グーグルは量子機械学習アプリの作成をより容易にする、無料のオープンソース・ソフトウェア「テンソルフロー・クアンタム(TensorFlow Quantum)」をリリースした。2015年の発表以来、機械学習の普及に貢献してきたグーグルの人気ツールキット、テンソルフローのアドオンだ。
テンソルフローは、多層ニューラルネットワークを簡素化し、再利用可能なコードを提供することで、新しい機械学習アプリをゼロから作成する必要をなくし、機械学習を利用しやすくするものだ。テンソルフロー・クアンタムは、量子機械学習でも同様のことを実現しようとしている。
テンソルフロー・クアンタムを使うと、アプリを実行しているハードウェアの細かな制約に縛られることなく量子アプリを作成できる。実際の量子コンピューターと従来のコンピューター上でシミュレーションする量子コンピューターとを切り替えられる。つまり、本格的な量子コンピューターでアプリを実行する前に、シミュレーション上で量子アプリをデバッグできるわけだ。テンソルフロー・クアンタムの開発プロジェクトを指揮しているマスード・モフセニー博士は、コード作成者がテンソルフローを使うことで、他の開発者たちが繰り返し利用できる基礎的な新しいアルゴリズムを発見することに期待している。
量子機械学習向けのツールキットはこれまでにも存在していた。たとえば、カナダのトロントに拠点を置く量子コンピューティングのスタートアップ企業であるザナドゥ(Xanadu)は、テンソルフローと似た「ペニーレーン(Pennylane)」というプラットフォームを提供している。だが、グーグルによるツール開発の重要性はかなり大きいと、ザナドゥの研究員ネイサン・キロラン博士はいう。キロラン博士によると、テンソルフローなどの有名ツールの周りには開発者コミュニティが築かれ、コードやアイデアを共有し、イノベーションが促進される。機械学習技術は、開発者コミニュニティのおかげでよい方向に発展してきた。グーグルのチームは、テンソルフロー・クアンタムによって量子コンピューティングの世界でも同じ結果を得ようとしている。
現在のところ、量子機械学習は極めてニッチな分野だ。研究者向けに提供されるテンソルフロー・クアンタムは、その使用目的が自然界のモデリングであれ、暗号量子鍵配送装置などのデバイスであれ、量子データの扱いを容易にしてくれる。自然現象は量子法則に従うことから、機械学習モデルに現実世界を正確に反映させるためには、機械学習モデルもまた量子の性質を踏まえたものでなければならないと、モフセニー博士は考えている。
カナダのブリティッシュ・コロンビア州に拠点を置く量子コンピューティング企業Dウェーブ・システム(D-Wave Systems)も先月、自社製の量子アプリ開発用ツールキット「リープ(Leap)」の新バージョンをリリースした。リープは、バスの運行ルートを計画する超高精度の公共輸送シミュレーターを作成したフォルクスワーゲンや、5Gネットワークの最適化を目的とする量子アプリを作成したテレコム・イタリア(Telecom Italia)など、いくつかの大企業で社内用量子ソフトの開発に採用されている。