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Build/de:code 2019 総括座談会 ~AzureのMR、IoT、AI、ブロックチェーン~

クラウドはコモディティ化へ、技術屋は「クラウドを使う人を支える側」へ回ろう

2019年07月09日 13時00分更新

文● 阿久津良和 編集●羽野/TECH.ASCII.jp 写真●曾根田元

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de:codeの参加者の属性が変化してきた

ASCII羽野:今年のde:code 2019はものすごく申し込みが多かったと聞きました。観客の反応や変化は感じましたか?

MS平野:有償参加者の3分の1が初参加でしたね。今年は無償枠(EXPO PASS)を設けたため、有償参加者が減少すると思っていましたが見込み違いで、アーリーバード(早期申し込み割引)でチケットが売れ切れたのは久しぶりでした。ちなみにEXPO PASSは600名も集まり、どちらかといえば会場のキャパが限界で来訪者をお断りした次第です。

改めて、開発者のMicrosoftに対する関心度が上がってきたように感じました。特に古くからのMicrosoftファンではなく、例えばサーバーレス系コミュニティの方なども多く足を運んでいただきました。これまでAWSを向いていた開発者も来てくださったように思います。オープンシアターのAWS開発者向けAzureセッション(CD81 AWS技術者向けAzureサービス解説 de:code 2019版)も大人気でした(セッション動画)。

日本マイクロソフト クラウド&ソリューション事業本部 インテリジェントクラウド統括本部 部長 平野和順氏

FIXER横山:FIXERはEXPOにブースを出していましたが、訪れた方はクラウド未経験者が多く、それが強く印象に残りました。

MS大森:de:codeの観客が変わってきたという印象は私も持っています。おそらくMicrosoftに対する期待や見方が変化し、複数の開発言語やプラットフォームをお使いになるお客様も多いので、「面白そうだから来てみた」人が増えたように感じました。これまではMicrosoftというとWindowsやOfficeといった縛りがあるように思って敬遠されていた方々も、de:codeに関心を持ってくださるようになった気がします。

MS廣瀬:自分は前から非MSのギーク向けセッション担当なんで(笑)。Buildでブロックチェーンを取り上げるようになって4年が経ちます。ここ数年、de:codeでブロックチェーンのセッションを担当してきましたが、今年は特に「ギークがMicrosoftの方を向いてきた」ように感じました。あと、Microsoftの技術は「面白い」と感じて帰られたお客様も少なくなかったと思います。

FIXER横山:de:codeのあと、6月にAWS Summit Tokyo 2019にも行ったのですが、基調講演を比べると、Microsoftは技術にストイックであると感じました。

FIXER鈴木: Microsoftは「こんな技術がある。どう使うか」という話が多いんですが、AWSはビジネスの話があって事例に続く。企業の特色かなと思います。

MS廣瀬:Alex Kipman(Microsoft Technical Fellow, Cloud and AI)のHoloLens 2のデモもすごかったね。Alexがワカメみたいに増えた(笑)

MS平野:拓也さん(日本マイクロソフト 代表取締役社長 平野拓也氏)も踊ったしね。気付きました、社長をいじってもいいんだと(笑)。

■関連リンク

HoloLens 2でMRのビジネス活用シナリオが見えてきた

ASCII羽野:ここからは各トピックについて語ってもらいます。まずはMRから。

FIXER鈴木:Buildへ渡米する前から、今回はMRに関するソリューションが多数登場すると思っていました。Buildで横山がMicrosoft HoloLens 2の体験コーナーに並びましたが1時間半待ちと大盛況でしたね。

FIXER横山:HoloLens 1と比べてHoloLens 2の見え方は本当にキレイで、画素数がどうとか単に説明を聞くのと体験するのでは大違いですね。特にアイトラッキングがスムーズで快適でした。

FIXER鈴木:ジェスチャーやポインター数も増えましたから。UnityとVisual Studio 2017で容易に開発できるのも魅力です。

FIXER Marketing & Sales Division Technical Fellow, Evangelist 鈴木章太郎氏

FIXER横山:HoloLensのデバイス自体の進化もすごいのですけど、ビジネス活用への具体手的なシナリオが見えてきたのも重要な点だと思います。先日、HoloLensのユーザーセッション「Mixed Reality最新情報アップデート! ~HoloLens 2&MR Azure Services & Dynamics 365 MRビジネスアプリ&Unity開発について解説します~」に参加してきました(参加報告ブログ)。これまでMRに馴染んでこなかった開発者はHoloLens 2をどのようにビジネス活用するかイメージしにくかったと思います。しかし、Microsoft Dynamics 365 Remote Assistの具体的な使用方法などの説明をきくと、現場にいない技術者が遠隔地からサポートするシナリオなど、新たな雇用につながるソリューションがたくさん創出できると思いました。

