フジテレビプロデューサー赤池洋文が紡ぐ!読むだけで美味しいラーメン「物語」 第1回
【フジテレビプロデューサー赤池洋文が紡ぐ!読むだけで美味しいラーメン「物語」】第1回唐そば(東京・渋谷)
2020年02月17日 18時30分更新
皆様、こんにちは。
昨年から「百麺人(https://ramen.walkerplus.com/hyakumenjin/)」を拝命致しました、フジテレビの赤池洋文(あかいけひろふみ)と申します。 本業はテレビ番組制作ですが、約20年に渡る趣味の「ラーメン食べ歩き」で得た知識で、ラーメンに関する番組をいくつか手掛けたことがきっかけで、百麺人を拝命し、今回このような記事を書かせて頂くことになりました。
もちろん大変名誉なことなのですが、私はラーメンのプロではない、一介のテレビマンです。そんな素人が「厳選!都内の名店30軒」とか書いたって、何の説得力もないことは自分が一番よく分かっています。ただ、素人なりに20年間ラーメンと向き合ってきたので、それなりの「想い」はあります。それはプロのような冷静かつ客観的な批評とは真逆の、偏りまくって歪みまくったラーメンへの愛です。そんな偏愛っぷりをここに書き連ねたいと思いますので、どうかお付き合い頂けましたら幸甚です。
まず、私がラーメンを食べる上で最も大切にしていることは「味」ではなく「物語」です。その店が作る「味」ももちろん大切ですが、それ以上にその店が紡ぐ「物語」を愛しているのです。
のっけから「何言ってんだコイツ」感がすごいとは思いますが、もう少し辛抱して読み進めて下さい。
例えば「出汁は魚介」という味の分析で終わるのではなく、「なぜ魚介出汁を選んだのだろうか?」というところに想いを巡らせます。その想いが「正しい」「正しくない」は一回置いておいて、とにかく「物語」を紡ぎながら食べるのです。そう、言うなれば「妄想」です。最近はネットなどの情報も豊富なので、予備知識でかなり正確な「物語」を紡げてしまうのですが、それだとつまらないなと思っています(そもそも私が食べ歩きを始めた20年前は情報も少なかったというのもあります)。まずはできるだけ自分の想いだけで「物語」を紡いで、そしてそのお店に通うようになり、店主さんと少しずつ話ができるようになって、いろいろ聞くうちに「物語」が修正・補完され育っていく。それを楽しみながらラーメンを食べるのです。
ここまで読んで「あっ、いよいよこいつヤバイな」と思われたと思います。それは甘んじて受け入れます。でも、これには私なりの偏って歪んだ理屈があるのです。もうここまで読んでしまったので、このままもう少しだけお付き合い下さい。
そもそも「味」とは、とても不確定で不安定なものです。「鼻をつまんで食べると味がしなくなる」というのはバラエティ番組の企画でもよく見かけますが、人は味覚だけでなく、嗅覚・視覚・触覚・聴覚など五感を駆使して味を判断しています。私はさらに、ここに「感情」という要素も大きく加わると思っています。楽しい空間とそうではない空間で同じものを食べたら、前者の方が圧倒的に美味しく感じるはずです。「気持ちが入った方が美味しく感じる」。そのための究極の補完材料が「物語」なのです。
この偏って歪んだ「物語」論にたどり着いたきっかけが、私が大学時代に見たある1本のドキュメンタリーです。それは、私が本格的にラーメンの食べ歩きを始めるきっかけにもなったものでした。
その番組が放送されたのは、1999年の日本テレビさん。当時北九州で大人気だった豚骨ラーメンの名店「唐そば」の息子さんが、一念発起して渋谷で「唐そば」の2号店を出す、というものでした。開店当初は話題になったものの、息子さんの作るラーメンが「本店よりはるかに味が落ちる」と苦境に立たされてしまいます。そこに親父さんが本店を1日だけ閉めて渋谷に来て、一晩がかりで息子さんの味を直します。そして明け方、親父さんは帰っていく。その背中が見えなくなるまで、息子さんはずっと頭を下げている…。どうです、私の駄文でもちょっと感動するようないい話だと思いませんか?
「食べなくてももうすでに美味しいじゃん…」とんでもない衝撃を受けました。「物語」が「味」を凌駕する…そんな経験初めてだったので混乱しました。少し冷静になると「これだけ素晴らしい『物語』を紡いでいるお店のラーメンははたしてどれだけ美味しいのか?」自分の舌で確認しないと気が済まなくなり、すぐに「唐そば」に行きました。出てきたのは「物語」が完璧に「味」に反映された一杯でした。あの美味しさは今でも忘れられません。
あれから20年以上経ちました。ラーメン激戦区の渋谷では、今あまり第一線では語られないお店にはなってますが、「唐そば」の美味しさは今なお健在です。昼時には行列もできるくらいに人気です。もちろん、息子さんは今もお店に立たれています。ジャンルとしては豚骨ラーメンですが、鶏ガラや魚介も絶妙な塩梅で入っていて、他では絶対に食べられない唯一無二の味となっています。全く古さを感じさせないのが凄いです。
あっさりだけどコクのあるスープはレンゲが止まらなくなります。「あの日親父さんが直したスープを今も忠実に作り続けているのか?いや、時代に合わせて息子さんは少しずつ進化させているのではないか?」など、食べに行く度に「物語」が膨らんでいきます。
麺は自家製麺で、いわゆる博多豚骨の細麺とは違った中太麺。当時のドキュメンタリーでは、北九州の本店にあった製麺機を親父さんが息子さんに譲ったシーンが描かれてましたが、その製麺機が今なお使われているかは確認できておりません。そのあたりにまた「物語」を紡ぎながら、これからもまた「唐そば」のラーメンを楽しみたいと思います。
是非あなたにも「唐そば」のラーメンを、あなたなりの「物語」を紡ぎながら食べて頂きたいです。
赤池洋文 Hirofumi Akaike (フジテレビ社員)
2001年フジテレビ入社。ドラマ「ラーメン大好き小泉さん」、ドキュメンタリー「NONFIX ドッキュ麺」「RAMEN-DO」などラーメンに特化した番組を多数企画。大学時代からの食べ歩き歴は20年を超え、現在も業務の合間を縫って都内中心に精力的に食べ歩く。ラーメン二郎をこよなく愛す。
百麺人(https://ramen.walkerplus.com/hyakumenjin/)
本人Twitter @ekiaka
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