マイクロソフトのような大きな会社には、いくつもの切り口がある。その中で今、「個人向けの顔」としてもっとも大きな事業はなんだろうか? これが15年前なら、誰もが迷わず「Windows」と答えただろう。そして10年前でも、「Microsoft Officeが大きいけど、やっぱりWindows」と答えていたかもしれない。
しかし現在、マイクロソフトを象徴するコンシューマ・プロダクトは「Surface」と言える。マイクロソフトはクラウドとプロダクティビティツール(Microsoft Office)の会社であるが、それを象徴する存在は、Surfaceというハードウエア群になっている。
10月2日にマイクロソフトがNYで行った発表は、そうした姿をはっきりと感じさせるものになっていた。
あのマイクロソフトがOSにこだわらなくなった
一番の話題はやはり、「2つの2画面」。「Surface Neo」と「Surface Duo」の発表だろう。特にSurface Duoの存在は、「マイクロソフト、スマホ市場へ再参入」として新聞などでも報じられている。
確かに驚きだ。あのマイクロソフトがGoogleと組んで、AndroidをOSに採用したスマホを発売するなんて!
だが、Surface事業を統括する、米マイクロソフト コーポーレートバイスプレジデントでチーフ・プロダクト・オフィサーのパノス・パネイ氏は、そんな質問に、事もなげにこう答える。
「Androidを採用した理由は、モバイルというフォームファクター、特に2画面において、ベストな選択肢を顧客に提供できると考えたからだ。ご存じの通り、Androidには数百万ものアプリがあり、たくさんの顧客のニーズもそこにある」
多くの人が思うよりも、スマートフォンを作るのは難しい。携帯電話ネットワークに接続し、安定的に電話を待ち受けたり、高速な通信を維持したりするには、多数のノウハウが必要だからだ。そうした部分は常に変化しており、一旦携帯電話事業から降りてしまうと、簡単にノウハウが失われる。今後の5Gを考えると、ノウハウはさらに重要だ。現実的な問題として、いまさらWindowsで同じ事をしようとしても、Androidよりもいい出来のものになるとは思えないし、開発工数もバカにならない。
そしてなにより、アプリの問題がある。Androidの持つ、アプリエコシステムは強力だ。その上でマイクロソフトは、「マイクロソフトのクラウドとMicrosoft Officeを使ってくれるならそれでいい」と判断した。あくまでSurfaceはプロダクティビティツールであり、OSがなにかということはもはや「最優先課題ではない」のだ。
だから、Surface DuoはAndroidスマホとして開発されたのであり、「プロダクティビティツール」としてSurfaceの名を冠して発表されたのである。
過去のように、「OSでの支配力を維持する」ことは、今のマイクロソフトにとって最重要事項ではない。
PCの今後を指し示す「3つの形」
一方、Windowsという存在がマイクロソフトにとって軽いものであるはずがない。「優れたWindows PCを提供」し、新しいプロダクティビティの可能性を示すことは、PCという市場を活性化させ、進化を促す上で重要な施策である。そもそも「Surface」というPCは、そういう役割を担ってきた。
今回の新製品群の中で、Windows PCとしてのSurfaceは3つのゾーンに分けることができる。
ひとつは「完成度」。「Surface Pro 7」や「Surface Laptop 3」がそれにあたる。これまでのモデルから劇的に進化しているわけではないが、今のPCとして高い完成度のものを示すことで、安心して買えることが重要な製品だ。ある意味、Surfaceビジネスの中でも「売り上げ」を期待される役割といっていい。特に今回は、Surface Laptop 3の完成度が高い。元々良い製品だったが、グラフィック性能を求める人向けにAMDのRyzenを採用した15インチシリーズを追加し、ラインナップが広がったのが大きい。