに全力を尽くして、今も激戦の東京ラーメンシーンの最先端にいるのが、斑鳩の坂井店主である。

 ※新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策により、営業日・営業時間・営業形態などが変更になる場合があります。

山本剛志 Takeshi Yamamoto (ラーメン評論家)

2000年放送の「TVチャンピオンラーメン王選手権(テレビ東京系列)」で優勝したラーメン王。全国47都道府県の10000軒、15000杯を食破した経験に基づく的確な評論は唯一無二。ラーメン評論家として確固たる地位を確立した現在も年に600杯前後のラーメンを食べ続けている。

百麺人(https://ramen.walkerplus.com/hyakumenjin/

本人Twitter @rawota

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