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Microsoft Teams 3周年イベントで聞いたユーザー事例

リコーが進めた8000人の在宅勤務にMicrosoft Teamsはどのように貢献したのか?

2020年04月10日 11時30分更新

文● 大河原克行 編集●大谷イビサ

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 日本マイクロソフトは、オンラインイベント「Microsoft Teams Anniversary Week」を2020年4月8日~10日まで開催。会期2日目の4月9日は、「導入事例の日」とし、日本国内におけるMicrosoft Teamsの導入事例が紹介された。ここでは長らく働き方改革に取り組んできたリコーの事例を紹介する。

Teams提供開始から3周年を迎え、リコーが事例を披露

 同イベントは、2017年3月にMicrosoft Teamsの提供が開始されてから3周年を迎えたのを記念して行なわれているもので、テーマは、「企業事例に見る、テレワークの実践~Teamsの3年間の歩みと最新機能」。開催初日は「Teams 3周年の日」、最終日は「最新機能の日」として、日本マイクロソフトからTeamsに関する最新情報や最新機能などが説明された。

 会期2日目にMicrosoft Teamsの導入事例のひとつとして紹介されたのがリコーだ。

 「Teams活用で8,000人の在宅勤務を実現」と題して、講演者のリコー デジタル推進本部 ITインフラ統括部Well-Beingグループの新妻拓グループリーダーが、自宅からTeamsを使って講演を行なった。同社の「働き方変革」への取り組みだけでなく、新型コロナウイルスの感染拡大により実施された「原則在宅勤務」への対応などにも言及し、興味深い内容となった。

リコー デジタル推進本部 ITインフラ統括部Well-Beingグループ 新妻拓 グループリーダー

 リコーは、2018年からOffice365の利用を開始し、現在、8000人以上の社員が在宅勤務にTeamsを活用している。

 同社は、1977年には業界で初めて「OA(オフィス・オートメーション)」を提唱するなど、複写機メーカーとしてオフィスの生産性向上に取り組んできた経緯がある。そして、昨今の新たな時代の働き方に対しても、自ら実践することが、顧客に提案をする上では重要であるとし、2017年からは、常識や前例にとらわれず環境変化に対応し、新たな働き方を創り出す「働き方変革」を打ち出し、従来の働き方の延長線上にある「働き方改革」とは一線を画す取り組みを進めてきた。

 そして長年、利用してきたLotus NotesからOffice365に移行。2017年4月に社長に就任した山下良則社長が旗振りをする形で、リモートワークを活用した働き方にコミットしたほか、2018・2019年には、全組織マネージャー職を対象にしたマネジメントワークショップを開催し、毎年850人が参加した。部門長自らがリコーの働き方変革を理解し、自らがリモートワークを率先活用することなどを盛り込んだ「Cool Boss宣言」を行うといった動きを開始。さらに、2016年4月の在宅勤務制度の正式導入に続き、2018年4月には、月10日間まで利用できるリモートワーク制度へと仕組みを拡大し、「意識風土の変革」と「ルールとツールの整備」を同時に進めてきた。

リコーの働き方改革

 新妻グループリーダーは、「当初の在宅勤務制度は、育児や介護といったことが目的であったが、リモートワーク制度では、それぞれのワークやライフにあった働き方を実現する制度へと変革させた。それにあわせて、新たな働き方の実現に向けてIT環境を総合的に再構築し、Office365を主要ツールとして利用できるようにし、あわせて統合IDおよび新メールアドレスによる統合環境での利用を可能にした。また、それを支えられるようにネットワーク環境を強化。インターネット回線を6倍に、WAN回線を2倍にしたほか、無線LANの収容数を10倍にし、オフィスレイアウトや勤務地に捉われないネットワーク環境を整備した。社長による方針説明会では、同時接続で約3000人のブロードキャスト配信のキャバシティを用意した。Office365の導入前後ではピークトラフィックが約4倍に増えたが、それにも対応することができた」などと述べた。

 Office365の導入にあわせて、AISASフレームワークを活用したツールの定着活動を展開。さらに、営業部門では一日の活動のなかで、Office365をどう活用するのかといったように、部門ごとの利用シーンを想定した具体的な提案を行ったり、ワークショップの開催、ポータルやブログなどを通じた定着活動も重視。TeamsBotを利用した問い合わせ対応も行なったという。

社内の連絡はほぼTeamsに リモートワークにも貢献

 現在、リコーでは、情報共有の急ぎ度合いと共有範囲に応じて、Office365で提供される各種ツールを使い分けている。だが、個人、グループ、部署といった領域での共有にはTeamsを利用することが一般化しており、「社内での連絡はほぼTeamsになっている。メールの利用は禁止してはいないが、推奨しておらず、社外との連絡にのみ使っている状況。コミュニケーションはTeamsに依存している」と語る。

リコーでのツールの使い分け

 Teamsになったことで、社内のコミュニケーションに変化も現れた。「メールでは、長い文章になることもあるが、Teamsでは短い文章に収まり、長い文章は嫌われるという状況が自然と社内に生まれた。短い文章で頻繁にやりとりをして、意思決定を速めていくことができるメリットがある」(新妻氏)。 

