IoT×病院設備で何が起こる? 医療のAI/IoT改革と潜在ビジネス
病院の全フロアにIoTを入れたら、残業時間がゼロになった
2019年07月30日 13時00分更新
医療業界には、新技術導入のハードルがある
キャピタルメディカ・ベンチャーズは、ヘルスケア領域に特化したベンチャーキャピタル企業。
代表取締役の青木武士氏は、ヘルスケア領域での投資経験を10年以上積み、3年前にキャピタルメディカ・ベンチャーズを立ち上げた。
青木氏は「ヘルスケアの分野は、IoTというより、IT化もまだできていないところが皆さんの想像以上に多い。病院や介護施設は、新しいものを試してみるハードルが高い。人の命を預かっている以上、何か問題が起きたらどうしようという意識がある。試してみて、ダメだったら引っ込めるということができない」と話す。
またヘルスケア領域は「あったらいいな」という発想で商品が作られてしまい、「どう収益に結びつけるか」が欠けているケースも多いのだと解説。
同社は、スタートアップへの投資を進め、親会社・キャピタルメディカでは約30の病院の経営支援もしている。病院に新しい技術を導入するハードルをクリアするために、親会社が支援する病院とスタートアップを結びつけ、「同社がスタートアップに投資し、病院でスタートアップ企業のサービスを実証実験、スタートアップ企業に現場実証の実績を作る」(青木氏)というエコシステムを構築しているとのこと。
すでに20万円ほどの少額でゲノム解析ができるサービス、無痛かつ高精度の乳がん検査機器を開発するスタートアップ企業と病院を結びつけた実績があるそうだ。
また青木氏は医療現場におけるAIの可能性にも言及。「医療現場では、AIをクラウドに常時接続して運用するのは難しいことが多い。たとえば、情報のセキュリティー面に対し不安を感じる現場では、ローカルネットワークでの情報のやり取りが優先されることがある」と説明。たとえば、患部の写真を元に画像診断をするソリューションを導入するとしても、「画像はどこに保存されるのか?」といった部分がシビアなため、「便利だから導入するとはいかない」と、医療業界の慣習にも触れた。
ビジネスマンの言語で話さないことも大切
続いてのセッションでは、伊藤氏と青木氏が登壇。一部で青木氏が話した、医療業界へ新しい技術を導入するハードルの高さを、さらに掘り下げて両者で討論した。
「僕たちの目線では、こんなに便利なものがあるから、導入したらどうか? と思ってしまう。でも、そういうことじゃない。導入によってどんなメリットとリスクがあるのか。どれくらいの効果があるのか。全然ダメだと一蹴されるケースもあるし、いいサービスや製品でも、実際には導入できないことが多いのが現状。まずは、医療の現場には新サービスや製品導入へのさまざまな懸念・障壁があるという現状を理解する必要がある」と青木氏。
伊藤氏は「私たちが導入してもらったときは、ステップバイステップでやっていった。まずは特定のフロアから部分的に導入して、効果が出てから全体的に展開するというやり方で、1年半かけて全フロアに導入してもらった」と、少しずつ現場に落とし込んでいく方法の有用性を紹介。
「担当するドクターや、発言力のある看護師がその点をどう考えるかも重要。医療者とビジネスマンの言語も異なるから、ビジネスマン目線で話すと、双方の理解がきちんとしていないまま話が進んでしまうこともある。そういった部分のケアも大切」(青木氏)。
会場には医療関係者のほか、スタートアップ関係者も多数集まっており、セミナー終了後は登壇者も含めた積極的な交流が見られた。AIやIoTを医療現場に導入するためには、各業界のルールや慣習といった部分も含めた議論が必要になるーーそんな現状も示唆されたセミナーだったから、来場者にとっても新たな発想が生まれる場となったのではないだろうか。
この分野に関わるビジネスパーソンは、ぜひHOSPEX Japan 2019に出展社・来場者としてかかわってほしい。

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