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「人工知能(AI)の第3波」がビジネスをどう変えていくのか?-実用による高画質データが精度を高めていく-Appier チーフAIサイエンティスト ミン・スン

Appier
2020年04月14日

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Appier

AI(人工知能)テクノロジー企業のAppier(エイピア、共同創業者/CEO:チハン・ユー、以下Appier)のチーフAIサイエンティストであるミン・スンは、多くのビジネスシーンで人工知能(AI)が活用されている状況を踏まえ、AIがビジネスに与える影響や成功の秘訣について発表します。

1. AIがビジネスをどう変えるのか?

最初のAIの波は統計を基にしたシステムで始まりました。おそらく最もよく知られている使用法は、Googleのような大手インターネット企業で使用されていた情報検索アルゴリズムでしょう。検索結果の順位を決めるために使っている「ページランク」が一例です。

2番目の波は、より多くの機械学習手法に関するもので、ロジスティック回帰(統計的手法によって推計されたモデルの一つ)や、サポートベクターマシン(教師あり学習を用いるパターン認識モデルの一つ)でした。これらは現在、銀行やデジタルマーケティングツールなどのあらゆるビジネスシーンで使用されています。

さて、現在我々が体験している3番目の波は深層学習(ディープラーニング)です。これは視覚、聴覚、触覚などの人間の知覚システムに関連している「知覚AI」に分類されます。スマートスピーカーや人が話していることを認識するための音声認識や画像認識で使用されます。例えば、次に書く内容を予測するメールプログラム、顔認識によってロック解除される携帯電話、顧客の行動を予測するデジタルマーケティングおよび広告ツールで使用されています。

しかし、深層学習を製品に応用した場合、深層学習を適用した製品の使用状況に応じて得られる結果が異なります。たとえばスマートスピーカーは、直接マイクに向かって話せば、的確に音声を解読します。しかし、同じ部屋で他の人が話している場合など、実際によく起きる状況下で使うとそれほどの性能がでません。同様に顔認識でも、携帯電話の画面を的確な角度で映せばあなたを認識しますが、公共スペースの監視カメラは、一部の顔が部分的に隠れている大勢の人を判別するには十分な精度が出ない可能性があります。

オブジェクト認識(画像やビデオ内の物体を識別するためのコンピュータビジョンの手法)も同様で、乗用車で使用される高度な運転支援の一環として、他の車両や歩行者を認識するのに非常に優れています。ただし、どれだけ効果的かは気象条件によって異なります。雨が降っている、曇っている、または晴れている場合、精度に影響する可能性があります。カップ、テレビのリモコン、椅子などの居住スペースの中に存在するものは、さらに認識しにくいものです。そのため、家の周りで私たちを支援できるロボットはまだ多くありません。

2. 高品質データの重要性、顧客のデータを利用

深層学習を改善するには、高品質なデータが必要です。高品質なデータが多いほど、システムのパフォーマンスは向上し、より多くのデータを入力すれば、より良いパフォーマンスが見込めます。これを実現する方法は、学習データを実際の使用状況とできるだけ類似したものにすることです。

データを取得する最良の方法は、製品をユーザーの手に渡して、彼らの同意の上で日常生活での使用してもらい、そこからデータを収集することです。つまり、ユーザーが製品を使用している正確な環境で学習データを取得します。

例えば、アメリカのTesla(テスラ)には素晴らしい事例があります。電気自動車を使用した大規模なユーザーベースを持っているため、大量のデータを収集し、深層学習を使用してAIモデルを再トレーニングしています。

次に、この情報を使用して、車内のソフトウェアにOTA(無線)アップデートを継続的に送信することでその方向にさらに進めるポジティブフィードバックループの構築をしています。収集するデータが多いほど、そのモデルの精度が上がり、ユーザーにより良いサービスを提供できるようになります。深層学習を使用することで、運転の安全性を継続的に向上させ、サービスを改善し、その過程でユーザーベースを拡大し続けることができます。