 また、社内では「会議は場所ありき」の概念が払しょくされ、Teamsを利用した会議が増加。会議時間の調整にはTeamsBotを利用した自動調整を行なっており、移動時間や調整時間の削減により、本来の業務に割ける時間を増やすことにつながっているという。

 こうしたTeamsの利用が浸透するとともに、リモートワークの活用も促進され、同社によると、2019年11月時点で、全社員の約50%にあたる約5500人がリモートワークに登録。リコー本社への出社比率は、同時期において、68.0%と全体の3分の2程度になっていたという。

 リモートワークにおいては、会社から貸与したPCを自宅で利用。ネットワーク回線および電気は自宅のものを利用しているという。また、ヘッドセットなどについては業務で必要であると判断した場合には部門ごとに購入している場合もあるという。さらに、一般的な在宅勤務の際には、人事システムでリモートワーク申請を行なうとともに、始業および終業時間の管理においては、Teamsなどを利用して上司に報告する必要があるという。また、成果については計画表を提出し、それに対する進捗などを報告することにしているとのことだ。

 2019年12月に実施した社員を対象にした調査によると、時間と場所が選択できることをメリットと感じていた社員が63%、時間の有効活用ができたとする社員は68%に達するなど、リモートワーク制度の導入や、それを実行する環境およびツールに対しては、肯定的な意見があがっていた。

リモートワークに対する肯定的な意見

 新妻グループリーダーは、「トップが率先してリモートワークを利用しており、社員もやりやすい環境が生まれ、社内にはリモートワークが根づいていた。そうした取り組みを行ってきたことが、今回の新型コロナウイルスの感染拡大に伴う、原則在宅勤務の動きのなかでも生きている」と振り返る。

新型コロナウイルスの在宅勤務でTeamsやSkypeの利用は3倍に

 同社では、東京オリンピックの開催にあわせて、2020年夏には本社に勤務する2000人の社員を対象にした一斉リモートワークを実施する予定でいた。それにあわせて、2019年9月6日および10月25日には一斉リモートワークを実施。11月15日には、本社をクローズしたリモートワークの検証も行なってきた。

 「リコーでは、新型コロナウイルスの感染拡大により、3月2日~13日まで、原則在宅勤務を実施。さらに、政府の緊急事態宣言を受けて、4月8日~5月6日まで、原則在宅勤務を行っているところである。もともとは東京オリンピックに向けて準備をしていたものだが、これが前倒しになった格好である」(新妻氏)としながら、2月28日時点で、国内グループ従業員5万人が在宅勤務することで想定したネットワークの強化に慌てて取り組んだことに触れた。

「それまでは5000人程度のリモートワークは想定していたものの、このタイミングで5万人が利用することは想定していなかった。2つのデータセンターに2台ずつのVPN機器を配置していたが、4台の予備機をすべて増設したり、VPNにつなぎっぱなしにならないようにアプリで制御したり、依頼文書を発信したりといったことで対策を取った。初日となる3月2日には、アクセスピークは1万人近くなったが、なんとか乗り切ることができた。現在はこれを超えたアクセス数になっているが、3月2日からのリコー独自の原則在宅勤務の取り組みがあった経験を生かすことができ、いまでは、VPNを使って自宅から安定して利用できる環境に増強している」(新妻氏)。

原則在宅勤務の初日3/2の舞台裏

 実際、3月2日からの原則在宅勤務では、TeamsおよびSkypeの会議利用は3倍に増加したという。「4月8日からの原則宅勤務では、さらに会議数が増えている。だが、日本マイクロソフトのクラウドインフラを活用できるため、影響がなく使えている。原則在宅勤務を支えるコミュニケーションツールとして、Teamsは必須のものになっている」とした。

 3月2日からの原則在宅勤務時の社員の反応についても公表。「計画通りに業務ができた」との回答は92%に達したほか、「リモートでコミュニケーションが取りづらい点があった」との声はわずか6%、家族などがいるために「自宅環境で集中できなかった」との回答も6%に留まり、伝票や契約書など「紙の情報が自宅になく、業務遂行が難しいと感じた」との回答も5%に留まったという。

 「会社では、ちょっとした会話で済むことが、チャットでは時間がかかるという不満もあったほか、設計部門では、大きな画面が必要であるといった要望や、自宅のネットワーク環境がよくないといった課題も出ていた。一部部門での業務遂行の課題も解決する必要がある」とする。一方「以前から働き方変革に取り組み、経営トップから組織職、部門長、各メンバーがリモートワークをすることに違和感がない環境が整っていたことが、原則在宅勤務で生かすことができた。いまは、大きな問題は起きていない。社内でも受け入れられている」と報告した。

オリンピックから新型コロナウイルスの対応へ

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、想定していた時期よりも前倒しで一斉リモートワークが実施され、それが想定よりも長期化したり、対応しなくてはならない社員の数が一気に拡大するという事態に見舞われている。そして、多くの企業が同じ立場に置かれている。

 リコーにおいては、これまでの段階的な取り組みが、原則在宅勤務の状況下でも、業務に支障を起こさない環境を実現しているが、優れたツールの選択や活用だけでなく、トップ主導による社員の意識改革を伴ったリモートワークの導入が、成功につながっている事例だといえるだろう。

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