神経系からヒントを得た「電子皮膚」は、温度や圧力、湿度を感知できる。電子皮膚を使えば、より複雑な触覚を義肢に与えられるかもしれない。
人間の体内には皮膚、脳、そして筋肉を接続する約72キロメートルに及ぶ神経のおかげで、私たちの体は「センシング・マシン」となっている。現在、シンガポール国立大学の研究チームは、ヒトの神経系をヒントにしてロボット用の「皮膚」を開発している。この電子皮膚により、いつの日か、周囲の環境を検知したり理解するロボットの能力が向上するかもしれない。
シリコンのシートが、接触、圧力、温度、そして湿度を取得できる240個のセンサーで覆われている。7月18日にサイエンス・ロボティクス誌で発表された論文の共著者であるベンジャミン・ティー助教授は、これらのセンサーは取得したすべてのデータを、単一のデコーダーに同時に送信できると述べている。センサーの数を、1万個に増やした場合でも機能するという。
ロボット用の柔軟な電子皮膚は、過去の研究でも試験されている。しかし、ティー助教授によると、個々の電極の集まりではなく、むしろ全体的なシステムとして機能させながら、多数のセンサーから単一の受信機にフィードバックを送れたのは今回のシステムが初という。ここで重要なのは、個々のセンサーが損傷しても電子皮膚は動作し続けることだ。この電子皮膚の復元力は、以前のシステムよりも優れているという。
電子皮膚は実質的に、人間の触覚に少し似たものをロボットに与えるだろうと、リバプール大学ロボット工学のシャン・ルオ助教授は言う。電子皮膚を装備したロボットは、倉庫内の道具を器用に扱えるだけでなく、より安全に人間とやり取りできるだろうと、ルオ助教授は付け加えた。ティー助教授のチームは現在、義手の触覚の再生を手助けするために、エンジニアや神経科学者と共同で研究している。ティー助教授は触覚の再生によって、「義手を装着した人の喪失感を少なくできるかもしれない」と述べている。
器用に動くロボットは、MITテクノロジーレビューの「2019年版ブレークスルー・テクノロジー10」の1つに選ばれている。その理由は、ロボットが物理的な世界の障害を乗り切る方法の改善に迫られているからだ。人間が機械と一緒に働くことになったり、倉庫の厄介な作業を機械に手伝わせたりするのなら、なおさらのことだ。