もちろん、成功とは言えない事例もあります。販売する商品が少なければ収集するデータが限定的となり、深層学習の精度は低下します。この場合のデータは、実際の使用状況に基づくものではなく、想像上の使用例から収集したデータを使うこともあります。ユーザーベースがない場合、現実的なデータを大量に取得することはできませんので、深層学習は製品またはサービスの改善に役立たない可能性があります。消費者向けロボット製品は、電気自動車ほど速く精度の前進は見込めないのはこうした理由からです。

過去5年間で、様々な技術分野で深層学習の利用を試みましたが、多くの場合、この鶏が先か卵が先かの問題を解決できず失敗しました。魅力的な製品を作り提供するにはAIだけでは十分ではなく、AIと他の要素を組み合わせて提供する必要があります。長期的なメリットをもたらすのはAIであることは間違いありません。いったんこの壁を突破すれば、商品の品質が向上し、それが顧客基盤をさらに成長させることができ、市場を拡大することができます。

3. 深層学習(ディープラーニング)がAI採用の壁を突破する方法

AIの第3の波にはいくつかの障壁があります。まずはデータを収集するコストが高いということです。従来、データの収集は人間によって入力、出力が管理されてきました。データは「監視」される必要がある、という認識がありました。たとえば自動車に搭載されている警戒システムでは、車、歩行者、自転車、停止標識などにラベルを付ける(分類する)必要がありますが、ラベリングコストが高いという問題があります。AIが適用されるビジネスあるいは技術側で、ラベリングにかかるコストを負担できない場合、深層学習は費用対効果が低い選択肢となります。

良いニュースは、深層学習が非常に高度になり、教師なし学習が可能になったことです。つまりデータを収集するだけで良くなりました。教師なし学習が、教師あり学習と同じパフォーマンスを達成できる場合、ユーザーベースがあり、生データを取得する限り、AIを使用してパフォーマンスを改善できます。大きなラベリング予算は必要ないため、利益率は高くなります。また、参入障壁が低くなり、より多くのアプリケーションドメインが、深層学習を活用できるようになります。

CT / MRI画像のように、医療用に特化したデータも収集に非常に手間とコストがかかりますが、こうした場合には転移学習と呼ばれる方法が役立ちます。これは、より簡単に利用できる他の種類のデータ(X線など)から知識を転送し、それらをデータのカテゴリに適用することでコストの問題を解決します。

それでは人的要因についてはどうでしょうか?現在の大きな課題はどのようにAIを管理するかです。

AIの管理者は、解のない問題を解決するために、この技術をしっかり理解する必要があります。しかし、それは単に技術を理解できるかどうかの能力の問題ではありません。より多くのユーザー、より多くのデータ、より強力なAIの力を活用するには、活用すべき分野や領域ついての深い知識も必要です。

これらのスキルを組み合わせることができれば、何ができるかを制限する必要はありません。AIの第3の波は今までのビジネスを変えていきます!

Appier について


Appier は、AI(人工知能)テクノロジー企業として、企業や組織の事業課題を解決するための AI プラットフォームを提供しています。詳細は<www.appier.com/jp/> をご覧ください。
※過去の発表は<https://www.appier.com/ja/category/newsletter/>をご覧ください。

ミン・スン プロフィール


2005年からGoogle Brainの共同設立者の一人であるAndrew Ng(アンドリュー・エン)氏、元Google CloudのチーフサイエンティストであるFei-fei Li(フェイフェイ・リー)氏などのプロジェクトに携わり、AAAI(アメリカ人工知能学会)をはじめ世界トップの人工知能学会で研究論文を発表。
2014年に国立清華大学の准教授に就任。2015年から2017年には、CVGIP(Computer Vision Graphics and Image Processing)Best Paper Awardsを3年連続で受賞。
専門分野は、コンピュータビジョン、自然言語処理、深層学習、強化学習。
2018年には「研究者には肩書きよりもデータが必要」と感じ、AIテクノロジー企業AppierにチーフAIサイエンティストとして参画。新製品の開発、既存製品の機能改善のほか、記述的な課題解決を行う。

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