人工知能や自動運転車などを活用して、最先端の都市「スーパーシティ」をつくる構想が、国会で審議されている。
審議中の法案は、国家戦略特区法の改正案だ。スーパーシティ構想を実現するうえで特定の地域を特区にして、個人データや行政が保有する情報の収集・活用などについて特例を設ける。
2020年5月21日付の朝日新聞の報道によれば、個人情報の取り扱いや、どうやって住民の合意を得るかなどの問題があるとして野党は批判を強めているが、与党は25日に始まる週内に法案を成立させる考えだという。
個人情報の取り扱いや住民の合意形成は当然重要だが、もうひとつ、じっくり議論してほしい論点がある。
公的な仕事を担うのはだれか、という論点だ。
●スーパーシティとはどんな構想か
なぜスーパーシティが必要なのだろうか。内閣府が公表している資料は、その必要性を次のように説明している。
「AIやビックデータを活用し、社会のあり方を根本から変えるような都市設計の動きが、国際的には急速に進展」
「我が国にも、必要な要素技術は、ほぼ揃っているが、実践する場がない」
日本でも、技術的にはスーパーシティを作ろうと思えば作れるが、さまざまな規制で実現するのは困難なので、特区を設けて環境を整えるのが政府の考えと読める。
では、住民の暮らしはどう変わるのか。内閣府の資料はスーパーシティでの生活のイメージも示している。
めんどうな行政の手続きはオンラインで効率的に処理される。どこでもキャッシュレスで決済ができるのため、現金を持たずに出かけられる。
お年寄りは自宅にいながら遠隔診療でかかりつけ医の診察を受け、子どもたちには遠隔教育で世界最先端の教育が提供される。
街には、自動運転のバスが走り、Uberなどカーシェアリングの利用も活発――。
確かに構想を読む限り、技術的にはおおむね実現可能ではあるが、規制あるいは人的な要因から、日本では実現していないものが並んでいる。
●個人情報には懸念
野党など、今回の法案に反対するサイドの意見には、おもに個人情報への懸念と、住民の合意形成プロセスへの疑念がある。
内閣府の資料には、データについて「安全な技術で集中管理」「安全な場所で管理運用」とある。
現時点での構想では、個別の事業者が保有している情報、行政が保有している情報から、それぞれが必要な情報を出し合って、連携する基盤をつくるという。
事業者側からは、行政機関に対して、必要なデータの提供を求めることのできる規定も含まれている。
さらに、さまざまな事業で集まったビッグデータは、AIを活用して解析するという。
さまざまな分野のデータを集中的に管理されると、当然懸念はある。この人は胃腸が弱くて、去年は確定申告をすっぽかしていて、先週はコンビニで成人男性向けの雑誌を買ったといった、情報が紐づけられてしまうかもしれない。
将来的には、子どものころは体育と算数が苦手だったのもバレてしまうかもしれない。
住民の福祉や利便性の向上が目的だと言われても、それは困ると考える人も少なくないだろう。
行政機関でも日本企業でも、情報漏えい事案はしょっちゅう起きている。
悪意のハッカーは、この民間と行政がデータを出し合う基盤は、高値で転売できそうな個人情報がたくさん抜き取れそうだと考えるかもしれない。
●合意形成プロセスにも疑念
行政と事業者がデータを共有する場合、スーパーシティーに住む人たちとの合意形成が必要になる。
個人情報が事業者に提供される場合、便利になるならOKと考える人もいれば、絶対にいやだという人もいる。
一応、国や自治体、関係企業や利害関係者が加わる地域協議会という会議体の設置も予定されているが、いまのところ、住民の意向をどうやって反映させるのかは不透明だ。
特定の市町村やその一部をスーパーシティーに指定する場合、住民投票が必要になるぐらい、住民の意見が真っ二つに割れる事態も想像できる。
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