「HoloLensのビジネス活用への具体手的なシナリオが見えてきた」

FIXER鈴木:AzureのHoloLens関連サービスも出てきました。特に、Minecraft Earthでも使われているAzure Spatial Anchorsに注目しています。これは、空間コンテキストでクロスプラットフォームを複合する技術ですが、アンカーを埋め込んで道案内を可能にするのはAzureのサービスとして存在感がありました。もう1つはAzure Remote Renderingですね。大規模なレンダリングをAzure側で処理し、エッジデバイスから呼び出すなど利用の幅が広いので期待しています。

FIXERにはもともとゲーム開発事業部があったので、MR開発のスキルと経験がある技術者が多いです。現在は組織再編して、ゲーム開発のメンバーはMaaS(Mobility as a service)などに携わっています。ですので、インダストリー向けのMRソリューションについても弊社にご相談いただければと思います。

Build 2019基調講演

AzureにIoT Plug and Playが登場した背景

ASCII羽野:IoT関連でも多数の新発表がありました。

MS平野:Build 2019では、多数のAzure Sphereパートナーさんがボードを出展していました。Azure Sphereボードを組み込制御装置の中に入れてセキュリティを強化し、インターネット経由のIoT化というシナリオは完成しています。

また、Azure上で作ったモデルをデバイス上で実行させるONNXプロジェクトのように、オフラインでも動くIoTデバイスが本格化してきました。これまでのIoTはCPUを持たない複数のセンサーで構成するイメージでしたが、CPUパワーもメモリも豊富に搭載し、それを使ったエッジコンピューティングでのIoTソリューションが本格的になりつつあるというのがBuild 2019の印象でした。

Build 2019ではAzure Sphereパートナーが多数のボードを出展した

MS大森:機械学習(ML)で作ったモデルをエッジデバイスで使いたい場合、ネットワークアクセスでは数秒かかってしまうのがネックになっていました。センサリングは秒、いやコンマ何秒の世界ですから、それに対する回答の1つが、コンテナ化したMLモデルですね。Windows MLやONNXといったMLモデル側と、Azure Kinectに代表されるハードウェアがそろい始め、Build 2019の会場でもVision AI Developer Kit を含めてこれらを使ったソリューションが展示されていました。コンテナ化したMLモデルとML Opsを組み合わせれば、現実的に現場に則した展開が可能になっています。

日本マイクロソフト クラウド&ソリューション事業本部 テクニカルエバンジェリスト 大森彩子氏

ASCII羽野:「IoT Plug and Play」というのもBuildで登場しましたね。

MS大森:IoTで最初につまずくのはクラウドへ接続する場面です。ネットワークの有効化確認から始まり、インターネット接続、Azureへの接続認証、応答するかどうか、とステップを踏まなければなりません。これまで弊社もデバイス別のSDKなどで支援してきましたが、技術進歩に追従していない部分がありましたので、すぐにIoTを始められるという目的で登場しました。

Azure IoTハンズオンを実施していた経験があるのですが、スタート地点としてホビーデベロッパーには“つながる感触”が必要です。私たちのようにクラウド側の人間は、IoTデバイスがAzureにつながると安心します(笑)。デバイス側の方はAzureにつながってからAzureに対する理解度を高める、という順番になるかと思いますが、いずれにせよ実体験として"クラウドとスムーズにつながる"という経験が、IoTソリューションを開発するモチベーション、原動力になると思います。IoT Plug and Playの登場はそのあたりをMicrosoftが考慮した結果ではないでしょうか。課題を解決しつつ、セキュリティと使いやすさの両立を提案している感じですね。

IoT Plug & Play

MS廣瀬:実際にIoTデバイスを1000台2000台とデプロイすると、コンフィグレーションも乗数的に増加するため人件費が馬鹿になりません。IoT Plug and Playが登場すると、「機器を買いました」「家に置きました」「何かボタンを押してね」「登録できました」という世界が実現します。

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