日本の通信事業は世界に通用するか
今回の提携は、日本の通信事業が、5Gや6Gといった世界において、存在感を発揮するための取り組みだといえる。
NECの新野社長は、「NECが、4Gでグローバルに進出できなかったのは、GSMという標準化の壁があった。だが、5Gはオープン化によって、NECにも大きなチャンスが生まれる。むしろ、NECが世界に出ていける最後のチャンスだと考えている」とする。
移動通信ネットワークインフラ市場においては、中国のファーウェイ、スウェーデンのエリクソン、フィンランドのノキアが3強となっており、世界の通信ネットワーク市場における日本企業の存在感は極めて薄い。
その一方で、米国がファーウェイを排除する動きを見せ、これが主要国にも広がり、日本でも同様の動きが加速している。
NTTとNECの提携は、5Gという新たな技術への転換、日本が持つ技術の優位性を生かせる土壌、そして米中対立構造というなかで生まれたものだといえるだろう。
NTTの澤田社長は、会見のなかで、「経済安全保障にも合致したもといえる」と発言。NECの新野社長は、「NECは、世界的に高度な通信技術やAI、セキュリティなどのデジタル技術のほか、オペレータに求められる品質と信頼性を確保した通信インフラを構築してきた豊富な実績がある。これらを生かしたい」とする。
そして、今回の取り組みは、通信業界の構造変化を捉えた動きともいえる。
通信業界においては、通信事業者が特定メーカーの専用機器を採用する垂直統合モデルが主流であり、その結果、コストが高く、イノベーションが進みにくい構造が生まれている。
NTTの澤田社長は、「現時点では、5Gも垂直統合となっているが、今後、5Gが全世界に入ることを考えるとかなりの市場規模になる。そこにはオープンアーテキクチャーが重要であり、我々が目指すものは十分に競争力がある。NECはそこにチャレンジしていく気持ちが強く、我々のO-RANに乗って、ゲームを変えようと考えている。NECとの協業に至った理由はそこにある」とし、「NTTは、通信事業者主導のフレキシブルな関係を構築したいと考えている」と語る。
一方、NECの新野社長は、「今回の資本業務提携は、NECが世界に出ていく上で、強いパートナーを得たといえる。オープン化をきっかけに、NECの強い技術力を生かしたい」と語り、「開発するものはオープンアーキテクチャーに基づいたものであり、オペレータが提供する様々なサービスに貢献できる。オペレータやメーカーなど多様なパートナーとの共創により、新たなビジネスモデルを創出し、事業を成長させたい。日本をはじめ、世界各国における透明性、安全性の高い通信インフラの確保に対する期待に応えたい」と述べた。
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